吟遊詩人

ゼネテスさんが冒険者に誘ってくれなかったら、たぶん吟遊詩人…もどきになってたと思う。ルルアンタは踊るのが凄く上手いから。その伴奏者──楽師みたいな。
久しぶりに手にした、小型のリュートは懐かしかった。試しに弦を弾いてみると、転がるような音色がした。ずいぶんと長いこと弾いてなかったから、当然指は鈍っている。それでも何度か簡単な旋律を思い出しながら弾いていると、だんだんと指も動きを思い出していった。
ルルアンタにせがまれるままに、テンポの軽やかな舞曲をひいた。ルルアンタの踊りは、みているだけで気持ちが明るくなる。しばらく連続で舞っていたルルアンタを休ませるために、ゆったりとした曲を奏でた。するとルルアンタが嬉しそうな顔をした。
そういえば、この曲は彼女が好きな曲だった。
「セアラ、歌って?ねえ、お願い!」
上目遣いにお願いされたら、もう断ることができない。リュートを弾きながら、詩を唇にのぼらせていた。


角笛が貴方を呼んでいる
谷を越え山を駆けて響いてくる
夏は過ぎ、花は枯れてしまった
貴方はもういかなくてはならない
私は見守ることしかできない

時が巡り、野原に夏が訪れたら
どうか帰ってきて
雪に埋もれ谷間が静まっていても
陽が降りそそぐときも
雲が翳をおとしていても
貴方を待っているから
こんなにも、貴方を愛してる…


やわらかな少女の声が、酒場に流れていた。
くり返されるリュートのメロディにのせて語られる、愛の言葉。
いつか、時がきたなら。少女は誰かに、その言葉をつげるのだろうか。
それを思ったとき、何故か苦い思いを、男は覚えるのだった。



※たんに、歌ってる場面を書きたかっただけかも。作中の詩は、有名な曲の、超意訳(笑)最後の男は、誰なのか考えてなかったりして。