Inside Farming Vol.10 (Japanese) 長野オリンピック。自然の生態系は守れるのか? オリンピックの男子滑降競技のスタート地点が決まった。 競技大会重視の1800m地点、保護地域を通らない環境配慮の1680m地点という対立した2案に対して1765mからのスタートという、いわば日本的な落とし所で決着した。一時的なスポーツ大会のために恒久的な自然の生態系に影響を与えてよいのかという問題は広く議論されることもなく、政治的な妥協から導き出された結論という印象が強い。 環境コンシャスなオリンピックというものを考えたとき、NAOC(長野オリンピック組織委員会)の”かたくな”にも見える環境重視の態度は理に適ったものであったと思う。だから、競技運営のために「環境との共存」という基本理念を曲げてしまった事はとても残念な事に思えた。 私も長野県に住む者の一人として、この大会(特に歓迎している訳ではない)が長野の国際的な”信用”の為に順調に成功して欲しいと思っている。でも、理念に沿わない滑降競技を中止して運営に滞りが出る事と、運営は順調でも大きく掲げた基本理念を曲げる事では、後者の方が国際的な”信用”を落としているような気がして、なんとなく辛い。 オリンピックから急に卑近な話題になってしまうが、数年前、近隣の村の山が土砂採掘か開発のために削られた。すると私の果樹園のある農耕地帯の風の流れが変ってしまった。小さな竜巻が多発するようになったり、4月・5月頃の霜の降りる場所も変ってしまった(霜は風の流れや地形に沿って、特定の範囲に強く降りる)。その結果、いままでは霜の被害がなかった場所で、急に霜による冷害が発生して植物(林檎も)は完全な受粉ができなくなってしまう。 これは、標高約650m地点での話である。 人為的な地形の変更が、鈍感な人間にも分かるほどの自然の変化をもたらしている。高山植物の生態系は知らないが、もっと厳しい環境のなかで繊細な動植物が生息している世界では、推して知るべし、である。 風の流れ一つでも”人間の手が入って変らない自然はない”と実感できる。そして”一度破壊した生態系は人間が元どおりに戻す事は出来ないに違いない”と感じてしまう。 スポーツと自然。プライオリティの高いのはどっち? 開発と自然はどっち?経済活動と自然は? (そうは言っても私もスキーを楽しむ。アスファルトで固められた道を自動車で走りまわっている。山を破壊して作られたダムの電力に頼って生きている。よって、大きな事は言えないが・・。) Go to Inside farming index page kawai@wmail.plala.or.jp 写真、本文とも Copyright(C) 河合果樹園 |