スモールループアンテナ(マグネチックループアンテナ)は同調容量を変えてやれば多バンドで使用できます。その際、できれば無調整で入力インピーダンスを50Ω近辺に抑えたいところです。給電ループ方式(磁気結合方式)スモールループアンテナのマルチバンドでのインピーダンスマッチングについて、前出の”SWR計算機”を使いながら考察したいと思います。
太さ1cmφの銅パイプで直径64cmのメインループをつくるとします。メインループの直径と線径(エレメントの太さ)を与えればそのインダクタンスを計算できて、この場合は1.7µHとなります。さらに各周波数におけるリアクタンス(2πf・L2)、輻射抵抗(RR)、損失抵抗(RL)、Q値、輻射効率(η)が得られます。
表1.メインループの諸特性
バンド | f [MHz] | 2πf・L2 [Ω] | RR [Ω] | RL [Ω] | Q | η [%] |
10MHz帯 | 10.123 | 111 | 0.004 | 0.053 | 943 | 7.4 |
14MHz帯 | 14.075 | 151 | 0.016 | 0.063 | 958 | 20.2 |
18MHz帯 | 18.171 | 195 | 0.044 | 0.071 | 843 | 38.3 |
21MHz帯 | 21.219 | 227 | 0.082 | 0.077 | 714 | 51.6 |
24MHz帯 | 24.934 | 267 | 0.157 | 0.083 | 556 | 65.3 |
28MHz帯 | 28.731 | 308 | 0.276 | 0.090 | 420 | 75.5 |
次に給電ループの設計値(ループ径、線径)を与えてインピーダンス整合状態をSWRで確認してみます。
<給電ループの直径とインピーダンス整合>
給電ループの直径が9cm、11cm、16cmの場合を計算してみます。線の太さ(直径)はとりあえず4mmとします。実際のインピーダンス調整ではメインループと給電ループの相対位置や角度を調整するわけですが、”SWR計算機”では相互インダクタンスの大きさを表すパラメータ:nを与えます。メインループの中央に給電ループを配したときの相互インダクタンス(LX0)をn倍した値が計算で使用する相互インダクタンス(LX)です。これをいちいち手入力するのは大変ですから、マクロを実行することでnを0から5まで小刻みに変えながらそれぞれのnにおける最小SWRをグラフに表示するようにしています。このグラフから良好な整合条件(VSWR〜1.0)となるnを見つけることができます。今回はSWR=1.5を与えるn1、n2もグラフから読み取り、整合条件の幅の目安としました。計算結果は下図のようになりました。
最小SWRを与えるn値をマーカーで、SWR<1.5の範囲をバーで示しています。給電ループ径の違いで極端な差はありませんがループ径を小さくしたほうがn値の変動が縮小する傾向が見られます。比較のため、最小SWRを与えるn値を1つのグラフに表示してみました。
仮にn値の変動がなく横一直線に並んだとすれば、すべてのバンドで同時に最小SWRが得られることになり好都合なのですが、実際はなかなかそう上手くいきません。
ループ径が小さいということはそのインダクタンスが小さいことを意味します。インダクタンスの計算値(線径:4mmφ)は
給電ループの直径(cm) | インダクタンス:L1(µH) |
9 | 0.181 |
11 | 0.235 |
16 | 0.379 |
となります。ではなぜL1が小さいとn値の変動が小さくなるのでしょうか。具体例でみていくことにします。
まず、ループ径16cmの場合、10〜21MHz帯ではn=1.0でほぼ整合がとれます。一例として、14MHz帯で入力インピーダンスとSWRはこうなっています。
同じn=1.0のままで28MHz帯に移ると、
となって、Im(Z)>0の状態にあることがわかります。これはIm(Z)のベースラインが2πf・LXであるため、fの増大とともにIm(Z)曲線が上方にシフトするからです。Im(Z)=0に近づけるにはnを大きくして(ループ間の結合を強くして)Im(Z)の振れ幅を大きくする必要があります。具体的にはnを1.0から1.45に増やすことで整合状態が得られ、次のようになります。
ではループ径9cmの場合はどうでしょうか。14MHz帯での整合条件(n=2.7)ではこのような結果です。
同じn=2.7のままで28MHzバンドを計算すると以下の結果となります。
今度はSWRが1.5まで下がっています。ループ径16cmではSWR>2でしたから、これに比べればかなり整合状態に近づいていることがわかります。9cmループのインダクタンスは16cmループの約半分ですのでIm(Z)のベースラインの高さも約半分となります。その結果、Im(Z)の最小値は10Ω以下に下がり、Im(Z)=0の条件により近づいていることが見て取れます。結局、給電ループのインダクタンス(L1)を小さくすることで高い周波数帯においてもIm(Z)=0に近い条件が維持されている、と見てよいでしょう。
<給電ループの線径とインピーダンス整合>
今度はループ径を一定(11cm)にして線径(線の太さ)を1mm、4mm、10mmと変えてみます。このとき給電ループの面積はほとんど同じですから相互インダクタンスもほぼ同じで、大きく変化するのは給電ループのインダクタンス(L1)のみということになります。
給電ループの線径(mm) | インダクタンス:L1(µH) |
1 | 0.330 |
4 | 0.235 |
10 | 0.171 |
ループ径を変えたときと同様の計算をしてみた結果を以下に示します。
最小SWRを与えるn値をマーカーで、SWR<1.5の範囲をバーで表しています。太い線を使うとループのインダクタンス(L1)が小さくなりますので、ループ径を小さくするのと同様の効果が見られます。これは当たり前なことで、L1の由来はどうあれ計算結果はL1の値そのものを反映するからです。最小SWRを与えるn値を1つのグラフに表示してみます。
そもそも入力インピーダンス(Z)の実部:Re(Z)は共振点でピークを持ちますがその大きさは(2πf・LX)^2/Rです。fの増加とRの増加がバランスしていればRe(Z)のピーク値はほぼ一定になり、広い周波数範囲でマッチングを取りやすくなります。このとき、Im(Z)=0という条件を同時に満たしている必要があります。共振点でのIm(Z)の振れ幅はRe(Z)のピーク値に等しくそのベースラインは2πf・L1ですから、fが大きくなるほどIm(Z)曲線は上方にシフトしていき、ついにはIm(Z)=0の条件から外れてしまうことになります。これを防ぐにはL1を小さくし、Im(Z)のベースラインを下げておけばいいわけです。
今回のSLA設計例では給電ループ径や線径を合わせることで10MHz帯〜28MHz帯にわたってSWR<1.5の整合状態が得られることを確認できました。実物のSLAを測定すると周囲の影響を受けて必ずしも計算通りにはならないかも知れません。そんなときは測定されたQ値が良い指標になります。付加抵抗値を設定するなどして計算値を実測値に合わせておくことが肝心です。これができていれば詳細な給電ループの検討に進むことができるでしょう。メインループの設計値や使用周波数帯が異なればまた違った状況が出てくるのでしょうが、それはそれで再度計算してみればいいだけの話です。