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異界の者に想いをはせて

瑚泉が退室したあとも知世は黒鋼の部屋にいた。

「まだ何か用か、姫?」

黒鋼は窓枠に腰かけ、部屋の真ん中に立つ知世に目を向ける。

「貴方はどうなさるんですの?」

唐突に姫はそう問いかけた。黒鋼は「何が?」というように首をかしげる。

「これからです・・・また、旅立ってしまわれますの?」

知世は少し寂しそうに顔を伏せる。

「旅立つって・・・お前が無理矢理旅立たせたんだろう?」

「そう・・・ですわね。」

知世は小さくくすくすと笑った。

「確かに日本国に戻ってくることが旅の目的だったが、あいつらをほっとく訳にはいかんだろう。」

「貴方がそう仰るなら止めはいたしません。・・・また、静かになりますわね。」

知世は黒鋼の座っている窓に近づき、月を眺める。

「随分と大人になったじゃねぇか?昔は城を少し離れるだけで文句を言ったのに。」

黒鋼はからかうような笑みもらす。知世は少しすねたように黒鋼を軽く睨んだ。

「私だって15歳ですよ。もう子供じゃありません。」

「いや、16だ。誕生日おめでとう、知世姫。」

「え?」

知世は黒鋼の部屋の時計に目を向けた。時刻は0時を少しすぎたところ。

今日は9月3日。知世の誕生日だった。

「忘れてましたわ・・・最近は忙しかったですから。」

「そうだな・・・まぁ蓮王は死んだし、これで少しは落ち着く。」

「そうですわね。・・・それにしても黒鋼。私の誕生日を覚えていてくれたんですね?」

知世はとっても幸せそうだ。さきほどの寂しそうな雰囲気はもうない。

「まあな。今年は手紙も送れんしどうしようかと思ってた。まぁ運良く帰ってくれたから助かったが。」

「手紙の事を覚えているんですか?」

「ああ。」

知世は驚いた。黒鋼が手紙の事を覚えているなんて。昔のことは忘れていそうな性格なのに・・・

「手紙なんて書いたのはあれ一度きりだったからな。」

「まぁそうですの。」

知世は心底幸せそうだ。黒鋼のたった一度の手紙が自分のために書いたものだから。

「私、あのときの紅葉もちゃんと栞にして持っておりますのよ。」

「あんなもん捨てればいのに・・・わざわざ。」

黒鋼はあきれたように微笑む。

「そんなもったいないことは出来ませんわ。貴方がくれた唯一の誕生日プレゼントですもの。」

誕生日は側にいて「おめでとう」と言葉をくれる。しかし、何か物を貰ったことは無かった。それが黒鋼の性格と理解はしているので、特に残念な訳ではないが、貰えるならそのほうが嬉しい。

「そだったかな・・・姫は何か欲しいのか?」

過去一度だけこの質問をした。11歳の誕生日、手紙を送った次の年の誕生日。

知世は「なにもいらない」と「だから今日一日中側にいて遊んで」と言った。

さすがに、もうそんなことを言わないだろうが。

「そうですわね・・・特に何も。」

本当は旅に出ずに側に居て欲しいとは願わない。それを言うと黒鋼は困るから。

「そうか・・・。」

「でも、もし願うなら、なるべく早くに帰って来て下さいね?・・・私が貴方を旅立たせたのは学んで欲しいことがあったから、今の貴方はそれを少し学んだよう、次に帰ってくる頃には私が望んだ答えを下さい。それを私への誕生日プレゼントにして下さい。」

そんなものでいいのか?と問いかけるような黒鋼に微笑みを返す。それが一番の贈り物ですと言うように。

「そろそろ失礼致しますわね。・・・・ああ、忘れてましたわ。」

知世は部屋を出て行こうと扉に向かう途中、何かを思い出したように黒鋼に向き直った。

黒鋼も知世が何を忘れていたか理解し、窓に座っていたのを床に座り直した。

「貴方にはもう必要ないかもしれませんが・・・」

知世は黒鋼の額に手を当て、呪を再びかけ直そうとする。

しかし、その手を止め呪い(まじない)を呟き、そのまま黒鋼の額に口づけた。

黒鋼はそれが自分に再び呪を施すものだと知っていたが抵抗の素振りは見せなかった。

黒鋼は思う。この呪は異界にいる自分たちをつなぐ絆なのだと。絆ならば呪も悪くはない・・・最近は殺さず倒す事にもなれてきた、呪があってもさほど困らない。これが知世の望む答えに近づいている証拠なのだろうか。

「すぐ帰る。」

黒鋼は立ち上がり知世の頭を撫でた。子供の頃はこれをすると知世はとても喜んだ。

「もう子供ではないと言っているのに。」

そういいながらも知世は嬉しそうに笑う。

「そうだな・・・・」

黒鋼も知世に向かって微笑んだ。知世は黒鋼が頭を撫でるのを止めると、黒鋼の胸に頭を寄せた。

「・・・無事に私のもとに帰って来て下さいね?そして、次の誕生日も言葉をください。おめでとうの言葉を。」

「来年だけか?」

「いいえ・・・私が命を終えるまでずっと。」

「ああ・・・約束する。」

黒鋼も知世を優しく抱きしめる。しばしの別れを惜しむかのように。

「それでは皆様、しばしの間でしたが本当に楽しかったです。お気をつけて旅を続けて下さいませ。」

出発の朝。白鷺城の玉座で別れの言葉を交わす。黒鋼はともかく、サクラたちとは多分もう二度と会えないだろうから。

「こちらこそ楽しかったよ。本当にありがとう、知世姫。」

サクラは知世の手をギュッと握りしめる。せっかく友達になれたのに、お別れはとても寂しかった。

「そろそろ行くよ〜〜」

モコナはなかなか知世から離れようとしないサクラに急かすように声をかけた。

それを聞いて、サクラは本当に名残惜しそうに知世の手を離し、モコナ達の方に走っていった。

空間移動に巻き込まれないよう、知世達はモコナ達とは離れたところから見送っていた。

サクラが大きく知世達に手を振っているので、知世も手を振り返す。年の近い少女が城にはあまりいないのでサクラに会えて知世も嬉しかった。

サクラ達の周りは大きく口を開いたモコナがサクラ達を吸い込もうとするので風が舞う。

知世は黒鋼に目を向けた。旅の別れは昨晩すませたので今日はとくに何も話さなかった。

今生の別れではないのだがやはり寂しい。

そう思ううちに黒鋼達はモコナの中に消えていき、そのモコナも光の粒子を降らせその場から消えた。

知世は黒鋼達がいた場所まで足を運び、モコナの残した粒子と温かい太陽の光を浴びる。

そして、空を仰いだ。

『私は貴方の帰りを心から待っております。』

姫はただ異界に旅立った愛しい者に想いをはせる・・・・

〜Fin〜

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