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Inside Farming Vol.2 (Japanese)

8月に美味しい林檎は流通しているか?

8月中旬になるとかつては初秋の林檎と思われていた林檎が流通し始める。きれいな薄い赤色の小ぶりな「つがる」はもはや8月の林檎と呼んでもよい。河合果樹園では「つがる」の一種の「芳明」という林檎を栽培しているが、系統販売向けの収穫の中心は8月28日前後である。私が農業を始めた8年ほど前は収穫の中心は9月10日だったからそれと比べると林檎の収穫時期は10日以上早まっている。一年間の中の10日と考えれば僅かな期間だが、果物が熟すこの時期の10日間というものには特別な意味があるのに。

これほど収穫が早くなった大きな要因は市場価格である。長野県を例にすれば、8月中に出荷される林檎ほど価格が高い。9月に入れば東北各県の林檎との競合、さらに梨など他の果物との競争によって価格は右肩下がりの状態で推移することになる。そのため農家は系統販売業者の掛け声に合わせて、果実に少しでも色がついたらすぐに収穫して系統販売に出荷することが多くなる。

もちろん日本では昔から「初物」に価値を見出す食文化があったのだから、早い林檎にある程度の価値はある。しかし今の出荷のタイミングは「旬」を取り違えているようにさえ見える。更に、見た目の色を重視して林檎に味わいがないこの販売方法が将来消費者の林檎離れをおこしてしまい、消費全体のパイさえも小さくしてしまうのではないかと危惧もしている。そこには生産者と消費者の意志が無いようにも思える。(−それとも消費者の嗜好が硬くて渋い未熟な味を求めるようになっているのか?だとしたら私が消費動向に乗り遅れていることになる。我が家の林檎は熟しても硬くて旨いのだけれど−)。

私も、この初秋の林檎の多くは系統販売に頼っている。だから栽培した多くは8月中に出荷しているし、市場に対して好評ならばそれはそれで良いのではないかと思っている。市場(流通)に出たら市場の論理に従うのが一番だ。
しかし、一方で私が自分で自分のお客様に林檎を販売するときは今でも9月10日前後に収穫して発送する。葉摘みも、葉から果実へのでん粉の移行を考えてなるべく遅くに行っている。そうしないと自分が納得した味の林檎にならないからだ。こういう事は生産者の論理(独善)かも知れない。が、そういう味を求めている消費者だっているはずと信じている。(1999加筆:99年からすべての早期出荷対策を止めた。当然ならが反射マルチ、袋、薬品などを使う人工着色を一切していない。美味い納得のいく林檎を収穫するのはなんて気分のいい事か改めて実感できた。果実も大きくなって収穫量も増えた。価格は少々下がったがそれは納得のうえだ!それより誠実なものを売りたい!!!)

この初秋の林檎を想うとき、いつも秋刀魚のことを考える。昔の秋刀魚は油が乗っていて豊潤な味わいがあり旨かった。きっと昔も今も旬の秋刀魚は旨いはずなのに、最近まったく旨い秋刀魚に出会わない。海の無い長野県でも旨い物を食べれるだけの輸送方法も流通も発達してきたのにである。なぜか?。そこには漁から食卓まで旨い物が届かないトリックがあるのか?全く分からない。誰か教えてください、旨い秋刀魚を手に入れる方法を。

*系統販売(農家個人では販売ルートや営業を持っていないために選果や箱詰め、販売を委託した業者・団体のこと)
*初校1997、加筆1999


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写真、本文とも Copyright(C) 河合果樹園