Fanfic

Desire

今は忘れたいたかった。

ただ、この一時(ひととき)だけは。

そんな思いが桃矢の頭の中をかすめる。

「・・・・・・」

恐らく、凌さんは知っている・・・。直感的にそう思った。

そしてそれがどんなに残酷であるのかも・・・。

自分の席へ向かうさくらの後ろ姿をぼんやりと見ながらそんな事を考えていた。

夜桜も見、花見もお開きになった。

今、さくら達がお世話になっている初芝家へと向かう。

はっきり言って他人が見たら物凄い光景だろう。

途切れる事のない人・人・人・人・・・・・。

「さあ、上がって」

蘭に言われるがまま初芝家の家へと上がる。

久し振りに来た、と桃矢は思った。

最後にここに来たのは5年前のあの事件が終わってからだった。

そして、その後まるで逃げるように日本から離れた。

それは確かに「逃げ」だったのかも知れない。

しかし、母やさくらと過ごしたあの家にはいられなかった・・・・・・。

思い出がありすぎ、辛かったのだ。

いくら決まりでも自分の母親の記憶を消去した事、そしてまだ何も知らないさくらに母親の事を告げる事は出来なかった・・・。

それを知らせるのはやはり酷(こく)なのだろうか。

自分で下した決断に、桃矢は迷っていた。

夜―――。

さくらが冷蔵庫の中を見ている。

「どうした? さくら」

「・・・・・・」

どうやらさくらは小狼の一件で相当怒っているらしい。

「そういう態度は良くないぞ」

「・・・・・・ふん」

「まあ、明日ゆっくり出来るといっても他人様(ひとさま)の家だからな。迷惑かけるなよ」

そう言ってその場を離れようとしたその時、さくらが口を開いた。

「・・・あのね」

「何だ?」

「ジュース買ってきてもいい?」

時計は夜の10時をとっくにまわっている。

「こんな時間にか?」

「・・・うん」

「太るぞ」

「・・・い、いいもん!」

お金は自分で出す、用が終わったらすぐに戻ってくるという条件付きで桃矢はそれを承諾(しょうだく)した。

「有難う!」

そう言って駆け去っていくさくらの姿を見たその瞬間、桃矢は妙な胸騒(むなさわ)ぎを覚えていた。

▲Page Top(T)

←Back(B)

© 2003-2006 sarasa