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異界の者に想いをはせて

「馬蝶(ばちょう)」

知世がそう呟き札を投げる。するとその札は蝶のツバサを生やした馬となった。

「この馬蝶があなた方を蓁蓮の国境近くまで送ります。それ以上は式神の力はとどきません・・・」

「そこからは俺らで何とかする。帰りは4日後に国境ちかくに式神を用意しといてくれ。」

「分かりましたわ。・・・気をつけて。」

知世は黒鋼の手を取り、それを両手で包み込む。そして、小さくなにかを呟く。

呪をかけた訳ではなく、ただのおまじない。無事の帰還を願うモノ。気休めにしかならないが、知世にはこれ以上の事は出来なかった。

「すぐ帰る。」

黒鋼はその手を一度強く握り、もう一方の手で知世の頭をかるく撫でる。

「・・・行くぞ。」

黒鋼の乗っている馬蝶に続き、ファイと小狼も飛び立つ。

日本国の南。蓁蓮の国を目指して。

「・・・どうかなさいましたか、サクラ姫。」

黒鋼達が旅だった日の昼。サクラは白鷺城の大きな池の真ん中にある小さな建物にいた。

そこは、池の周りの木々を見て楽しんだり、休憩を取る場所。

しかし、サクラは用意されたお茶に手をつけるわけではなく、ただぼ〜っと池を眺めていた。

「小狼くん達大丈夫かな?」

「大丈夫ですわ。彼らの力は私よりも一緒に旅をしてきた貴方の方が知っているのでは?」

知世はすっかり冷めてしまったサクラのお茶を新しいものにかえ、サクラに手渡す。

「うん。・・・でも心配だよ。」

サクラは受け取ったお茶を口に運ぶ。温かいお茶が少しだけサクラの心をほぐした。

「・・・今は信じましょう、彼らを。」

「そうだね。絶対に大丈夫だね。」

それは無敵の呪文。信じていれば・・・絶対に大丈夫だよ。

〜夜〜

「見えたぞ。あれが蓁蓮への国境だ。」

眼下に見えるのは、長々と続く城の塀。まるで大地が二つに分かれているようだった。

3人は馬蝶に命じ、国境より少し離れたところに降りた。

「頭領。」

そう控えめに黒鋼を呼ぶのは瑚泉だ。瑚泉以下数名は、知世の命により先に国境付近に潜伏し、潜入の手はずを整えていた。

「国境の兵に飲ませた薬がじき効きます。明け方までは目を覚まさぬでしょうが、なにがあるか分かりません。お急ぎ下さい。」

全身を覆う黒いフードを手渡されそれを身に纏う。

闇に紛れて蓁蓮へと侵入する。国境をわたれば蓮王の住む塙明城(こうめいじょう)は目と鼻の先だ。

「お気をつけて・・・・・」

瑚泉達はそう言うと、黒鋼達が戻ってくるまで姿を隠すため、近くの集落に向かった。

疲れているのだろうか、瑚泉の表情は冴えない・・・・

黒鋼達は塙明城への道を歩く。

黒のフードを着ているし、明かりもともしていないので、誰かに自分を見つけられるはずもない。念には念をかさね城下の表通りではなく、裏道を通っている。これなら敵の刺客もこないだろう・・・そう思っていた。

しかし、この暗がりの中、3人は襲撃をうけていた。

敵は10人。黒鋼は刀、小狼は蹴りと刀を使い分け、ファイは白鷺城で貰った手裏剣をつかって応戦する。

もともと力が違いすぎたのだ、刺客はあっという間に倒された。

黒鋼は倒れている忍の胸ぐらを掴み、装束の内側を確認する。そこには蓮の刺繍。

これは確かに蓁蓮の塙明城から送られてきた者達だった。

(今回の侵入は極秘のもの・・・官吏達も知らないはずだ。じゃあこいつらがここにいたのも偶然か?)

偶然にしてはできすぎている・・・このような裏道に待ちかまえていたように10人もの刺客が普通いるだろうか・・・こちらの動きがまるで敵に筒抜けのような気がした。

黒鋼は地図に右に曲がれと書かれていたら左に曲がり、左と書かれていれば右に行った。

「黒鋼さん、どこに行くんですか?貰った地図では、こっちの裏門から侵入するって・・・」

「どうもおかしい・・・その地図どうりに刺客が待ち伏せてやがる。こっちの行動が敵にしれてる。そうじゃなきゃ、敵に3回も出くわすか!」

初めての襲撃の後、敵に有利そうな場所で2回襲撃をうけた。これは明らかにおかしいと判断し、黒鋼はもう一方の裏門に向かう。その際に敵をまくため、でたらめな道を通った。

「あれがもう一方の裏門だ。警備もその地図に書いてる門より厳重だから、できれば使いたくなかったが・・・」

大きくそびえ立つ門をみる。裏門と呼ぶには大きすぎるだろう。城の正門と言われても納得するほど立派なものだった。

「のろのろしてると敵が一気にくるぞ。真っ直ぐに玉座に向かう・・・追っかけてくる敵は気にするな。前の敵と、後ろから飛んでくる飛び道具だけ注意しろ。」

黒鋼はそう言うと先陣を切って門に走った。門番が振り向く前にそののど元を切り倒す。

もう一人の門番が緊急事態を知らせようとするが、とんできたファイの手裏剣によって倒される。

「行くぞ!」

門はゆっくりと開かれ、その中には大きく塙明城がそびえ立っていた。

門を開けた途端、中の警備の兵達が一斉に襲ってきた。

さすがに機械文明の発達した国だ・・・銃などの武器が多い。しかし黒鋼達が纏っている防具は少し特殊なもので、多少の攻撃からは身を守れる。

3人は自分たちの行く手を阻む門立てを倒し、真っ直ぐに玉座に向かった。

玉座の扉の前には侵入者の知らせを受けた王の側近の兵達が待ちかまえていた。

「『黒き龍』・・・日本国の黒鋼か。旅から戻ったというのは本当だったのだな。」

兵達の中でもリーダー格の男は黒鋼をみて話す。

「黒き龍」とは黒鋼の二つ名。他国の者達がその力を恐れ、また、他流派の忍達もあこがれるほどの強き者におくられた異名・・・日本国の近隣国で黒鋼の名を知らぬ者はいないほどだ。

「・・・俺をだれだか知ってんのか?だったら話は早い。死にたくなければとっとと王を捨てて逃げろ。」

敵を前にしてなお余裕の表情をみせる。敵ではない、そう言うような笑みだ。

「そういう訳にもいくまい・・・日本国などおまえがいなければなんてことはない。わざわざ敵の巣に突っ込んで来るとはおろかだな・・・貴様の首ここでとってくれるわ!!」

その男が剣を抜き向かってくると他の兵達も黒鋼達に襲いかかった。

「黒鋼さん!!」

小狼が止めるのも聞かず、黒鋼は前に出る。

刀を顔の前に真っ直ぐに構え、ゆっくりと弧を描くようにおろす。恐ろしいまでの殺気と闘気がその刀に宿った気がした。

刀は使い手が愚かだと死ね。生きた刀こそが真の力を発するのだ。刀をしるものなら黒鋼刀を見てなんと思うだろうか。

刀身が脈打つように煌めく(きらめく)本当に命があるような刀だ。

おろされた刀身は一瞬床を擦ったと思うと、目にもとまらぬ速さで振り上げられた。

「翔華・黒龍閃!」

振り上げられた刀身からは闇のよりも漆黒の龍が放たれた。

ただの衝撃波のはずだが、その黒龍は生きているように目の前の敵達を食らっている。

龍が消えたかと思うと前方より襲ってきた敵は全て倒れていた。否。絶命していた。

「・・・てめぇごときが俺を、日本国を討てるとでも?笑わせるな。」

黒鋼はそう吐き捨てると、後ろで武器を構えている兵士達をひとにらみした。今の光景を目にした兵士達はすでに士気はなく、黒鋼に睨まれただけで武器を捨て逃げていった。

「す・すごいね〜黒りん。」

さすがのファイも今のには驚いたらしく、笑みは引きつっている。

「・・・行くぞ。」

ファイの態度を特に気にした様子を見せず、黒鋼は扉に手をかけた。

部屋の中には王を守る兵とその奥の玉座に居るのは・・・

「蓮王・・・。」

黒鋼は鋭い表情を崩さず、周りの兵に目もくれず、ただ玉座の王を睨んだ。

扉の外に見える惨劇にを目にし、王の周りの兵達は逃げるように部屋から出て行った。

「ま、まて!どこに行くのだ!!」

一人玉座に王は取り残された。

「何をしにきたか分かるな?蓮王。」

ずかずかと玉座に上り、王を蹴り倒すとその首に切っ先を突きつけた。

「く、黒鋼・・・・他の兵は何をしておる!!!」

王の声はただ広い部屋に響くだけだ。

「あんな雑魚で俺の相手がつとまると?なめられたもんだな。」

さらに刀を持つ手に力を込め、蓮王の首に突きつける。王の首から一筋の血が流れ玉座を汚した。

「質問だけに答えろよ?・・・日本国が蓁蓮に送った使者、憐抄はどうした?」

「・・・死んだ。仕方ないだろう!!私の国を探ってるんだ!」

生かされている事を心の片隅に期待していたが、どうやら無駄だったようだ。

「その後の刺客もか?」

「・・・ああ。」

蓮王はその蒼白の顔を力無く立てに振った。

「こちらに情報を流していた官吏は誰だ?」

何故か蓮王は元気を取り戻したように顔を上げ答えた。

「右大臣の夕珀(せきはく)だ。」

夕珀の顔を思い浮かべる。いかにも悪人顔の薄汚い奴だ、下の連中から賄賂(わいろ)を受け取っていると情報が入ったので、監視の忍をつけたと知世が言っていた。

「・・・まて、おかしい。数週間まえから夕珀には監視がついている、別件でだが。蓁蓮に情報を流していたならバレるはずだ・・・・」

「そうだ・・・・」

蓮王はそのかおに笑みを浮かべる。まるで黒鋼を馬鹿にしたように。

「・・・まさか他に、情報を流している者がいるのか?」

「ああ・・・そいつの名は――――。」

黒鋼は・・・絶句した。

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