Fanfic

異界の者に想いをはせて

「・・・そう言えば、さっきの食事の時に言っていた"せっしょう"ってなんですか。」

思い出したように小狼は尋ねた。

「摂政・・・王が幼かったり、女だったりした場合は、そいつが政を取り仕切る。俺らの姫は即位したとき12歳だ。子供のうえ女なんて、本当は摂政をたてなねぇといけないんだが・・・」

黒鋼はそこで言葉を切る。これ以上の事はあまり話したくはなかった。

「お姫様言ってたよね〜、摂政を決めれない理由があるって。」

ファイは時々鋭いと黒鋼は思う。言わないでおこうと思ったが、話して状況が動く訳ではないと考え、口開いた。

「臣下の中に、玉座を狙ってる奴がいる・・・姫は摂政に全てを任さなきゃいけねぇんだが、誰が玉座を狙ってるか分かんねぇのに、国の全権を託す事は出来ねぇんだ・・・しかも摂政は常に、姫の側にいて代わりに政を取り仕切る。信頼できねぇ奴をあいつの近くに置くことはできねぇからな・・・」

苦い表情を崩すことはない。

裏切り者は玉座と同時に知世の命も狙っている。摂政として側に置かなくても、そいつが城の中にいるというだけで不安だった。

(その裏切り者が蓁連と通じてるのか?知世の話だと、大量の兵達が城を開けたのを狙って刺客が送られてきたって・・・一体誰が・・)

〜白鷺城・黒龍の間(黒鋼の部屋)〜

「黒鋼・・ちょっとよろしいでしょうか?」

月が城の真上にきた深夜、知世は黒鋼のもとを訪ねた。

「知世姫?こんな時間に・・・何かあったのか?」

武器の手入れをしていたのであろう黒鋼は、磨いていた刀を鞘にしまう。

「少し相談したいことが・・・」

部屋に入ってから顔は伏せたまま、あまり良い話ではないのだろうか・・・

「あの刺客達のことか?」

知世は答えない。しかし、その沈黙が肯定を示していた。

重々しく知世は口を開く。

「刺客が蓁連のものだという本当の意味での確信は、今日の忍の装束にあった蓮の刺繍です。しかし、以前から確信はありましたの・・・・黒鋼、憐抄(れんしょう)を覚えていますか?」

憐抄とは、瑚泉を上回る実力の持ち主で、城の忍達のなかでは黒鋼、蘇魔に次いでの強さを誇っていた。

「憐抄か・・・覚えてるぜ。そういえば、今日は見ないが・・・地方の乱の鎮圧に送ったのか?」

知世は少し瞳に涙を浮かべる、そしてこんどは弱々しく呟いた。

「憐抄は・・・死にました。」

「な!憐抄が!!あいつが簡単にやられるわけが・・・」

「蓁連に送ったのです・・・使者として。帰ってはきませんでした。」

瞳にたまっていた涙は、知世が瞬きをするたびに、その白い頬をつたって落ちる。

憐抄は黒鋼、蘇魔と共に常に知世の側にいた忍びの一人だ。

「蓁蓮の王は使者を斬ったのか!なんで黙ってるんだ!蓁蓮の刺客がいまだ送られて来るということは、蓁蓮には何も言わなかったのか!?」

「もちろん言いましたわ!しかし"そのような刺客は知らない"の一点張り。そんなことは嘘だと分かっています。しかし、その嘘を証明する証拠も私には持ち合わせていませんの・・・だから・・・だから。」

ぽろぽろと流れ落ちる涙は絶えることはない・・・黒鋼は罰の悪そうな顔をして、涙を拭ってやる。

「怒鳴って悪かった・・・憐抄の事は残念だ。だが、今回の戦闘で敵が蓁蓮だという証拠が出来た・・・これで蓁蓮文句を言ってやれ。」

「そうしたいのですが・・・そうもいきませんの。」

相談の本題はこちらなのだと知世は語り出す。

「そうもいかないって・・・なんでだ?」

蓮の刺繍は黒蓮忍軍。黒蓮忍軍といえば蓁蓮国。

どの国の者も知っている常識。その刺繍が見つかったのだから、蓁蓮に言い逃れは出来ない。それなのに知世は駄目だという。

「危険だとは思いましたが、憐抄の後にも蓁蓮に沢山の者を送りましたわ。使者ではなく刺客として。・・・王の首を取れなどと無理は申しておりません。日本国に忍を送ってるのが蓁蓮と言う証拠が欲しかっただけ・・・情報が得られなくてもいいので深追いはするな、と私は命じました。しかし、一人として帰ってきませんでした。」

知世は刺客として送った者の名を一人ずつ言っていく。中にはトップクラスの実力の持ち主もいた。そんな彼らが帰ってこなかったということは、深刻な問題だった。

蓁蓮にそのような力があっただろうか・・・そのように強大な力が・・・

「私はこれ以上の犠牲をだしたくなかった、ですから今度は刺客ではなく、私の式神を送りましたの。蓁蓮の機械では、魔のものは防げないはずでしたから・・・でも。」

「無理だった?」

知世は無言のまま首を縦に振る。

「蓁連は強い魔力によって守られています・・・あの国は魔力の加護を失ったはずですのに・・・私の式神を寄せ付けないほどの強い力が。」

知世の力は黒鋼も知っている。そのきになれば、式神を使って、他国の者を仕留めることが出来るほどに・・・その知世の式神を破るような強い力があるとは・・・

(そんな強い力がどこに?・・・強い、力?強い、魔力?)

黒鋼は何かを思い出したように顔を上げた。それほどまでに強い力に心当たりがあった。

「知世姫・・・少しその"強い力"とやらに心当たりがある。」

「・・・・え?」

黒鋼は自分たちの旅の目的を知世に話した。

モコナの力によって自分たちが日本国に来たことも、その目的がサクラの「記憶の羽根」を探す事。そして、その羽根には強い力があることも・・・・

「サクラ姫の記憶の羽根・・・そうだったのですか。」

「どっかの国でも、その羽根を得た奴が羽根の力で、でしゃばってやがった。」

「そのように強い力なのですね・・・ではどうすれば。」

知世は心底困ったように考え込んだ。そのような力にどうやって対抗すればいいか・・・

「城から刺客を出す必要はない。あの小僧と俺たちで行く。」

それに、羽根の事を話せば小狼は自分が行くと言い出すだろうと付け加えた。

「しかし・・・客人にそのような危険な事をさせるわけには・・・」

「本人が行くと言えばいいだろう?」

城の者を出しても犠牲を増やすだけだと思い、黒鋼達に行かせることを考えておくことにした。

「黒鋼・・・一つ聞いても?」

黒鋼の部屋をでる時に知世は尋ねた。

「今日、サクラ姫に"王様をしてるなんて凄い"それに"偉い"と言われましたわ。」

黒鋼は知世がなにが言いたいのか想像がつきすこし顔を苦くする。

「黒鋼は私が王になった時に何も言っては下さいませんでしたね・・・どうしてですか。」

知世はただただ黒鋼を見つめるが、黒鋼は逃げるように顔をそむける。

「どうしてですか?」

返事をしない黒鋼にもう一度尋ねた。

「・・・知世姫は王になりたかったのか?」

「それは・・・私は・・・」

その質問に、こんどは知世が顔をそむけた。

「王になれるのは私しかいなかったから・・・」

「俺はおまえはどうなんだって聞いてるんだ。王位継承者がおまえしかいないのは俺だって知ってた。」

それは・・と知世は言葉につまる。

「どうなんだ?」

先ほどとは反対に黒鋼が再び尋ねた。

「出来れば・・なりたくはなかったですわ。一国の国主なんて私には荷が重い・・・」

やっぱり、と黒鋼はため息をつく。

「なりたくない王になったおまえに、なんて言葉を贈ればいいんだ?」

知世は思い出す。自分が王に即位したとき、黒鋼は随分とつらい表情だったことを・・・今はそれほどでもないが、当時は本当に王になるのが嫌だった。つらかった。

だからといって、慰みの言葉は自分の王になる決意をこわす。

黒鋼はくれたのだ。無言という言葉を、絶対の忠誠と共に。

「黒鋼・・・」

「・・・ん?」

「ありがとうございますわ。」

今夜の月は本当に美しいと思う、知世が即位したときと同じように。

「ああ・・おまえはよくがんばってる。」

即位4年で始めてくれた言葉。いままで誰がくれた言葉よりも温かかった。

「サクラ姫の羽根!本当ですか黒鋼さん!?」

知世が黒鋼の部屋を訪れた翌日。蓁蓮が急に手に入れた強い力の事を、小狼に話した。

「確証はねぇがな・・・まぁ多分ビンゴだろう。蓁蓮には魔法が使える奴がいないのに、姫の式神を破る力を持っている奴が居るのは変だ。・・・どうする?」

「行きます!」

小狼は即答する。大切なサクラの記憶・・・考える必要がどこにあろうか。

危険だろうが、そこに羽根があるのなら行くだけだ。

「・・・だとよ知世姫。本人がこう言ってんだ、いいだろ?」

知世は少し考えてから承諾する。

「分かりましたわ・・・あなた方にお願いします。くれぐれも気をつけて下さい。」

出発は明日の夜。船ならば数日かかる距離だが、知世の式神が近くの国まで送ってくれるので、1・2日で着けるだろう。

「私も行きます!」

サクラは先ほどから何度も申し出るが、小狼は決して許さなかった。

「駄目です。危ないですから姫はここに残って下さい。」

小狼にこう何度断られても、サクラはあきらめる気にはならなかった。

自分の記憶の為に他人ばかりが危険な目にあうのが嫌だった。

「必ず戻ってきます・・姫は帰りを待っていて下さい。」

とうとうあきらめたようにサクラはうなずく。

「絶対に帰ってきてね・・・」

そうサクラに言ってもらえるだけで、小狼に絶対に負けられないという思いが生まれる。

(大丈夫・・・絶対に帰ってくるよ。サクラ)

その夜〜黒龍の間〜

「黒鋼。蓁蓮に行く前にしなくてはならないことが。」

昨晩と同じように夜遅くに知世は黒鋼の部屋を尋ねた。

普通は女人が夜分遅くに男子の部屋を訪れるのはあまり良いことではないが、知世はたいして気にしていないようだった。よほど黒鋼の事を信用しているのだろう。

「なんだ?」

「黒鋼こちらに来て膝を・・・」

黒鋼は言われるがままに知世に近づき膝をついた。

知世は黒鋼の額に手をおくと、小さく何かを呟いた。すると、黒鋼の額に紅い紋がうかび、その色が黒色に変わると消えた。

「な、なんだ?」

「貴方にかけた呪を一時的に解いた・・・いえ、封じました。ですので、呪はまだ貴方にかかっています。でも、私がもう一度解放するまでは、呪の効力はありません、ですから・・・」

「人を殺しても大丈夫・・・・蓮王(れんおう)の首をとれ?」

知世は静かに首を縦に振る。

蓮王とは蓁蓮国の王をそう呼ぶ。蓁王と呼ぶ者もいるが、蓁蓮の国花が蓮であることから蓮王と呼ぶ者の方が多い。

知世はその黒い瞳を闇夜のようにさらに暗く輝かせる。

「人を殺める(あやめる)というのは良い気がしませんが・・・これ以上我が民に犠牲をだすわけにはまいりません。黒鋼、我が名において命じます。蓮王を・・亡き者に。」

「・・・御意。」

黒鋼は頭を下げ静かに微笑む。もとより主の代わりに手を汚すのが忍の役目。

黒鋼は蓮王を殺めることになんら抵抗はない。それが知世の命を狙う敵ならなおのことだ・・・

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