御題百選壱〜弐拾伍


[ 001.めぐり合わせ ]

堯天の下町、安酒が売りの飯堂に二人の客があった。一人はくたびれた中年風の男、もう一人は、はっと目をひく赤毛の美少年だった。小さな卓子に酒肴をならべて、ぼそぼそと会話している。どこか妙なとりあわせだったが、不思議と飯堂の雰囲気に馴染んでおり、気にとめる者はなかった。
顔の下半分を髭で覆った中年は、目をまるくして美少年の話を聞いていた。
「それはそれは。大変でしたねぇ、陽旬」
労る声音でまだ耳慣れない偽名で呼ばれ、陽子は苦笑しながら答えた。
「うん。でもホントは、殺されかかったときより、浩瀚に怒られたときのほうが怖かった…」
「あー、そうかもしれませんな。あの方は、怒らせたくない御仁だ」
しみじみと呟けば、うんうんと同意するように頷かれ、陽子は首をかしげる。目の前の男と、浩瀚との接点がよくわからなかったのだ。
「去邴でも、そうなのか?」
問いかけに、去邴はしれっと答えていた。
「俺は小心者ですから」
「…どの口がそんな戯言をぬかす」
陽子が眉をひそめても、いっこうに気にとめる様子はない。
「これですよ、これ。今は、髭に隠れてますけどねv」
ぬけぬけと自分の髭をひっぱりながら答えるさまに、陽子がきれるよりも早く去邴は言葉を繋いだ。
「しかし、あなたの度胸には感服します」
急に話の矛先をかえられると、今度は陽子が目を丸くする番だった。
「あの方を激怒させるなんて真似は、そうそうはできません」
「げ、激怒…?!浩瀚は、怒ってたけどそんなには…」
きっぱりと言われると、慌てて状況を思い出しながら否定した。しかし去邴は軽く頭をふって、断言する。
「いや、絶対に激怒されてましたよ。なんたって物腰優雅で、非の打ち所のない礼節をわきまえた外面の良い方が、書面を書卓に放り出すなんて真似を人前でしでかすとは。怒りで目がくらんでいたとしか思えませんね」
まるで見てきたように蕩々と語る姿に、陽子の眉が潜められる。
「………何で知ってる」
「そこはそれ、イロイロと」
不審を一杯にこめた眼差しで見つめても、去邴が動じることはない。ふっふっふ、と意味深な笑みを浮かべるばかりだった。男のつかみ所のない、ぬらりひょんのような態度に馴れてきた陽子は、むう、と唇を拗ねたように尖らせることしかできないのだ。
「…ったく。秘密が多いヤツは、疑われるぞ」
「俺は、そこんとこが売りなもんで」
くたびれた中年風の男は、手酌で己の杯をみたしている。
呑気な姿に、ことさら声を潜めて陽子は問わずにはいられなかった。
「何でお前が禁軍中将軍なんだ?」
「そういう、めぐり合わせなんでしょう」

※陽子主上は禁軍中将軍の去邴(キョヘイ)と堯天を検分中。この後、迎えにきた桓魋に二人揃って怒られる予定。


[ 002.せつない ]



[ 003.太陽と月 ]



[ 004.血の臭い ]

※失道モノにつき要注意※

玉座の間へ続く回廊は広く、壁や柱、天井や床の装飾も見事なものがあった。だが、いまは見るかげもない。いや、見ることができないという方が正しいのかもしれない。その場所は、血の臭いで満たされていた。床には死体が転がり、身体の下には血溜りがあった。柱や壁、天井にさえも血飛沫は飛び散り、それらを紅く斑に塗りつぶしている。
死者たちの中に、二人の生者が立っていた。
一人は壮年の男、一人は若い女だった。
手にした得物は、多大な血の海をきずいてなお光を反射していた。次なる犠牲者を求めるように。
彼らは回廊を閉ざしていた。何者も、玉座の間に入ることを許さなかった。
背後の大扉を開くためには、二つの屍を乗り越えなければならない。成し遂げたものは、まだ無い。
死の回廊に、新たな足音が響く。ざっざっざっという規則的な足音は、訓練されたものだった。片頬に血を浴びた女が、かすかな笑みを浮かべる。男の方は、微動だにしなかった。
槍を構えた兵士たちの先頭には、男が立っていた。
「…そこをどいてくれ。この国は沈む――台輔が身罷られた」
そう告げた男は、見るかげもなくやつれていた。げっそりとこけた頬に精悍だった面影はない。
「俺は主上を、楽にしてさしあげたい」
真摯に言葉を口にする男に偽りは無い。大扉を閉ざす二人は、男を理解していた。だが、二人とも手にした冬器を男に向ける。
「この扉を開けることは、主命に反する」
「我らの生命あるかぎり、ここを通ることはかなわぬ」
兵士を率いて来た男は、顔を歪めた。今にも泣き出しそうな顔だった。対する二人の顔は、対照的に穏やかだった。
「…止めてくれ…俺は、お前たちを……!」
うめくような声は、対峙する壮年の男の声にさえぎられる。
「私は、お前を殺せる。桓魋…国を思うならば、戦え」
「できぬなら、ここでお前が死ぬだけだ」
女もまた、感情のこもらぬ視線で桓魋を見つめて言った。
「何故だ…っ!令法!石菖!」
桓魋の叫びは、もはや二人には届かなかった。
いや、届いてはいたのだ。ただ止められぬだけで。

※なんかもー、いろいろとスイマセン…。イメージなんです。


[ 005.かんざし ]



[ 006.心 ]



[ 007.忘れていた過去 ]



[ 008.束縛 ]



[ 009.蛇 ]

貴様、裏切ったな…!
裏切りは、お互い様だ。もっとも俺は、決してあの方を裏切ったりはしないが。己が主を偽り裏切ると決めたなら、己もまた誰かに偽られ裏切られる可能性を疑うべきだったな。
蛇め…っ!
自分は蛇以下だと認めるか。ありがたいことだ。人を殺すよりは、良心が痛まずにすむ。



[ 010.悩みごと ]

「…不条理だ」
練兵場の片隅で、ぼそりと桓魋は呟いていた。
「何がだ?」
隣に立っていた去邴がたずねる。男ののほほんとした風情を睨め付けながら、桓魋は激白していた。
「王師には、将軍が6人もいるのに。なんで俺ばっかり…!」
…今日も、陽子主上のストレス発散のお相手を務めた桓魋であった。去邴は、面白そうな光を瞳にやどしつつも、神妙な顔つきでもって悩める桓魋の肩に、ぽんと手をおいて告げる。
「桓魋、お前は主上に愛されてる。光栄に思わなくてどーするんだ」
「お前にも愛を分けてやるぞ、去邴」
頬をひくつかせながら桓魋が言うと、去邴は大げさなそぶりでもて肩をすくめた。
「俺は主上に、もうこれ以上はないほど愛されてるから、すとれすまでは手に負えん」
「おーまーえーはー…!」
去邴の無責任な態度に、桓魋は思わず襟首をつかむ。
「まてまてまて」
さすがに身の危険を感じたのか、去邴は愛想笑いをしながら桓魋を宥める。とりあえず腕を襟首からひきはがすと、改めて桓魋に向き直る。
「よし、そんじゃ真面目な話をしよう」
「………」
だが桓魋の目は冷たい。
「何だ、その目は。俺を信用しろって」
去邴はかけらも信用できない態度でもって、桓魋に話し始めていた。
「確かに王師には、将軍が6人いる。だが主上のご気性からして、外見がご老体の岳のオヤジや、クソ真面目で面白みのない令法、迅雷に「すとれす発散のため、剣術を指南してくれ」と命ぜられるとは思えない。そうだろ?」
「まあな」
問われて桓魋は頷く。
「とすると、残るは三人。俺とお前、石菖だ。石菖の太刀筋は、お前も知ってのとおりのアレだ。俺としては、アレを主上に覚えて欲しくはないな」
「──確かに」
思わず桓魋も頷いてしまうほど、瑛州中軍を預かる石菖の剣技は独特だった。まず剣からして、刺突に特化した針のような剣なのだ。とても陽子が真似できるものでもなく、打ち合ってストレス発散も無理なしろものだった。
去邴はへらっと笑いながら続けて告げる。
「で、俺とお前だったら、お前の方が体力がある。お前が主上のお相手を務めるのは、理に適ってるだろ?」
「剣技なら、お前の方が上だ」
間髪入れずに、桓魋は言った。全ての武器の扱いに精通していても、桓魋が槍術を得意とするように、目の前の男は剣技において際だっている。それを知るものは少ないが、手合わせをした自分には嫌というほどわかっていた。だが告げられた去邴は、口元をゆがめる。
「俺が得意なのは、人殺しの技さ。主上に必要なのは、自分の身をまもる剣術だ」
自嘲の言葉を吐くと、去邴は桓魋をまぶしそうに見つめて言った。
「桓魋、お前になら主上を預けても安心できる。他の奴らも、そう思ってる。でなければ、岳のオヤジや令法が主上を止めてるはずだからな」

※桓魋は他の将からも信頼されている模様。


[ 011.海風 ]



[ 012.岩のごとき ]



[ 013.おつかい ]



[ 014.壁 ]






[ 015.祭りのはじまり ]



[ 016.宝 ]



[ 017.お休みください ]

※失道モノにつき要注意※

玉座に座る少女が、ぼんやりと呟いていた。
「景麒が、逝ってしまった」
「…お分かりになるのですか?」
傍らに立っていた男は、動じることなく言った。
「うん。景麒は、私の片割れだから…置いていくことになるかと思ってた…よかった」
少女の口調に、生気はない。激しい感情の嵐が、少女の上から過ぎ去って久しい。今、こうしている彼女は、在りし日の残照のようなものだった。だが隣の男は、それを気に止めるでもなく、穏やかな声で彼女に話しかける。
「台輔は、寂しがり屋でしたからね。きっと、主上が来るのを待っておられますよ」
「…あれほど苦しめた私を?」
不思議そうに、少女は男を見上げた。男は安心させるように微笑むと、結われていない少女の緋い髪を撫ぜる。
「そんな事は気にされません。台輔は主上も寂しがり屋ってことを、よーくご存知ですからね」
声につられるように、少女もまた微笑んだ。痛々しいほど憔悴した面にうかべられたそれは、本当に久しぶりのものだった。
「そうか…そうだと、嬉しいな。私を送ってくれるか?去邴」
「はい」
何でもないことのように、去邴は答える。それは少女にとって、嬉しいことでもあり哀しいことでもあった。
「―――すまない」
思わず零れた謝罪の言葉に、去邴は笑う。初めて会ったときと変わらない、軽やかな笑みだった。
「貴女は、俺の主です。命じるだけでいいんですよ」
そう言う去邴に、少女は最後の命を告げる。
「ならば、命じたことを…必ず成し遂げろ」
「はい」
かけらの迷いもなく答えた去邴を見届けると、少女は玉座に深く座り、瞳を閉じてつぶやいた。
「私は…疲れた」
「どうぞお休みください。令法と石菖が、貴女を迎える準備を整えております」
去邴の穏やかな声とともに、剣をぬく音が聞こえる。
「……うん。ありがとう、去邴…」
瞳をとじると、闇の中に面影が浮かぶ。もう二度と逢えない。合わす顔もない。
それでも彼に逢えたことを、幸福に思う。
微かな笑みを浮かべたとき、風を切る音がした。

白雉は鳴き―――そして、落ちる。

※イメージなんです…!理由とか、深く考えてるよーな考えてないよーな。


[ 018.陶酔 ]



[ 019.どこなんだ ]

王師にて主上出現マップ作成中




[ 020.清く貧しく ]
「ねぇねぇ、禁軍左将軍さまぁ〜ん。一生のお願い、聞いて、聞いてぇ〜ん?」
「…………」
すたすたと回廊を歩く桓魋は背後から聞こえてくるしなを作った声を、無視し続けていた。
「よそ見してないでよぉ」
だがとうとう色っぽい声をだす相手に腕を無理矢理組まれてしまう。鳥肌がたつような行為に、桓魋は叫ばざるを得ない。
気色の悪い声をだすなっ!去邴っ!!
「お、やっとこっちを見たな」
むりやり桓魋と腕をくんだ、似たような背格好の相手はニヤリと笑う。顔の下半分は髭で覆われているのに、なんでこいつはこうも表情豊かなんだと、常日頃、桓魋は不思議に思っていた。
「見たくもないツラを見てやっている、俺の慈悲に感謝しろ」
冷たい声と視線をなげても、相手はまったく気にしない。
「する!すっげー感謝する!もう感謝しまくり!!」
おもむろに去邴は、桓魋に両手を差し出して口にした。
「だから、金貸して」
あまりにも直接的な言葉だった。続く去邴の言葉は、さらに桓魋を困惑させる。
「俺、今、領地ナシなの」
「は?」
将軍ともなれば、一県を管理し収入はそこから得る。それがないなど、聞いたこともない。だが去邴は、嘘をつくならもっと上手につく男なのだ。
「同情しろ。そして金を恵んでくれ」
「…お前、今度は何をした?」
真剣な顔で迫られ、嫌な予感とともに桓魋は聞いた。
「はっはっは。主上と賭場で夜通し遊び倒したのが、台輔と冢宰にばれた」
その結果、減棒というか、一時的に領地からの収入を凍結されているらしい。
あっけらかんと、とんでもない事を口にする同僚に、桓魋の拳は震えていた。
……この恥さらしが──っ!
罵声が、金波宮に轟くのだった。

陽子は、執務室の窓から庭林をかけめぐる一人の人間と、一頭の熊を見つめていた。遠目にみれば、なかよく追いかけっこをしているように見えなくもない。
「桓魋と去邴は、仲が良いな」
羨ましげにつぶやくと、傍らの浩瀚は笑みを浮かべた。
「そういう見方もできますね」
さっさと熊の餌食になってしまえと願いながら、浩瀚は庭林を見つめるのだった。

※給料体型が、よくわからないので。適当に書かせてもらいした。将軍は…県をもってるんだっけ?


[ 021.火鉢 ]



[ 022.月の呪力 ]



[ 023.我が身、盾となる ]

桓魋の使命



[ 024.居場所 ]



[ 025.覿面の罪 ]