黄蝶

黄色い蝶がひらひらと舞っている。ああ、春なんだなぁ…と思って、ぼーっと眺めていた。
ふと気がつくと、白い蝶も飛んでいた。
白い蝶と黄色い蝶は、風にながされるように距離を縮めて、くるくると戯れるように二羽で舞い始めていた。
…何をしているのだろうか?不思議に思ってみつめてたけれど。
なんとなく、ムカムカしてきた。なんだろう、何だかイヤなものを見てる気分だった。
黄色い蝶は、誰かの髪を思わせる。くるくると動くたびに、日差しにきらめく金の髪を。
その発想で、いくと。白い蝶も誰かを思い出させる。白っぽい髪のヤツラ。
アレとかアレとかアレとかアレとか。どれを想像しても、そいつが金の髪と戯れているかと思うと腹がたつ。
刀を抜いて、白い蝶を切り捨てようかとも思うけれど。でも蝶は、蝶だし。アイツラじゃないし。
二羽の蝶は何時の間にか、すぐ近くまで来ていた。互いに夢中で、周りに気がついていないみたいだった。
むーっとした顔のまま、すいっと両手を伸ばしていた。
両手でつくった空間に、黄色い蝶を捕獲する。傷つけぬように、そっと。
白い蝶は、しばらく周囲を飛んでいたが相手を見失ったように、ふらふらと風に流されて遠くへいった。
手の中に捕らえた蝶を、どうしよう…と、しばし悩んでいると。
「ほたるさん、何してるんですか?」
さらさらと金の髪をなびかせた、綺麗な蝶が側に寄ってきていた。
「うん……蝶が」
「蝶々ですか?」
首をかしげるゆやの前で、両手をひらくと。何事もなかったかのように、黄色い蝶がふわりと舞い上がっていた。
「ほんと……蝶々ですね」
ひらひらと舞う蝶をみつめる顔が、花のように微笑んでいる。蝶は、そのまましばらくゆやの周りをひらひらと舞っていた。
「花と間違えてるのかな?」
「着物の色のせいかもしれません」
ほたるはゆやの笑顔のことを言ったのだけれど。ゆやは桃色の着物の袂を、しみじみと見ていたりした。
やっぱり、言葉では気持ちを上手く伝えることができない。
ほたるは、すいっと両手を伸ばしていた。
両手でつくった空間に、金の髪の蝶々を捕獲する。傷つけぬように、そっと。
「ほ、ほたるさん…?!」
腕の中で、ゆやが驚いた声をあげたけれど。聞こえないふりをして、そうっと抱きしめた。
しばらくそうしていると、ゆやはしょうがないなぁという風に、微笑む。言葉では伝えられないけれど、抱きしめれば、何となく伝わるような気がした。自分は、甘えてるんだなぁと思っても、こればっかりはどうにもならない。花の蜜に溺れる蝶のように、離れることができないから。
「あ…」
何かに気づいたゆやが、細い指で遠くを指し締めす。たぶん、さっきまでゆやの側にいた黄色い蝶のそばに、もう一羽、黄色い蝶が寄ってきていた。ひかれあうように、二羽はちかづき、くるくると戯れはじめる。白い蝶のときは、ムカついたけど。今はなんだか、気にならない。
「…なんだか、俺たちみたい」
二羽の蝶をみつめてつぶやくと、腕の中でゆやが柔らかに微笑んでいる。
「そうですね」

うららかな暖かな春の日差しの中で、金の髪をした二羽の蝶々が穏やかに抱き合っていた。