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Inside Farming Vol.14 (Japanese)



果樹園ごとに異なる「土」の質。「土」は複雑で難解だ。

農産物を作るのに一番大切なのは「土」である。
それは肥沃な土地で作物を作れば大きな果実が収穫できるからという簡単なものではない。「いい土」で栽培すれば健康な作物が育ち、それによって植物が本来もつ免疫力もアップし病気にも強くなり、減農薬にも結びつく。そして「いい土」では何年も継続的にもおいしい作物が栽培できると考えられているからだ。
何十年も農業に携わるベテランならば、長年の経験とひらめきで農産物を上手に育てるのに適した「土」を作る事ができるだろう。前年までの肥料の量や、作物の葉っぱの色や厚さ、新しい枝や芽の伸びる長さ、発生する病気、果実の大きさや色・味などから、どのような成分が不足しているのか、どのような成分が過剰なのか大体分かるのだ。

しかし「土」は本当に複雑で、難解なものだ。一朝一夕でベテランの技術は得られない。ベテランが「土」を考えるときは最低でも3つのカテゴリを扱っている。一つめは主に物理的な特徴で、火山灰土か砂地なのか、ボクボクして弾力があるのかベッタリしているかなどだ。これは肥料の利き方、根の張り方に関係している。2つめには「土」が含んでいる栄養素。成長に必要な窒素、燐酸、カリ、苦土のバランスやpH。文字どおり作物の成長に大きな影響を与える。そして3つ目はそこにミミズや有効な微生物がいるかどうかという事で、これは「土」そのものの健康状態を考えているということだ。

残念ながらまだ私にはそこまでの経験はない。
そこで「下手の考え休むに似たり」という先人の言葉に従い専門家をお願いする事にした。実は私のブレインは親友の農業技術員(団体職員)。彼にお願いして土壌分析と来年の施肥基準を教えてもらった(無報酬でごめんね)。

結論のみ報告すると腐植(有機)は多め、カルシウム、燐酸、カリはほぼ適正であった。しかしマグネシウムが少々少ない事、phが中性から弱アルカリ性に寄っているという指摘を受け、それを補正していく為のレクチャーをしてくれた。栄養分の絶対量よりもバランスを重要視しろと指摘されたのが印象深かった。今年の春の施肥からそのアドバイスを実践していくつもりだ。
そういえば、私がここ数年土壌に対して分析した事はpHを計る事くらい。有機質の多そうな肥料を使用したり、渋味を残さないように窒素を控えたり、果実の食味を良くする為にカキ殻を撒いたり、いずれも感覚的な努力に終始していた。土壌に関しては一度しっかり分析しなくてはならないと思いながらも、土壌中の成分は目に見えないし、効果が一週間、2週間の短期間では分からないためにおざなりになってしまっていたのではないかと反省した。農薬を少なくしていく努力はその減らした数量が成果として目に見えるし、PR効果も高いから計画的に真剣に取り組んでこれたのに。

今回の分析の為に3個所に点在している我が家の果樹園のそれぞれの土を採取してきて並べてみた。もう8年も農業に携わってきたのに、初めて土の色が三者三様微妙に異なる事に気が付いた。かつて高名なソムリエが、ワインの味は産地ごとでなく、ブドウ畑ごと異なるといっていたのが、妙にうなずける瞬間であった。
ただ、ブレインの彼に言わせると、「確かに場所によって土の質は異なるだろうが、分析すると場所の違いよりも生産者の違いによる土壌の違いの方が顕著に出るのではないか」ということだ。ふーん。

「土」は本当に複雑で、難解だから、理解するには時間がかかりそうだ。でもやっとスタートラインに立った気がした。


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