(6)ピット手づくり
 
 体操の練習においてこどもの怪我を未然に防ぎ、安全に、しかも効率よく技の習得を図るには従来のエバーマットだけでの練習には限界があります。ピットは体操の練習には必要不可欠な施設です。しかし、ピットをつくるには多額の費用がかかるためおいそれと備えることが出来ません。ピットがないため技の習得が遅れ成績が上がらなかったり怪我をしてしまうことは耐え難く悲しいことです。ピットがあれば安心して意欲的に練習に取り組めるのにと有効性への羨望は募るばかりです。
 練習期間の長い者には高難度のひねり技・宙返り技・手放し技に挑む者も出てきました。こども達がより難度の高い技に安全に取り組めるようピットをつくる必要性にせまられるようになりました。土を掘りウレタンチップを入れただけの簡単なピットらしきものでも安全性は高まり練習効果も上がるに違いないものと考え親とこどもに協力願ってピットづくりの作業を行うことにしました。
 床は約10cmの厚さのコンクリートです。どうやって穴を開けたらよいか考えましたがドリルはないし大きなハンマーで叩き割る原始的な方法しか思い浮かびませんでした。固く厚いコンクリートは容易に砕けるものではありませんでしたがどうにか壊しました。土はツルハシ・スコップ・バケツ・一輪車を使って掘り出し、ゆか・跳馬・鉄棒・段違い平行棒の着地部分に穴を掘ることができました。人力のみに頼った慣れない土木作業に仕事を終わった夕方には全員声も出ないほどにクタクタに疲れ切っていました。三位一体になって力を合わせた手づくりピット奉仕作業の一日でした。ウレタンチップを入れ待望のピットは出来上がりました。額に汗を流した辛く苦しい作業を通して心の絆は太く強くなりました。
 僅か50cm程度に掘った穴に屑のウレタンチップを入れただけのピットらしきものでしたがこども達の着地・落下への安心感は大きく今まで怖がっていたために躊躇して失敗していた技も難無くこなせるようになりました。ピットの効果は絶大でありました。捻挫などの怪我は殆どなくなり練習効果は上がりそれまでよりも一段高い競技力をつけることが出来、県大会等で更に良い成績を挙げられるようになりました。
 安全な練習施設に恵まれることは体操競技練習のもっとも大切な前提条件になることを再認識しました。日本はこどもの使える体操専用練習場が少ないこと、ピットの整備が遅れていることが競技力低下の大きな原因になっているものと考えます。経済大国ニッポンなのになぜ、いつでも誰でも使える公立のピット付き体操専用練習場がどこにもないのでしょうか。
平成2年 ピット掘り作業