ポップと愉快な妖霊たち


■メリアの日記

今日はヴェルザー軍の人たちからの攻撃もなく、静かでした。
まだ森を取り戻せてませんが、とりあえずよかったです。
ガーくんと跳び箱ごっこをして遊んでいると、軍師さまが来ました。
お料理をしてくれるんだそうです。
ご飯といえば、干肉と干魚と生野菜なんだと思ってたと言ったら、軍師さまは泣いてました。
不思議に思ってハルとアドラをみたけど、何故か二人とも目をそらしてました。
「栄養価に不足はありません」
「やはり野営が主ですし…」
「バカヤロー!食事ってのは、心の栄養も兼ねてるんだ!」
ハルとアドラに、軍師さまが雷を落としてました。どうしてかな?
「…どうして軍師さまは、怒ってるの?」
「メリアさまの食生活に嘆いておられるのでしょう…マスターは食べることがお好きですから」
ガーくんが説明してくれたけど、やっぱりよくわかりませんでした。
でも軍師さまがつくってくれたお料理は、すごく美味しかったです!
「これからは、俺がきちんと食わせてやるからな…!」
握り拳でもって、軍師さまは宣言されました。
干魚や干肉も好きだけど、軍師さまがつくってくれるお料理はもっと好きです。
明日は何をつくってくれるのか、楽しみです。

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■クロコダインの手記

妖霊という種族は、つくづく奇妙な種族だと思う。
ポップが来て以来、砦に妖霊たちが増えた。
彼女たちはそれぞれに美しいのだが、やはりどこか奇妙だった。
はっきり言ってしまうと、女らしくないのだ。
姿形は、まごうことのない美女たちなのだが…。
先日、砦の大浴場にダイたちと入浴していたとき。
ハル殿が一糸まとわぬ姿で踏み込んできた。
正直、どうしていいのかわからなかった…。
一緒に風呂に入っていたダイは赤面するし、ラーハルトは硬直していた。
ポップが腰にタオルを巻いてたちあがって叫んでくれた。
「ハルーーーっ!ここは森とは違うってんだろっ!」
「?私は気にしませんが」
「こいつらが気にするんだよっ!こいつら男なんだぞ!」
「……ああ」
ハル殿は無表情に、ぽん、と手を打つと頷いていた。
「そうでしたね。すっかり忘れてました」
「たのむ…忘れないでくれ…」
額を抑えながら呟くポップに、ハル殿は相変わらず無表情に告げる。
「では、こんどは竜騎衆どのたちがいないとき。
軍師殿と二人で、昔のように入ることにします」
そう言って、何事もなかったように去っていった。
「…………」
言葉を失ったポップの背後で、ダイが何か不穏な気配を纏って立ちあがる。
「────ポップ…今の…どういうことかな…?」
「ダ、ダイ…いや、その…」
俺とラーハルトは、そのまま逃げるように大浴場から出たので。
その後、ダイとポップがどうしたのかは知らないことになっている。

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■ラーハルトの告白

正直に言おう。俺は、妖霊が苦手だ。
なぜ彼女たちは……砦にアレを持ち込んでくるのだろうか。
ダイ様も、どうして許可されたのだろうか。
アレは、俺はダメだと思うのだが。
ときおり不意にあらわれて、砦の一室を実験失敗とやらで爆破するハル殿はいい。
暇つぶしに土塊でゾンビゴーレムの大群を造り、盆踊りをさせているジョカ殿もいい。
ポップが振り向かない腹いせに、女だらけの後宮をつくり
なぞの「マリみて」ごっこを流行らせているイシュタム殿も、ぜんぜん構わない。
「どうしました?ラーハルト殿」
さわやかな笑顔で、俺に挨拶する火将軍アドラ。
「お邪魔してます」
隣でぺこりと頭をさげる、妖霊の巫女長メリア。
この二人がもちこむアレが…!

「あ、メリア来てたんだ」
ポップとお茶を飲みながら、外を見下ろしたダイがつぶやく。
ポップも窓の外をみた。
そこには巨大な身体をうねらせたヘビケラがいた。
ヘビケラは、アドラの親しい蟲のひとつだ。
だいぶ馴れたが、やはりその巨体には驚きをかくせない。
「そういや、メリアがラーハルトに王蟲の幼生を見せるんだって張り切ってたなぁ」
「メリア、ラーハルトに懐いちゃったね。ちょっと意外かも」
ほのぼのと見える情景を見下ろす二人は、ラーハルトの苦悩を知らない。
もちろん、アドラとメリアも知るよしがない。

蟲なんて…大キライだ…。
今日もラーハルトは、胸の奥でひっそりと呟くのだった。

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■ハルワタートの観察記録

私は歴史にたちあっている者の一人として、この記録を残すだろう。
世界にただ一人しか存在しない、双竜紋をもつ竜の騎士ダイ。
彼以上に興味深い存在を、私は軍師ポップ以外に知らない。
だがこの記録は、竜の騎士のものだからして。主に彼について記したいと思う。
×月×日
○夜明けと共に起床。すばらしい体内時計だ。
○砦を見回り、騎獣や騎竜の世話を手伝う。
ラーハルトが止めても、止める気はないらしい。動物が好きなのだろう。
○ポップやクロコダインらと共に、食堂で朝食をとる。
○午前の執務。ポップに書類の束で殴られる。居眠りはよくない。
○軽食とお茶をとった後、再び執務。書類整理が得意でないらしく、疲れている。
○昼食はバスケットを抱えて、郊外でとる模様。ポップを連れてトベルーラで移動。
さすがに尾行がばれそうなので、同行はあきらめる。
○かなり長い昼休みが終了して帰城。ポップは何故か疲労している。
○午後は兵の訓練を行う。なかなか教えるのが上手い。
○たまたま来ていたアドラと模擬戦を行う。結果は、相打ち。
これは竜の騎士が手加減をしたのかもしれない。
○日没の後、夕食。竜の騎士の食欲は旺盛だが、ポップは食が細い。
何か、変なものでも食べたのかもしれない。あとで薬を処方しておこう。
○入浴の後、就寝…かと思ったが、ポップの部屋に遊びにいく模様。
今夜はポップの部屋で泊まるらしい。
そういえば、昨日の夜はポップが竜の騎士に泊まっていた。
仲が大変よくて、結構だと思われる。本日の観察、終了。

「……これは何?」
ハルワタートの尾行に気づいたダイは、複雑な表情で手元の書類をみていた。
だがハルワタートに動じた様子はこれっぽちもない。
「あなたの観察記録です」
「…………なんで、俺を観察するの?」
「単なる好奇心です。あなたはとても興味深い」
ダイの声は疲れを滲ませていたが、ハルワタートの声は一本調子で淡々としている。
「……………できれば、止めてほしいんだけど…」
肩を落とすダイに、ハルワタートはふと思いついたように告げた。
「お気になさらずに…といっても、気づいてしまったからには気になるでしょう。
私の観察を許可してくださるなら、引き替えに
私が記した今までのポップの観察記録を提供しますが」
「俺、ぜんっぜん気にしないから!ぜひ読ませてほしいなっ!」
己の欲求に、ダイは素直に従うのだった…。

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