パラレルメイドネタ1

俺はメイドじゃない。「ランカークス男爵夫人付きの小間使い」が正解だ。そこんとこは、はっきりさせときたいな。でも、ホントのトコはランカークス男爵令嬢(悩んではいけませんBY作者)なんだけど。まあメイドも小間使いも、似たような服装だから間違えられてもしかたないかなーって気もする。
母さんの身のまわりの世話っつっても、母さん、基本的に一人で何でもできる人だから。小間使いの俺の仕事ってのはほとんどない。でも俺は、現在小間使いなのだ。…だってそうしないと、母さんが招待を受けないって言い張ったんだからしようがない。母さんが俺を小間使いにしたわけじゃない。母さんは、あくまでも自分の子供として同伴したかったんだけど、招待状が一通しかなかったから。親子三人が一通の招待状に便乗するのは気が引けたわけ。エイミ姉さん(悩まないで下さいBY作者)の付き添いで母さんってのは許されるけど、さらにもう一人…ってのはやりすぎだろ?でも母さんは俺を一人置いてはいけないっていうし。エイミ姉さんの付き添いを他人に頼むお金も我が家にはないし。そんなこんなで、俺が小間使いに志願したのだ。こうすれば親子三人、問題なく迎えの馬車で移動できるからな♪
自慢じゃないが、我がランカークス男爵家は貧乏だった。父親は俺が赤ん坊の頃に事故死して、以来、男爵家と三人娘を、未亡人となった母さんが守ってきたんだけど。もともと傾いていた家を建て直すことはできなくて。長女のマリン姉さん(…お約束で…)を社交界デビューさせて、ウチよりは内情がマシな男爵であるアポロさんと結婚させるのがやっとだった。エイミ姉さんも美人なんだけと、今のままじゃ社交界デビューもままならない。せっかくの適齢期なのに。俺自身は、もう諦めてるんだけどね。
そんな家族を心配して、マリン姉さんとアポロさんが頑張ってくれた。なんと竜騎公爵の城への招待状を一通、ゲットしてくれたのだ。竜騎公爵は、郊外の城に引きこもるとき沢山の知人を招待する。名門中の名門である彼からの招待状は、国中の垂涎の的だった。貴族も軍人も、大商人もさまざまな階層の客人があふれる竜騎公爵の城。招待状を握りしめたエイミ姉さんは、宣言した。
「絶対…玉の輿に乗ってみせるわっ!」
当然俺は、諸手をあげて大賛成した。母さんは、あんまり乗り気じゃなかったけれど。これからも貧乏になっていくだけの我が家の未来を考えると、希望はエイミ姉さんが握っているといって良かった。ここで一発、玉の輿に乗ってもらって。そんでもって、母さんと俺におこぼれをわけて貰いたかった。
現在、俺は小間使いとして竜騎公爵の城にいる。
やはり金持ちは違う…!しみじみと俺は思い知った。小間使いの俺の食事でさえ、普段の食事よりも豪勢だったりするし。毎晩、開かれてる晩餐会の食事は、もっと凄いんだろうな…そう思うと、参加しているエイミ姉さんと母さんがちょっぴり羨ましかったりした。城に来る前、エイミ姉さんは「竜騎公爵をゲットするわ!」と豪語してたんだけど。あ、竜騎公爵は夫人をだいぶ前に亡くされてるんだ。男やもめとはいえ、独身には違いないし最高の玉の輿なのは確実。エイミ姉さんの狙いは悪くなかった…けど。
いざ城に来てみると……エイミ姉さん、公爵の部下の軍人ヒュンケルを追いかけ回してたりして。何も、そんなビンボ臭そうなヤツにしなくても…と思ったけど、エイミ姉さん、メンクイだったから。俺はエイミ姉さんを玉の輿に乗せるのは諦めた。だがしかし。ここで意外な伏兵が躍り出ていた。なんと母さん!竜騎公爵バラン閣下と、いつの間にか、すげー親しくなっていたのだ。ガーデニングという共通の話題があったためらしい。年もそんなに離れてないし、母さんだって幸せになってもいいはずだ。もしもバラン閣下が母さんを選んだら、見る目が高いんだけどなぁ。
そんなことを考えながら、俺は小間使いとして城の中をちょろちょろとしている。軍人のラーハルトにちょっかいをかけられたりしたけど、上手く逃げることができた。他のメイドやコックとも仲良くなれて、なかなか楽しい毎日だ。一番の仲良しは、馬の世話をしているダイ。将来は馬の仕事をしたいといってる、俺より三つ下の男の子。腕力があるから、非力な俺はいろいろと世話になってるし、俺があいつの勉強をみてやったりしてる。いっしょにいると、すごく楽しい。小間使いと馬丁見習い。仲良くなっても、ぜんぜんおかしくない。…でもふと我にかえったとき、俺は後ろめたくなる。俺は身分を偽ってて、ダイを騙してるから。
ホントの俺の正体を知っても、ダイは友達でいてくれるだろうか?