燕雀

逢ったこともない誰かに似ていると言われるのは、何だかちょっと嫌な気分だった。
阿国さんも幸村さんも、私が朔夜さんに似てるという。口にはしないけれど狂や京四郎も、そう思っていたのかもしれない。はっきりとは聞いていないけど、アキラさんの言った「狂とかかわって不幸になった女性」も、朔夜さんだったらどうしよう…。
私の知らない誰かに、みんな私が似てると言う。
ずっと胸にひっかかっていたけれど、太白さんの話を聞いたとき「ああ…」と納得してしまった。
朔夜さんと私。同じ人に育てられていた……だったら似てしまうのも、きっと仕方のないことなんだろう。
それで諦めがつくはずだったのに。ふと、阿国さんに聞いてしまった。
「…私、そんなに朔夜さんに似てるのかなぁ…」
阿国さんは、いつもの秘密めいた微笑みをうかべて答えてくれた。
「そうですわね。雀と燕程度には、似てますわ」
ほほほ、と笑う阿国さん。雀と燕…どっちも小鳥ってことなのかな。燕雀いずくんぞ…で小物って意味なら、それはそれでヘコんでしまうかもしれない。

「あれ、何だかゆやさん元気ないね」
遠くからゆやを見た幸村が、首をかしげる。すると笑みを浮かべた阿国が近づいていた。
「ゆやさん、悩んでますのよ」
「悩み?」
「ええ…自分と朔夜さんは、似てるのかって。私、雀と燕程度には似てると教えてあげましたわ」
にっこりと笑う阿国に、幸村は苦笑をみせる。
「阿国さん、意地悪だねぇ。ゆやさん、誤解してるよ?」
「慰めてもしかたのないことですもの。ゆやさんは、自分で気づかないとね」
ふふふ、と阿国は微笑む。可愛い子には旅をさせたいタイプなのだろう。
幸村も悩める乙女を遠くから見守るだけだった。確かに、ゆやは自分で気づかねばならないし、自分が説明したところで納得はしないとわかっていたので。
雀と燕。一緒くたにされやすい小鳥だが、二つは驚くほど異なっている。
雀は、留鳥で人と暮らす鳥だった。人がいないところでは、生活できない。山地の集落から人が消えると、雀も姿を消すのだ。
対して燕は、渡り鳥だった。軒先に間借りしても、冬がくれば去っていく。あの小さな羽根で山を越え、海を越えていくのだ。
朔夜は雀で、ゆやは燕だと、阿国は言いたいのだろう。女性ならではの、辛辣な意見だったが否定できない面もある。
雀のようだとされた朔夜は、庇護される存在だった。本人の望む望まぬにかかわらず、望、壬生一族、京四郎、狂、そして自分(幸村)に庇護されて暮らしていた。彼女は、庇護がなくなれば消えてしまいそうな儚さがあるのだ。彼女自身、あまり己の生に執着がないせいかもしれない。ひたむきに生きるゆやとは、大きく異なっている。
そしてゆやは、確かに燕のようだった。軽やかで、素早く、風のように傍らを通り抜けていく。急旋回をまじえた巧みな飛翔は、見た者の目を釘付けにしてしまう。傍らに留めておくことは、雀よりも難しい。小さな翼は見た目よりも強靱で、本人が行きたいと願えば海を越えることもできる渡り鳥だから。
「…漢って、わがままですわね」
「そうだねぇ…悪いとは思うんだけど」
阿国の呟きに、幸村は頷かざるをえない。
雀のいじらしさを庇護しつつも、宙を翔けぬける燕からも目が離せない。
本当にわがままだと思う。自分も、京四郎も…狂も。