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コードIF 忠節のトウカ

事の顛末

『力ある者、我を恐れよ。力なき者、我を求めよ。我々は黒の騎士団。撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ』

ゼロから預かったディスク。それには黒の騎士団の発足を大々的に宣言した映像が納められている。記者会見場の巨大スクリーンで再生すると、それまで熱気がこもった場内の空気は一転して凍りついた。

そんな空気のなか、亮二はマイクを握り締めた。

「天津はあのホテルと警備契約をしていたため、事件をいち早く知ることができました。ゼロは最初、その情報を自分たちに提供するよう求めてきました。しかし私たちもゼロのことは知っていますのでそれを拒みました。ただゼロはゼロで情報を独自に持っていましたので、それらをお互いに共有し協議することで、私が犯人たちを説得するという結論を出しました」

亮二の言葉をうけ、一人の女性記者が手を上げた。

「天津警備会社は、黒の騎士団と繋がりがあると考えてよろしいのでしょうか?」

「それは微妙な質問です。今回は黒の騎士団の利害が一致したためこのような動きとなりましたが、今後はどうなるかわかりません。彼らが天津を味方だと判断すれば、接触もまた考えられるでしょう」

「ゼロは、ブリタニアに対して敵対行動をとっています。CEOご自身はイレヴンのようですし、味方と判断される可能性は高いのではないでしょうか?」

会場はどよめいた。だが、亮二は眉ひとつ動かさず答えた。

「私はイレヴンですが、ブリタニアを敵とは考えていません。もちろんイレヴンもそうです。もうひとつ言わせてもらえば今回の犯人たちも敵ではなかったと考えています」

会場はさらにどよめいた。

「私が首謀者である草壁氏と会った時、彼は自分たちのことを報道するテレビ番組を見ていました。そこで娘の解放を訴える父親の姿をみて非常に心を痛めている様子でした。さらに言えば自分の行動のため若い兵士たちを巻き込んだことにも苦しんでいた節があります」

解放戦線のメンバーをホテルから脱出させた手順はこうだ。まず彼らを従業員の制服に着替えさせる。そして人質とは別のボートに固めて、人質解放と同時にホテルの外へと出る。ボートの回収は浪川指揮のもと天津が行なっている。今頃解放戦線のメンバーはこちらが用意したホテルでこの記者会見を見ているはずだ。

「ですから、投降の際に起きた『事故』に関しては、私どもは悲しんでおります」

今度は中年の男性記者が手を上げた。

「今、『事故』という言葉を使われましたが」

「はい。私は説得の前にコーネリア総督に許可をいただくべくお会いしました。その時、投降した際はブリタニアの法律に則って対応するとお約束をいただきました。ですからあれは・・・」

これで一応コーネリアの面子を立てたことになる。この発言で、少なくとも不意打ちのレッテルを貼られることはなくなるからだ。

もっともあの銃撃も亮二が仕掛けたものだった。あの爆発でメンバーが死亡したと思わせれば、彼らの行方を追及するものもいなくなる。もちろん、トラックは空だ。

「さきほどの話にもどりますが、私たちはイレヴン、ブリタニア、どちらも敵対する存在ではないと考えています」

亮二は思い出していた。しばらく前に開かれたブリタニア皇帝の演説を。

「日本がイレヴンと名を変え、既に七年。多くの日本人にとって今だ忘れえぬ出来事です。しかし私はそれでも互いに手を取り合う未来を創造できぬかと考えています」

弱者、強者。そんなことをほざく皇帝に亮二は嘲笑をあびせた。これだからジジイの妄言は・・・。

「悲しみを忘れることは出来ないかもしれない。ですが悲しみを乗り越えることは出来るはずです」

皇帝、お前はなにをもって自分を強者とする? 身体がでかいからか、年齢を重ねているからか、知識が豊富だからか、子供がたくさんいるからか、ブリタニアの皇帝だからか?

「私の敵。それは悲劇を再び起こそうとする者です。憎しみは憎しみを呼び、悲しみは悲しみを呼ぶ。その連鎖を断ち切る。それが私たち天津警備会社の戦いなのです」

お前は強者か? だったら素手でヒグマに勝てるか? 無人島で一人生きていけるか、周りの人間から「お前なんて知らないよ」と言われて正気を保つことができるのか。

「みなさんにも守りたいものがあるはずだ。財産、地位、名誉、家族、けっしてお金には換えられないもの。私たちは皆さんの大切な何かを守っていきたい」

俺は知っている。人間は弱い。人間は一人では自我を保つことすら出来ない脆弱な存在だ。それを『日本』という国で嫌というほど思い知らされた。

この会場にいる全ての人間。みんな怯えている。大切ななにかを、理不尽な誰かに、自分の力の及ばない現実に、奪われはしないかと。小動物のように震えながら怯えているんだ。

「その途中で血が流れるかもしれない。悲しみが起きるかもしれない。ですが、私たちは恐れない。私たちは戦い続けます」

皇帝陛下殿。その幾年もかかって端整に積み上げた妄想を、俺たちが煎餅を割るがごとく破壊してやるよ。死にぞこないのジジイに世界をかき回されてたまるか。

「日本、イレヴン、ブリタニア。その全ての人々が暴力に怯えることなく安全に暮らせる日常を目指し、我々天津警備会社は戦い続けるのです。それが我々の使命なのです」

亮二の言葉が終わると、一人の記者が大きな拍手をした。イレヴンの記者だ。だが、次の拍手は隣にいたブリタニア人の記者からだった。二人の拍手に釣られ、またどこかの記者が拍手をする。そして記者会見の場は巨大な拍手の渦に包まれた。

全員が安心していた。自分たちを守る存在が目の前にいることに。ブリタニアの力の理論は、イレヴンどころかブリタニア人も救わない。それを知っている者にとって、全ての人を守ろうとする亮二の言葉は涙が出るほど嬉しいに違いない。

亮二がゆっくりと右手をあげる。呼応するようにさらに大きくなる拍手。その光景は、まるで英雄をたたえているかのようであった。

〜第8.5景・完〜

…第9景につづく

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