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異界の者に想いをはせて

「とう・・・りょう?」

突然姿を現した自分たちの頭領に、瑚泉は目を丸くする。

目の前にいるのは確かに城の忍の頭領・黒鋼。見間違うはずはない、瑚泉はずっと彼の背中を追って育ってきたのだから。

「瑚泉か・・・随分と苦戦しているようだな?」

口端をあげて、いじめるような口調ではなす。この戦闘の最中に緊張のかけらも見せない。

「てめぇらもだぞ!こんな雑魚相手に白鷺の忍が苦戦を強いられるとは、俺のいない間に、姫の身ひとつ守れない弱者に成り下がったか!」

城の忍全員に聞こえるように声を張り上げて怒鳴る。

「守りに徹する事が白鷺の戦い方か?攻めねぇと守るもんも守れないぞ!」

「『ひゅ〜』頭領かっこい〜」

ちゃかすようにファイが言う。口笛が吹けないのでわざわざ声で言って。

「てめぇが頭領言うな!!おまえみたいなおちゃらけの頭領になった覚えはねぇ!」

そう言いながらも黒鋼は、知世に襲いかかる敵を切っていく。急所をはずし、致命傷にならないように。

「ぐぁ!こいつら強いぞ!」

小狼も応戦する。サクラを守るため、少しづつ後退しながら、敵を蹴り倒していく。

黒鋼達が加わった白鷺の者達は徐々に押し返し始め、30分後、敵は全員撤退していった。

「おかえりなさい黒鋼。」

戦闘は終わり、血に汚れた玉座もだいぶ綺麗になった頃。知世は帰ってきた黒鋼に話しかけた。

本当はすぐにでも言葉を交わしたかったが、負傷者の手当や亡くなった者達の弔いなどに時間を取られ、そのうえ知世も少なからず怪我をしていたので、その治療も行われた。

「ああ・・・」

ただいま、と言うのはなんだか恥ずかしく、素っ気ない返事をする。しかし、知世はそれだけで満足だった。

「貴方が来なかったら私たちは負けていたでしょう・・・・お三方もありがとうございました。」

共に敵を追い払うのに協力をしてくれた、黒鋼と共に現れた3人に、控えめに礼をする。

「いいんだよ〜、初めまして黒たんのお姫様〜」

いつもどうりの笑顔を知世に向ける。

「改めてお初お目にかかります。この白鷺城の城主、知世です。今回は本当に助かりましたわ。」

「こちらこそ初めまして。ファイ・D・フローライトです。」

「小狼です。そしてこちらが玖楼国(くろうこく)の姫・・・・」

「サクラです。」

王座の前に膝をつき3人は自己紹介をする。

「ファイ殿、小狼殿、サクラ姫、あなた方は私に膝をつく必要はございません。おたちくださいませ。」

そう言うと、知世は玉座から降り、3人と同じ高さで話す。

「異界よりようこそおいで下さいました。心から歓迎致しますわ。」

知世は異世界からの旅人を快く招き入れた。

「・・・で、さっきの奴らはどこの刺客だ?」

知世・黒鋼・ファイ・小狼・サクラ・モコナの5人(と一匹)で夕食を食べていた時、黒鋼は知世に聞いた。

「さぁ。わかりませんわ。」

「見え透いた嘘をつくな。どうせ分かってるくせに・・・どこの奴らだ。」

黒鋼にはかないませんわね、と軽くため息をつき、食事の手をとめ、黒鋼の方を見る。

「ここ最近は、同じ装束の者達ばかり・・・・今日の戦いで亡くなった刺客の装束から、蓮の刺繍が・・・」

知世はそこで言葉を止める。黒鋼にはそれだけで十分だった。

「蓮の刺繍・・・・蓁蓮の黒蓮(こくれん)忍軍か。」

黒蓮とは忍の流派。白鷺の忍達は閃龍(せんりゅう)忍軍に属する者達ばかりだ。

「水に飢えた薄汚い連中が・・・」

「水に・・・飢えた?」

ファイは食事をするためのお箸に苦戦しながらも、耳と口だけを黒鋼に向けた。

「蓁蓮は機械文明が発達した国だ。日本国じゃ考えられねぇような機械が山ほどある・・・その反面、機械から排出される排気ガスやオイルなんかが、大気と水を汚した。途中でやめておけば良かったものを・・・一度甘い汁をすうと人間は駄目だな・・・機械がなく、苦労する生活に戻ることはできねぇ。だが、生きるためには水が必要だ、だから水の豊かなこの国を狙ってんだ。」

黒鋼は低い声で淡々と語る。

「そんなに機械文明が進んでいるんだったら、水を浄化する機械は作れないんですか?」

この話を聞いた人間が一度はする質問を小狼が口にする。

「その機械を作るのには金もかかるし、水を浄化する機械からまた自然を汚すもんがでる・・・悪循環だ。それなら、日本国の水を手に入れた方がいいって考えに行き着く。」

黒鋼は少し顔を伏せ黒鋼の話を聞いている知世に目を向ける。

「見ての通り、日本国の王はまだ子供だ。他国になめられるのは仕方がねぇ・・・」

「黒鋼!姫になんて事を。」

今まで知世の後ろに控え、話を聞いていた蘇魔が、我慢ならないといったふうに声を上げる。

「良いのです蘇魔・・・私が他国の者にそのような目で見られていることは事実・・・しかし黒鋼、私は摂政を決められないのです。そのことは貴方もご存じでしょう?」

「・・・ああ。」

黒鋼は苦い顔をし、目をそらす。

蓁蓮国の話はそこで止められ、その後はただ沈黙の中での食事が続いた・・・・

「お湯加減はいかがですか?」

露天風呂の湯船に写った大きな月が、知世が湯に足をつけたために生じた波紋によって揺れる。

「とっても気持ち良いです。でも、外でお風呂だなんてなんだか照れちゃうね。」

「玖楼国に露天風呂はないのですか?」

サクラの隣に腰を下ろした知世は問う。

「うん。玖楼国は砂漠の真ん中にある国で、頻繁に砂嵐が起きていたから、外にお風呂なんて作ったら、すぐ砂で汚れちゃうから。」

サクラは徐々に取り戻しつつある玖楼国の事を思い浮かべ答える。

「そうですの・・・サクラ姫は、黒鋼達といろんな世界を旅なさってるんでしょう?大変でしょうに・・・お偉いんですね。」

旅のしんどさを知世はしらないが、大変であろうことは想像がつく。それを自分と同い年くらいの少女がしてると思うと、凄いと素直に思える。

「そんなことないよ!旅は楽しいし、小狼君やみんなもとても良くしてくれるから。・・・知世姫の方が大変だよ、国の王様なんて。私の国は私のお兄様が全部してくれてるから、私はいつも城下であそんでばかりだったし・・・お兄様だってお国の仕事は大変だって言ってたし、知世姫は本当に凄いよ。」

ぐっと両手の拳を握り、熱く語る。顔が赤いのは少しのぼせているせいでもあるようだが。

「凄いだなんて・・・・私を生んで母はすぐ亡くなりましたから、王位を継げるのは私だけでした。ですから、私は幼少の頃から政の勉強をさせられました。王の唯一の子である私が王位を継ぐのは当然のことですわ。」

「うん・・そうかもしれないね。でも、やっぱり知世姫はすごいよ。」

「そんな・・・」

知世は照れたように顔を伏せる。自分にとって王であることは当然の事だったので、このようにほめられた事はない。臣下達が上ベラだけの言葉をくれたが、本当の言葉はこれが初めてだった。

黒鋼でさえその言葉はくれなかったというのに・・・・

「うわぁ〜外にお風呂がある〜すっごいねぇ小狼君、モコナ。」

露天風呂の男湯、ファイは初めて見る露天風呂に目を輝かせる。小狼は父と旅をしていたころ、見たことだけはあったが、入るのは今日が初めてで同じく目を輝かせていた。

「モコナ知ってる〜侑子がテレビを見て"温泉はやっぱり露天よね!"って言ってた〜」

そう言ってぴょーんとお風呂に飛び込む。

「おい白まんじゅう、風呂に飛び込むな!・・・てめぇもだ!」

今まさにモコナにつづいて、湯船に飛び込もうとするファイに、近くにあった桶を投げて注意する。

結局は桶に当たってファイは飛び込むように、湯船に倒れていった。

「ひどいよ〜黒ぷ-たんこぶ出来ちゃったじゃん。」

黒鋼の投げた桶によって、自分の頭にできたたんこぶをさする。

「ふんっ!風呂に飛び込もうとするからだ!」

ファイとは離れて湯船に浸かる黒鋼はファイを見ることもなければ謝罪するきもない。

「大丈夫ですか?」

「大丈夫〜?」

小狼とモコナだけがファイの心配をする。

「自業自得だろボケが!」

「黒りんは本当に口が悪いね〜お姫様もこんな口の悪い忍じゃ大変だろうねぇ〜」

「黙れ!」

再び近くにあった桶をファイに投げる。今度は避けられてしまったが。

ちっ、と舌打ちをする黒鋼は気にせず、話を続ける。

「それにしてもお姫様美人だね〜黒髪黒目の大和撫子〜」

何故ファイが大和撫子という言葉を知っているかは疑問だ。

「黒髪黒目なんて、日本国には珍しくねぇよ。民のほとんどは目も髪も黒だ。逆におまえみたいな、黄色みてぇな茶髪はいねぇよ。」

「そういえば城の中の人たちはみんな黒い髪に黒い目でしたね。」

「でも、お姫様や黒ろんほど真っ黒な人は少ないよ〜」

黒鋼や知世は、他の者達と比べれば、幾分黒い。

「あれだけ綺麗だと、女の子が王様でも悪くないね〜・・・おれの国の王様も黒髪の黒目だな・・・・」

ファイは最後のところは声のトーンを下げて独り言のような声で呟く。

急に意味深な態度を問うファイに、黒鋼たちはあえて深く追求しない。人には誰にも知られたくない秘密があることを、2人はよく理解しているから・・・・

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