クリスマスの話

街のあちこちで見かける樅や針葉樹。それらには金や銀のモールが飾られ、小さなプレゼントの箱や固く焼いたクッキーなとが吊されている。ダイはポップと街を歩きながら、不思議そうにそれらを見ていた。
「……年末のお祭りなのかな?」
首をかしげるダイに、ポップは何でもないことのように答えてくれる。屋台で買ったほかほかの焼き栗をほおばりながら。
「誕生日だからな」
「誰の?」
「太陽の」
「…え────っ!」
意外な答えに、ダイは目をまん丸に見開いてしまう。太陽の誕生日だなんて、ダイは考えたこともなかったのだ。だがポップはもごもごと栗を飲み下すと、当たり前の事のように言った。
「征服されざる太陽の誕生日。今日は冬至だろ」
「…とーじって、何?」
明らかに意味を把握してない言葉に、ポップは眉をきゅっとしかめてしまう。ダイの、ちょっとオバカなトコロが気に入ってはいるが。常識しらずは頂けない。
「お前、もうちょっっっと、勉強した方がいーぞ」
「だって、わかんないもん」
ほおを膨らませて拗ねたそぶりの親友に、ポップは簡単な説明をした。
「今日は、一年の間で一番昼が短くて、一番夜が長いんだ。ちゃんと観測してる人がいるから間違いない。反対に一年で一番昼が長くて、夜が短い日は夏至。昼と夜が同じ長さの日は春分と秋分だ」
「…そうなんだ。でも、どうして樹を飾るの?」
「よく見ろ、飾り付けられてる樹はどれも常緑樹だろ?あれは再生と不死をイメージしてるんだ。夜に輝いて光と贈り物を授ける楽園の樹のイメージもある。とりあえず、おめでたい縁起物だ。みんな、太陽におめでとうって伝えたいのさ」
詳しく説明すると、かなり複雑になるので簡単に(手抜きともいう)説明をすると、ポップは再び焼き栗に挑戦していた。
ダイは、着飾った緑の木々をみていた。一年を通して変わらない緑。風が冷たくなり、木々が葉を落とし草が色あせていく寒い日々。空から降る雨さえも白い雪にかわり、無彩色が世界を被っていく。その中で、色あせない緑。緑は生命の色、喜びの色、そして──勇気の色。
いつだって、緑は力を与えてくれる。
ぼんやりとダイは漠然と思ったことを口にしていた。
「太陽って…いいなぁ」
着飾った緑に、おめでとうと言われるなんて。なんて羨ましい。
「何、羨んでんだ?」
だが、不思議そうなポップの問いに我にかえってしまった。
とてもじゃないが、脳内のやましい妄想を口にできるわけがない。あわててダイは、論点をずらそうとする。
「あの、その、おめでとうって祝ってもらえて…!」
幸いにも、ポップはダイの真意には全く気づかない。自分のことに関しては、とことん鈍感なのだ。
「ばーか。太陽ってのは、毎年、この日に死んで蘇るとも言われてるんだぞ。寿命一年!そんなのを羨んでんじゃねーよ。大体、おまえは俺がきっちり祝ってやるぜ」
「ほんと?」
意外な台詞を聞いたダイは、目を輝かせていた。
「ああ、当然だろ」
「じゃあ、俺のために着飾ってくれる?!」
「………は?」
訳のわからないことを言われて、ポップが目をきょとんとさせる。
「ありがとう、ポップ!俺、すごく嬉しいよ!」
「ダイ、お前、何の話を…」
だが、ダイはもはや聞いてはいない。脳内には、すでに着飾ったポップでいっぱいなのだ。
「さっそくレオナに相談しなくちゃ!あ、先生の方がいいかな?マァムにも聞かなきゃね!楽しみだなぁ、ポップ、絶対綺麗だよ!俺、行ってくるから!」
そのままルーラで飛んでいってしまった。
残されたポップは、焼き栗を片手に首をかしげるしかない。
「……なんなんだ、一体…」
そしてもちろん、この後にくる大騒動なんて想像もしていなかった。