Fanfic

異界の者に想いをはせて

「黒鋼さん、朝ですよ起きて下さい。」

小狼の声で黒鋼は目を覚ます。ほとんど寝ていないためまだぼーっとする頭を押さえ、顔を洗うため、水場に向かう。

「おはよ〜黒たん・・・・うぅぅ頭が痛い。」

そこには案の定二日酔いに悩まされるファイの姿があった。

「大丈夫ですか?ファイさん。これお薬です。」

心配そうにサクラは二日酔いの薬(小狼が特別に調合した)をファイに手渡す。

「ありがと〜サクラちゃん。」

苦く漢方のような味がする薬を、朝の冷気でよく冷えた水で飲み干す。かなり不味そうな顔をしている。黒鋼はそれをみて、心の中で「ざまあみろ」と思った。

そう、思うと同時に日本国の知世の事を思った。呪をかけられた恨みより、刺客の心配のほうが勝っていた。黒鋼が城にいた頃にも沢山の刺客が来た。

黒鋼は、知世の安否を願わずにはいられなかった。

(俺が日本国に帰るまで無事でいろよ・・・知世。)

「おはようございます姫様。」

朝餉(あさげ)を運んできた女房達と共に蘇魔も朝の挨拶をする。

「おはようございますわ蘇魔。昨晩は何事もなかったようね。」

最近の白鷺城は夜にも刺客が訪れる。いや、夜の方が暗殺には適しているから仕方がないのだが。

「はい、姫様。つづいて今日一日中何もなければ良いのですが・・・」

蘇魔は無理な夢を抱く。黒鋼がいないと噂が広まってから、刺客の来ない日はない。

「そうですわね。そう願ってもきっと来るのでしょうけど。気を引き締めなくてはなりませんわね。」

これは城の忍全員に言い聞かせなければならぬ台詞。

昨日、知世の助けがなければ勝てたかわからない。自分たちが守らねばならぬ姫に守られる忍が、どこの世界にいようか。蘇魔は昨日の失態を深く恥じていた。

(本当に、もっと気を引き締めなくては・・・今は黒鋼に頼れないのだからな。)

「蘇魔?どうかしましたか。」

急に黙り込んだ蘇魔に知世が声をかける。

「いいえ・・・ちょっと考え事を。」

「そうですか・・・今は大変な時ですものね。私に力になれることがあれば言って下さいね。」

「お心遣いありがとうございます。」

そうは言うが蘇魔の心の霧は晴れない。それに知世も気づいてはいたが、あえてそれ以上の事は口にしなかった。

「何で姫様は俺を蓁蓮に送らない!!そう決まった訳じゃないなんて、姫は思ってないのに。」

瑚泉は荒れていた、昨晩知世に自分の申し出を断られたのが原因だ。

「すこしは落ち着け瑚泉。知世姫はおまえを心配してらっしゃるんだ。」

同期の忍達は瑚泉をなだめる。瑚泉が怒る気持ちが分からなくもないが、知世の言い分ももっともだった。いや、知世のほうが的を射ていた。昨晩襲ってきたのが蓁蓮国の刺客という証拠がない。

「それに、頭領のいない今の我々は不安定だ。副頭領も頑張っておられるが、このように毎日刺客が来ては、副頭領もお一人では大変だろう・・・それなのに、おまえにまで城を離れられたら、それこそ姫の御身が危険になるぞ。」

「だが・・・!」

「姫の御身が第一。いまは守りに徹するしかないのだ。わかれよ瑚泉。」

「くそっ!」

悔しさと怒りが同時にこみあげてくる。分かっている敵を討てぬ悔しさと、頭領である黒鋼がいなければなにもできない自分達に対する怒りが。

(確かに強かったが、それ以外に頭領に何があった!?姫様の信頼がなければ・・・・くそっ。)

ぐしゃぐしゃと頭をかき、手に持っていたタオルを、八つ当たりのように床に叩きつけた。

(俺だって・・・俺だってここまで強くなったのに・・・俺はまだ、頭領に勝てないのか)

「おい白まんじゅう、ツバサはどこにあるんだ!?」

ジャングルのような熱帯の森林で、黒鋼は自分の前を跳ねるように進むモコナに言った。

「良くわかんないけど、多分こっち。」

何の自信があってか、モコナは迷うことなく真っ直ぐとジャングルの奥へと進んで行った。

いまここには、モコナと黒鋼と小狼しかいない。ジャングルは危険だからと、サクラはファイと森の入口で留守番をしている。

「本当にこんなところに、サクラのツバサがあるんでしょうか?」

自分の行く手を阻むツタを鬱陶しげにはらう、森に入ってから2時間ほど、同じようなところを3人は突き進んでいた。

「しらん!」

2時間もこのようなところを歩かされては、さすがの黒鋼も小狼も疲れが隠せないようだった。

人は決して足を踏み入れないジャングルは、ひどい獣道で、一歩進むのも大変な状態だ。

「あそこから強い力を感じる・・・・」

モコナは、薄暗い洞窟を指さす。そこからは確かに強い力を感じたが、2人にはツバサの魔力より、刺すようなさっきの方が強く感じられた。

(何か・・・いる)

「グルァォオオォ!!」

洞窟から姿を現した怪物は勢いよく2人につっこんできた。

それを黒鋼は横に、小狼は上によけ落ちていく重力にまかせそのまま怪物の頭を蹴りおろした。

「グウァア。」

脳天に食らった衝撃で敵はよろける。そして、その痛みを紛らわせるかのように大きく咆吼し天を仰ぐ。

露わにされたのど元を黒鋼の剣が切り裂き、怪物は大量の血を流し崩れ落ちた。

「はぁ、はぁ。大丈夫ですか、黒鋼さん?」

小狼は剣についた怪物の血を拭き取っている黒鋼に目を向ける。

大丈夫。というように一度小狼に目を向けるだけで、声は出さなかった。

「あった〜!サクラの羽根あった〜!!」

番人を失った洞窟の奥の大きな湖の底に羽根は光輝いていた。

小狼が手を差し伸べると、羽根は吸い込まれるように小狼の手の中に収まった。

「見つけた・・・サクラの記憶・・」

それをまるで自分の一番の宝物のように小狼は抱きしめた。

昼の白鷺城。城の城主であり日本国の国主である知世は、いつものように国事の仕事を進めていた。

「・・・それではこの文を今日中にお願いしますわ。」

各都市への税の積み立て、水害にあっているところには新しい堤防を、内陸にあり水の届かない都市に水を引いて欲しい。民達の要望を聞き、沢山の臣下達との話し合いの末、決議する。王とは華々しい仕事ではない、一日中机に向かい、同じような書類に王印を押す。

そのような作業の繰り返し、華やかしいものと言えば、年越しの祭りやその他の祝い事のみ。16歳を間近にひかえた少女には幾分つまらない仕事であろう。

しかし、前王である父を12歳で失った知世はそのときから4年近くもこの仕事をしていた。いろいろと問題もあった。

成人していない王は前代未聞。未成年の王は摂政をたてる、しかし知世はそうしなかった。日本国の王の座を狙う者は多い。それは他国の者だけではない、前代の王は暗殺された。他国の暗殺者によるものと処理されたが、本当は臣下の内の誰かの手の者の仕業と言う情報があった。そのため、知世は摂政を取らなかった。

摂政は王の代わりに政(まつりごと)をする、それすなわち国の全権を託すということ、だれが自分の命を狙っているか分からないのに、摂政など決められるはずもなく、知世は若干12歳にして王となった。

知世は過去の事を思い出す、幼い王と馬鹿にされた時代を。

あのときは今と同じような状況だった。刺客は毎日のように送られてきた。

しかし、おそれを感じたことなど一度もなかった。

知世のそばには常に、18歳にして城の忍達の頭領となった黒鋼がいた。

彼が居る限り知世に敵の刃が届くことなどなかった。

「・・・・・黒鋼。」

蘇魔や瑚泉達を信頼していないわけではない。

しかし、あのときには感じなかった恐怖が今はある。

人は大切なものを失って初めてその重要性を知る。別に黒鋼を失ったわけではないが、そばにいないだけでこんなにも不安にかられるなんて思ってもいなかった。

知世は今は自分の隣にいない黒鋼に想いをはせる。

(わたくしにとって彼は必要だった・・・・昔も今も)

父の代わりに遊んでくれた、母の代わりに物語を話してくれた。

彼は私にとって何だったであろうか?

離れて初めて、今までとは違う感情に気づく・・・・

寂しいと、側にいてほしいと―――――

白鷺城では今日も戦闘があった。

今までとは敵の数が明らかに違う・・・ざっと見ただけでも100以上の者がこの白鷺城に攻め入ってきた。

しかも、こちらの手勢は100に満たない。地方でおきた反乱を鎮めるために、多くの兵、忍が城を留守にしていた。敵はこのときを狙って大勢の刺客をおくってきたのであろう。

城の者達も力を尽くすが、数の違いからか、明らかに押されていた。

「飛王・滅龍閃」

瑚泉の振り下ろした剣から、龍の形を成した衝撃波が繰り出される。

この一撃によって、数人の敵は吹き飛ばされ、近くに居る者も巻き込み崩れ落ちる。

しかし、敵を絶命させるには至らない。普段なら、敵を殺すには十分に威力のあるこの技も、何十回も使っているので瑚泉にも疲れが出始め威力が落ちる。

「神々の鉄槌・・・きゃあ!」

知世も術で応戦しようとするが、四方から飛んでくる暗具によって集中できない。

(く・・・・このままでは)

そのとき、一人の刺客が、知世をまもる何人もの忍達をくぐり抜け、知世のもとにたどり着いてしまった。

敵の凶器は掲げられ、振り下ろすため握る手に力が込められる。

「姫!」

蘇魔や瑚泉が駆け寄ろうとする。しかし、間に合いそうにはなかった。

(黒鋼・・・!)

―――そのとき、時空の歪みを感じ、知世も彼女を殺そうとしている忍びも、そこにいる全ての者達が、大きな力が感じられる方に目を向けた。

空間に現れた亀裂より姿を現したのは、見覚えのある闇夜の髪。そして細身の青年と、少年少女。

「な・なんだ!!」

刺客達は突如姿を現した人間に驚きを隠せない。

「黒鋼!」

知世は異界に旅立たせたはずの想い人の名を呼ぶ。

その声で、いままで呆然と凶器を振り上げたままで止まっていた敵は、思い出したように、目の前の知世にその凶器を振り下げる。

「知世!」

ほんの刹那だが、黒鋼の方が速かった。知世に振りおろされた刀は、寸前のところで、横から入ってきた黒鋼の刀によって止められる。

そのまま、敵を吹き飛ばすように、刀を振り払った。

本当ならこのまま敵の心の臓を貫き、殺すのが一番良いのだが、呪のせいで黒鋼は敵の命を奪うことが出来なかった。

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