護衛の騎士

「…何で、ポップはシグマといるのかな」
暗い顔でダイは呟いていた。ハドラー&親衛隊が復活したのは、悪くないことだと思う(悩まないで下さいBY作者)。ヒムも喜んだし、アバン先生とハドラーも何だか楽しそうだし。でも。どーしてポップとシグマが仲良しなのだろうか。
「やはり、好敵手だからではないか?」
どよーんとしたダイの隣で、しばし考えて答えたのはヒュンケルだった。
「そうです。ダイ様。命をかけて戦った間には、何かしら通じ合うものがあるのでしょう、きっと」
ダイに付き従うラーハルトにも言われるが、やっぱりダイは納得できない。ヒュンケルとラーハルトも好敵手だったから、そう言うのかもしれないが。ダイにはやっぱりよくわからないのだ。それに、ポップとシグマに通じ合うものがあろうとなかろうと、実はどうでもよかったりする。ダイが現在、問題にしているのは。
「……シグマ、俺の邪魔ばっかりするんだ…」
しょぼんと呟いたダイの言葉に、主君第一なラーハルトがいきり立つ。魔槍をつかんで飛びだそうとするのを、とりあえず押しとどめながら、ヒュンケルは問いかけた。
「ダイ、詳しく話してくれないか?」
「うん…」
ヒュンケルに促されて、ダイは自分の行動がいかにシグマに邪魔されたのかを切々と語った。
その1。朝寝坊なポップに、こっそりおはようのキスをしようとして妨害された。
その2。執務中のポップの背中に、こっそり抱きつこうとして妨害された。
その3。昼食中、ポップが頬にトマトソースをつけてたから、舐めてあげようとして妨害された。
その4。庭の木陰で眠っているポップの唇が誘っていたので、キスしようとして妨害された。
その5。お風呂に入っているポップの姿を覗こうとして、妨害された。
その6。ポップの寝室に夜這いをかけようとして…
「ダ、ダイっっ!ちょっとまてっ!」
延々と続くダイの奇行に耐えかねて、ヒュンケルが叫ぶ。隣では、何故かラーハルトが目の幅涙をだーっと流し「ダ、ダイさま…おいたわしい…」と呟いていたりする。そんなラーハルトどつきたおし、ヒュンケルは額を抑えながら言葉を選んでいた。
「ダイ…お前の行動は…シグマに邪魔されても仕方ないと思うのだが…」
「どーして!?俺とポップの間を邪魔するなんて、誰にも許されないのにーっ!」
子供の癇癪のように地団駄をふむダイを、ヒュンケルは困ったように眺めるしかできなかった。

同じ頃、ポップは巨大な図書館でシグマを助手に資料探しをしていた。
「お、あれだ、あれ!」
目当ての本をみつけると、トベルーラで浮き上がって本棚からするりとぬきとる。それから沢山の本を苦もなく抱えるシグマに渡していた。
「悪いな、シグマ。これも頼む」
「遠慮はいらん。これぐらいの重さは苦にはならぬ」
「そっか。やっぱ騎士って、頼りになるなー♪」
にぱっと笑うポップに、つられてシグマも笑っていた。
「そう、私は騎士だ。今は、君を守ると決めている。何でもワガママを言ってくれ」
さらりと何でもないことのように言われて、ポップは照れくさそうな表情になる。
「…うん。頼りにしてるぜ」
「まかせたまえ」
子供のような大魔道士に付き添いながら、シグマは油断なく周囲に目を光らせていた。ポップは、自分の事になるととことん鈍い処がある。それを自分の主であるハドラーや、ポップの師であるアバンも心配していた。だから、シグマを護衛の騎士に任じたのだ。
そして彼らの不安は、見事に的中していた。
(──まだ子供だと思っていたが…さすがは竜の騎士というべきか)
ポップを狙って周囲を徘徊するダイを思い、シグマはふと苦笑するのだった。