「CsIシンチレータ+PD」を外付けにしたγ線検出器 (2012/04/20)


 食品の放射能検査をやろうとすると高感度のγ線検出器が必要になる。感度を上げるにはカウント率や分解能が高い検出器を使い、かつ、バックグラウンド放射線によるノイズを減らす遮蔽容器が必要となる。大型のシンチレータを内蔵する検出器やGe検出器など、おいそれと手に入らないような高価な装置なら話は別だが、部品代の合計が数千円で済んでしまうような検出器を使う場合、遮蔽容器の値段のほうが圧倒的に高くなってしまい、コストバランスが良くない。遮蔽容器の値段は構成材料(鉛)の使用量で決まってしまうので、遮蔽効果を維持しつつ値段を下げるには遮蔽空間の容積を減らすしかない。つまり遮蔽容器を小型化するということである。それでも2〜3万円はかかってしまうのだが。

 小型の遮蔽容器を有効に利用するにはその中に入れる検出器をなるべくコンパクトなものにしたい。そんなことを考えているうちに、Dokuさんのページが目に入った。

1) 「CsI結晶とフォトダイオードによるガンマ線スペクトル観察」:http://doku.bimyo.jp/spectrum/index.html

2) 「秋月CsIシンチレータとS6775用の超簡単・超低雑音ガンマ線検出器」:http://doku.bimyo.jp/preamp/index.html

 これらの作製記事では、検出ヘッド(シンチレータ+PD)とチャージアンプを分離した構成が紹介されている。小さな遮蔽容器に入れるのに好都合なので、早速試してみることにした。

 検出ヘッドは1cm角CsIシンチレータとPD(S6775)の足に2SK170BLを抱かせただけのシンプルな構成(2)を選択した。もっとも今回、2SK170はBLではなく手持ちのGRを使った。チャージアンプは以前紹介したもの(PINフォトダイオードによるγ線エネルギースペクトル測定(3) (2012/01/08))をそのまま活用した。チャージアンプ側についている2SK170のドレイン抵抗(330Ω)は要調整です。

  

 検出ヘッドはピンジャック1本でアンプ本体に接続する。シンプルでいい。(組み立ての詳細はDokuさんのページをご覧下さい。)

 

こちらはアンプ本体。(人にお見せできるようなものではないが、見せちゃいます)

 こうやって検出ヘッドとアンプを分離してみて気づいたのだが、以前から気になっていた”振動ノイズ”が出なくなった。アンプ本体をドライバーの柄でゴンゴン叩いてもノイズがのらない。ノイズの一因は「シンチ+PD」の取り付け方にあったようだ。重いシンチレータをPDの足2本だけで支えていたのが良くなかったようだ。一方、分離した検出ヘッドのほうも結構、振動ノイズに強いようで、雑に扱っても振動ノイズを拾いにくい。アルミテープでぐるぐる巻きにしているせいだろう。なお、ここで使用しているアンプは以前の振動ノイズ対策でセラミックコンデンサをフィルムコンデンサに置き換えたものだ。(2pFの帰還コンデンサはセラコンのままです。)試しに、元のセラミックコンデンサを使ったアンプに検出ヘッドをつないでみると案の定、”振動ノイズ”が現れた。セラミックコンデンサのマイクロフォニック効果がどこかで出ているようだ。0.1μFのカップリングコンデンサあたりだろうか、特定はできていないが。

 検出器の電気ノイズのほうはあまり変化なく、ノイズの裾野が〜100keVあたりに引っかかっている。Cs汚染土の測定例を以下に示す。

 (測定:1時間)

 

 この装置構成で煎茶(乾燥茶葉)を測ってみた。お茶の袋で検出ヘッドを挟んで、遮蔽容器(5cm厚鉛ブロック)の中にセットした。サンプルは「煎茶(乾燥茶葉)の放射能測定 (2012/03/29)」で使った試料Bである。BGO検出器で測定した結果はK40が420Bq/kgであった。Csについては校正ができていないが、KとCsに対するBGOシンチレータの感度比を考慮すると実際の放射性Cs濃度は100Bq/kg前後になると思われる。前回同様、未開封の100g入り袋をそのまま測定した。計測ソフトにはPRAを用いた。

 4時間測定したスペクトルを以下に示す。バックグラウンド(BG)の測定時間は8時間。

 

 体積がわずか1ccのシンチレータだが、Csピークをはっきりと確認できる。Cs濃度が100Bq/kg程度の試料なら4時間以内にCsピークを判別できるくらいのカウント数が得られるということだ。一方、K40(カリウム)のピークはほとんど認識できない。高エネルギー領域では光電吸収の確率がかなり落ちているようだ。これもシンチレータの特性なので致し方ない。

 ともかくCsピークが見えているので、ベクレル値が既知のCsサンプルがあれば光電ピークの面積強度を直接比較することで定量評価できる。1cm角CsIシンチレータでもCs:数10Bq/kgくらいは簡便に測れそうである。

 


5mm角CsIシンチレータ

 検出ヘッドを簡単に取り替える事ができるようになったので、5mm角CsI+S6775(+2SK170GR)の検出ヘッドも作ってみた。

シンチレータの体積が1cm角の1/8なので検出感度も相応に低下してしまうが、環境測定にならそこそこ使えそうなので遊んでみた。Cs汚染土を4時間測定した結果を以下に示す。たまたまgmの大きな2SK170に当たったのか、ノイズレベルが100keV以下に下がっていた。Cs134:605keVとCs137:662keVのピークの頭が分かれて見えるなど、スペクトル分解能があがっている。

Cs汚染土、(測定:4時間)

次はマントルの測定結果。100keV以下の特性X線ピークが見えている。

マントル、(測定:4時間)

 


[追記] CsIシンチレータとPDのサイズ  (2012/05/16)

 5mm角CsIとS6775の組合せでS/N比が向上した理由がアンプノイズ低減ではなくPD受光量の増大にあるようなので、データを追加して説明ます。

 下図は、チャージアンプのゲインおよびMCA(PRA)のチャンネル幅を固定して5mm角CsIと1cm角CsIでとったスペクトルを比較したも のです。線源はホットスポットから採取したCs汚染土で、測定時間はそれぞれ1時間です。Cs134:796keVピークの位置を矢印で示しましたが、横 軸のチャンネルナンバーはPDから出力されるパルス波高値に対応しているので、1cm角CsIを使った場合にはPDの受光量が5mm角CsIの場合の 60%程度しかないことがわかります。一方、シンチレータの発光量はシンチレータの大きさに依らず一定ですから、1cm角CsIを使った場合にはPDによ る光のとりこぼしが多いことになります。PD(S6775)の受光面積は5.5mm×4.8mmで5mm角シンチだとぴったりですが、1cm角シンチの場 合1/4しかありません。いくら反射材(白色のシールテープ)でグルグル巻きにしたとしても限界があるようです。

 さらに、5mm角CsIを受光面積が小さいPD:S2506と組み合わせた場合を比較しました。S2506の受光面 積:2.77mm×2.77mmはシンチレータ面の約1/3です。線源はホットスポットから採取したCs汚染土、測定時間は1時間です。S6775と S2506の端子間容量が異なるので電気的に同一条件にはならず、あくまで参考、ということです。S2506のほうが端子間容量が小さいので2SK170 の入力容量(30pF)が並列に加わったとしてもS6775よりもパルス波高が大きくなることが期待されるのだが、測定結果を見るとS6775の70%程 度しか出ていません。これもシンチレータとPDのサイズミスマッチを示唆するものなのでしょう。

 シンチレータの大きさに比べて受光面積の小さなPDを貼り付けて使うと、どうやらシンチ光のとりこぼしが大きいようです。これによりパルス波高値 が全体に小さくなり、結果としてノイズレベルが相対的に上昇する、ということになっているようです。シンチ光のとりこぼしがあるからといってカウント率自体は変化しないので検出器の感度にはさほど影響ないでしょう。ただS/N比が悪化する分、スペクトルの分解能が低下します。

 

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