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Inside Farming Vol.16 (Japanese)



農業に適した土地が減っていく!本当にいいの?

河合果樹園のある波田町は、長野県松本市の西側に位置する人口1万3千人程度の町である。もし皆さんが上高地を訪れた事があるのなら、国道158号で松本から初めに通過する町が波田町だ。
波田町や近隣市町村のある松本盆地西側の山麓の道沿いは「サラダ街道」と呼ばれるくらい農業に適した土と気候に恵まれている。だから波田町は昔から苗木、米、西瓜、林檎などと農業が発展してきたし、町の産業と経済も農業が引っ張ってきた(と農業に従事してきた人々は誇りを持っている)。

そんな波田町だが現在、松本市のベッドタウン化が徐々に進みつつある。同じ町内でも私が住んでいる山沿いはまだいい方なのだが、国道158号や松本電鉄上高地線沿線はすっかり住宅地になっている。そしてその周辺では農地と宅地が虫食い状態のように入り乱れている場所もある。例えばオセロ・ゲームのように新興の住宅に囲まれた農地は宅地にするしかないし、たとえ住宅に隣接していなくても、有機的な栽培の為に堆肥を畑に撒くと御近所から匂いの苦情を言われると友人が嘆いている。年に10回前後の早朝の病害虫防除作業も機械の音がうるさいと問題になったりする。
さらに農業者の高齢化と後継者不足はこの町でも問題になりつつある。耕す人間がいなくなれば農地はもはや”お荷物”だ。農地法によって農地の地目変更が制限されているとしても、侵食される海岸のように、宅地化という大きな波を押しとどめる事は出来ていない。

だけど、優良な農地がこんな風にどんどん減少してしまっていいのだろうか?

私も含め農業に就いている者には土地(農地)に「こだわり」を持っている者が多い。
それは単に不動産としての資産価値や、先祖代々受け継いできた大切な物だからという事だけでなく、「作物を栽培するのに適した肥沃な土地を安易に手放したり、セメントで固めていいの?」という、漠然とした疑問と不安を身近に感じる事ができるからだと思う。大風呂敷きを広げて日本や世界の食料問題を論ずるに私は知識も教養も農地も小さすぎるけれど、農地が”どんどん”減っていくのを目の当たりにしていると、これで本当にいいの?と大きな声で叫びたくなる。

宅地化だけではない。現在、町(国?県?)は「国道158号のバイパス」建設によって優良な農地を、草一つ生えないセメントで固めようとしている。松本と飛騨を結ぶ安房トンネル開通によって増える交通量を考えての計画だそうだが・・・。
もし皆さんが数年後に上高地、乗鞍、そして松本から飛騨に自動車で旅行しようとしているなら、農地をつぶした上に出来たバイパスをドライブするかもしれない。私も、バイパス沿線にできる地場産業の直売所で林檎を販売しているかもしれない。バイパスのおかげで渋滞が緩和され、観光地が近くなり、輸送が迅速になって、商業圏が広がり、地域は活性化しているかもしれない。トラック・ターミナルやガソリン・スタンド、コンビニ、郊外店の進出で雇用が生まれ町の財政も潤っているかもしれない。
けれどもそれが、町の発展ということなのか?

肥沃で優良な農地は分断され、確実に減少し、決して元には戻らない。
これと同じ事は地方都市近郊ではきっとよくある話なのだ。そう思うと、本当に寂しくなる。


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