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Inside Farming Vol.1 (Japanese)

農業とは、自然に翻弄されるものだと思う

9月は台風の季節。毎年9月中旬に日本を直撃する「19号」には何度となく痛い目に会っている。

ニュートンが万有引力を発見して以来、林檎は熟すと木から落ちやすくなった。そしてその「19号」が来るこの時期は「芳明」の収穫時期とぴったり重なり、台風の暴風が落ちやすい林檎を容赦無く落としてしまう。まだ収穫期を迎えていない「ふじ」や「ジョナゴールド」の果実でさえも風速が15メートルを超えると落ちはじめる。落ちないまでも、果実は暴風で揺すられ、枝と擦れ合い傷が付いてしまう。傷が付くと商品としての価値は低下する。

被害を受けたときの気持ちは完成直前に倒れ始めた巨大なドミノ並べ。「収穫直前」という浮かれた昂揚感から急転直下に叩きのめされた精神的ダメージは、本当の無力感というもの知らしめる。台風の情報に耳を傾け、いくら天気図で進路を確認したとしても、来るときは来る。全く抵抗できないのが現状だ。

春先の霜、初夏の雹、夏の干ばつ、秋の台風、昨今の異常気象など、農業はいつでも自然に翻弄されている。幸いにして私の園は今までは、壊滅的とまで呼ぶような自然災害に遭ったことはない(もちろん年に何回も大きな災害に遭うような地域で、被害に遭いやすい作物の栽培を継続することはそもそも経済の常識からかけ離れている)。だが、たとえ軽度の被害でも2年・3年と連続すればもう農業を継続していく経営的な体力はないといえる。そう考えると農業経営を安定したビジネスと捉える事は本当に難しいと悟ってしまう。

諦めではないが、農業とはそういうものかもしれない。作物を育てるということは、時には猛威を振るう自然との共同作業なのだから。
そういう事だと分かった上で多くの農業者は「誇り」と「やりがい」を持って仕事をしている。農業の持つ魅力に気が付いていれば、たとえ被害に遭っても経営的な体力がある限り農業を継続するだろう。多少不安定でも魅力的な作物の栽培に努力を惜しまないだろう。そして毎年の収穫と同時に、自然に感謝する気持ちを新たにするのだと思う。

しかし同時に、多くの農業者は多くのビジネスマンと同様に、安定と高収入を求める。もちろん条件の良い他の職業への転職を辞さない。それは農業も他の職業と同様に仕事の選択肢の一つでしかないのだから当然で、今までも繰り返されてきたし、これからも続いていくにちがいない。それもまた経営の柔軟な選択であるし、農業の現実であるということも、多くの農業者は知っているからだ。



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