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コードIF 忠節のトウカ

あの夏の日

六年前のあの日を、刀花はよく覚えていた。

宣戦布告から一年。一応の落ち着きはあったが、各地でデモが頻発し、軍が鎮圧にあたっている様がテレビに映し出された。それでも刀花は、それがどこか別世界の出来事のように捉え、日々を生きていた。

その日も、刀花と鈴火は授業が終わるといつものように竹刀袋を背負い、志藤家にある道場へと歩いていた。道場には、刀花にとって師であり父でもある志藤刀治郎がいる。

刀花は五歳のとき、施設から養子として志藤家にやってきた。その時に以前の名前を捨て、志藤刀花という名前を賜った。

志藤流は、志藤家の血筋をもつものが宗家となるのが決まりだ。だが、刀治郎には子どもがなく、刀花は次期宗家となるため、志藤の家へ迎え入れられた。

施設に来る前の生活を刀花はよく覚えていない。薄暗い部屋、怒鳴る男、いつも泣いている女。そんな記憶が断片的にあるだけだ。刀花の人生は、志藤家に入り始めて手にしたといっても過言ではなかった。感謝の気持ちは強い。だが同時に疑問もあった。なぜ、自分が次期宗家なのか。女の宗家がいなかったわけではないが、男の方が一般的だ。過去、その理由を刀治郎に尋ねたが、答えてはくれなかった。

志藤家の門が見えた。だが、見慣れぬものもあった。ブリタニアの軍用車だ。刀花は車内を覗いたが、無人だった。

二人が門をくぐると、錆びた鉄のような臭いが流れてきた。刀花と鈴火は顔を見合わせた。

「携帯で、他の方に連絡する」

異常事態を察知し、恐怖する鈴火。刀花は竹刀袋から木刀を取りだし、室内戦に備え下に構えた。

志藤家は静まり返っていた。通常なら、刀治郎のほかに身の回りの世話ををする人間が二、三いるのだが、どの気配も感じなかった。

「考えられるのは、公用の間だ。もし、先生に危険が迫っていたら・・・命がけでいくよ」

鈴火は震えながら頷いた。志藤流を学んでいる身、大の男でも相打ちなら可能だと刀花は考えていた。

公用の間に近づくと、臭いは強いものになっていった。なにかある、刀花は廊下の曲がり角で立ち止まった。ここを曲がれば、公用の間の正面となる。刀花は木刀を構え、踏み出した。そして・・・。

刀花は見た。血にまみれ、肉塊が散乱する公用の間を。

後ろで、だん、と音がした。鈴火が気絶したのだ。刀花は早まる鼓動を抑え、その肉塊の正体を確かめた。頭数から三人。どれもブリタニアの軍服を着ている。どうやら一刀の元に斬られたようだ。

「刀花・・・か」

奥に、刀治郎が刀を手に座り込んでいた。

「先生!」

刀花は駆け寄り師の身を案じた。刀治郎の服は血で赤く染まっていたが、無傷のようだった。

「奴らめ。我らの宝刀『夕顔』を持ち去ろうとしおったわ」

刀花は事情を飲み込んだ。夕顔とは志藤家に伝わる家宝だ。観賞用の刀だが、そんな区別などないブリタニアが武器という名目で没収しようとしたのだろう。

「おのれ・・・。おのれブリタニアめ!」

刀治郎の怒声に屋敷全体が揺らいだ。齢七十に近いというのに、なんという力だ。刀花は落ち着かせようと、刀治郎の左右の手を握った。左右の手は小刻みに震えていた。

(まずい、持病の発作だ)

「先生!」

飯田だった。毬尾や高津もいる。

「発作です。早く薬をっ」

刀治郎の震えは痙攣のようになっていた。だが、

「おおおおおぉぉぉぉぉ!ブリタニアぁ!」

叫びはいつまでも続いていた。

その後は時系列でしか覚えていなかった。高津と毬尾は死体の処理を、飯田と刀花たちは公用の間の清掃にあたった。刀治郎は薬を飲んでからも、しばらく呻いていたが、夕暮れ近くにはさすがに寝息を立てていた。

五人が一息ついたのは深夜だった。遅い夕食に皆が箸をぼそぼそとつけていると、手伝いの小田が部屋にやってきた。

「先生が皆様をお呼びです」

部屋で、刀治郎は志藤流の正装に着替え座していた。

「大方の事情は知っているだろう。この侮辱、決して許しておけん」

そして、言った。

「首だ。ブリタニア皇族全ての首を持ってこい。志藤流を侮辱した罪、奴らの『血』をもって償わせてくれる」

刀花は青ざめる想いだった。刀治郎の目には焼け付くような光が宿っている。命令の遂行、それしか五人に道はなかった。

「ブリタニアめ、その血筋根絶やしにしてくれる」

刀治郎の閉じられた口から、血がいく筋も線を引いて流れた。

あの日から、自分たちの戦いがはじまった。日本人として生まれ、志藤流として生きてきた者達。決意があっても、迷いがないわけではない。恐怖がないわけでもない。それでも戦う。なぜか。

「それが先生の命令だからだ」

刀花にとって充分すぎる理由だ。

〜第3景・完〜

志藤 刀治郎

74歳。志藤流宗家にして、刀花の義父。発作を伴う持病があり、普段は寝たきりとなっている。苛烈な性格で刃を振るうことにためらいが無い。

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