はじめての日

ロストールからノーブルに向かう街道の途中だった。
冒険者としてパーティを組んでいるサライ、ルルアンタ、フェティ、セラの四人組は足を止めた。その先では、一人の身なりの良い青年を数人のならず者たちが囲んでいた。
「エリエナイ公とお見受けする。」
「…その命、もらった!」
口々にならず者たちは言い放ち、得物を抜きはつ。青年は剣呑な視線を宿したまま、腰にはいた双剣に手をかけていた。まさに一触即発の現場に居合わせたようだった。
パーティのリーダーであるサライは、ぼそりと呟いていた。
「…見なかったことにするのは、まずいだろうか」
「別に、かまわんだろう」
何でもないことのようにセラが賛同したため、ルルアンタとフェティは声をあげた。
「そんな、人が襲われてるんだよ!?」
「何、考えてるのよ、この下等生物たちはっ!」
どちらかというと善い人な部類に入る二人が驚くのは当然だったが。娘と少女の高い声は、ならずものたちの注意をひいていた。
「ちっ!見られたぞ!」
「やっちまえっ!」
通りすがりの4人に気づいた彼らの幾人かが、標的を変更して襲ってくる。襲われていた青年は、皮肉っぽい笑みを浮かべていた。
サライは、溜息と共に短く呟く。
「残念」
「しかたあるまい」
セラもまた、諦めたように月光をぬいていた。
戦いは、あっというまに終わる。人数の減ったならず者たちは、あっさりと青年の双剣に倒され、残りはサライの拳とセラの月光の餌食となる。街道に立っているのは、怜悧な美貌の青年とサライたち四人だった。
双剣をおさめると、青年はサライに冷たい視線をむけた。
「貴様…。助太刀など、無用な。むしろこの賊どもも俺の手にかかった方が一瞬の苦しみで済んだものを」
礼を言われると思っていたらしいルルアンタとフェティが衝撃をうける。成り行きとはいえ、いちおう助けに入って、この言いぐさ。何かしらのショックを受けるのが普通かも知れない。
だが、サライは平然と答えていた。
「そうですね。打撃よりは斬撃の方が即死する確率が高い」
手にはめたナックルを外しながら言い放ったサライを、青年はわずかに目を細めてみつめた。
「…しかし、武器は使えるようだな。女、名前は?」
高飛車な問いに、フェティはキレかけルルアンタになだめられる。セラは関係ないといわんばかりに無関心。サライは無表情に、ひょいっと片手を上げていた。
「質問です。私は見てのとおり女ですが、こちらにいる二人も種族こそ違え紛うかたなき女性です。そちらの彼は女顔ですが、男性です。誰の名前をお尋ねですか?」
からかう気配は微塵もない。だが、ある意味バカにされているような問いに青年は眉間に皺を寄せていた。ちなみにセラは「女顔」と言われても流している。以前、サライに「女顔」と正面切って言われ、激昂したならば「では、あなたは自分の顔が誰よりも男らしいと思っているんですね?」と、答えるに答えられない問いをされたからなのだが。
青年は、その時のセラとにたような表情をしていたかもしれない。
「口の減らない、お前だ」
吐き捨てるような口調に拘ることなく、サライは答えていた。
「そうですか。私はサライです」
おそれをしらないサライをどう見たのか。青年は言葉を続けていた。
「サライ、か。ついてこい。俺は急ぎノーブルへ向かう。貴様は黙って護衛をしていれば、それでいい」
「仕事の依頼ですか?」
「金ははずむぞ、冒険者。それとも、人の命がかかっているとでも言った方が、その気になるのか?貴様のような甘っちょろい冒険者は」
サライの問いをどう思ったのか。青年の口調は嘲笑しているようだった。だが、やはりサライは気にもとめずに、三本指を青年によくわかるように示して言った。
「いえ私は、お金の方がその気になります。相場の3倍でも構わないのなら、お引き受けしましょう」
平然と交渉をつづけるパーティリーダーの言葉に、ルルアンタとフェティは驚きを隠せない。
「3倍?!」
「ち、ちょっとふっかけすぎじゃなくって?」
「迷惑料込みだ。問題あるまい」
セラだけは、当然という風情だったが。
相変わらずサライは無表情に青年を見つめていた。青年は、珍しいものを見る視線でサライを見つめ返していた。
「…三倍でかまわん。行くぞ。ただし、足手まといになるようなら消えてもらう。そのつもりでいろ」
くるりと背をむけて歩き出した青年の後を、サライは追いかけながら口にしていた。
「残念ながら、まだ消える予定はありません。ああ、お名前を伺ってよろしいですか?」
「──名乗らずに無礼だったな。俺はレムオン。エリエナイ公爵だ」

このはじめて出会った日を、後にレムオンは後悔するのだが…今は、そんなことを知るよしもないのだった。



※サライとレムオンのちょっぴり捏造ファーストコンタクト。こんな義妹、嫌かもしんない。とりあえずレムオン遭遇記念…。