市販の製茶4サンプルについてγ線スペクトルを取ってみた。うち3サンプルから少量のCs(セシウム)が検出された。同時にK(カリウム)も検出されたのでこれらを分離する定量評価を試みた。
試料名 | サンプル量 | 製造元 |
A | 30g | 茨城県内某社(包装紙に静岡産茶葉を使用と明記されている) |
B | 100g(未開封) | 茨城県内某社(包装紙に静岡産茶葉を使用と明記されている) |
C | 80g(未開封) | A***P (販売品の放射能検査を謳っている○協である) |
D | 35g | 東京都内某社(包装紙に国産茶葉を使用と明記されている) |
サンプルAとDはくの字型ケースに収納して測定した。B、Cは未開封の袋を検出器の脇にくっつけて測定した。この場合サンプル形状が標準ケースの形とはだいぶ異なるので計測値にもそれなりの違いが出ているものと思われる。まあ、細かいことは気にしないでとりあえず測定してみた。
鉛遮蔽容器内でBGO検出器を用いての計測である。詳細は既出の報告を参照してください。
茶葉の測定時間は4時間とした。(バックグラウンドは48時間測定)
ベクレル(Bq)値のわかったCs標準試料がないので、校正ができない。そこで、すでに確認したK(カリウム)の校正値を使い、検出器感度がCsとKとで同じであると仮定してCsのBq(ベクレル)量を算出してみた。Csのγ線エネルギーはKのそれより低いのでシンチレータのγ線捕獲率はCsのほうが高くなり、結果、CsのBq値を過大評価することになると思われるが、あくまで参考値ということで、数値の前に「<*」マークを付けて表示することにした。”正確な値はわからないがこれよりは低い”という意味である。いずれ、Cs標準試料を入手してきちんと校正する必要がある。
福島原発から飛び散ったCs134とCs137の存在比はおおよそ1:1のようであるので、1BqのCsが放出するγ線の強度は毎秒1.34個、一方1BqのKが放出するγ線の強度は毎秒0.107個になり、同じBq値のCsとKが放出するγ線の強度比は12.5:1となることが「−A2700を用いた簡易食品検査に関する考察− http://d.hatena.ne.jp/transfergate/20110729/1311953648」で計算されている。
K40:87Bqのカウント率積算値が2.5cpm(1cpmあたり35Bq)であったから、同じカウント率のCs(Cs134とCs137の1:1混合物)は87/12.5=7[Bq]に相当する。すなわち、Csのカウント率積算値:1cpmは、Cs:<*3Bqに換算されるということだ。繰り返しになるが、”検出器感度がCsとKとに対して同じと仮定”した上での話である。
KとCsそれぞれのカウント率積算カーブを使ってカーブフィッティングにより両者を分離すればよいのだが、そんな面倒なことをせずになるべく簡便な方法で評価したい。
<図 1>
上図はK40のカウント率積算カーブである。ここにCsのカウントが重なったとしたらどんな形になるか考えてみる。K40のγ線は1460keVであるが、Csはこれよりもずっと低いエネルギーのγ線を放出する(Cs134:605keV、796keV、Cs137:662keV)。なので、シンチレータのエネルギー分解能を考慮してもCsのカウントは〜900keV以上では出てこないと思ってよいだろう。すると、それ以上のカウント率の上昇分はすべてKによるものとなる。上図をよく見ると、ちょうど900keVあたりで積算値が50%になっているので、900keV以上の積算値の増分と同じ量を900keVにおける積算値から差引けば、残りがCsのカウントになるというわけだ。荒っぽいやり方だが、早速試してみよう。
<図2-1><図2-2>
図2-1のスペクトルにはCsのピークが見える。図2-2には1.5MeVあたりに小さなステップが見えるので、光電ピークとしてははっきり見えないもののKの存在を示しているのだろう。図2-2で、900keVにおけるカウント率積算値は3.6cpm、900keV以上の積算値増分は0.2cpmである。これからカウント率積算値を分離すると、K:0.4cpm、Cs:3.4cpmとなる。これをベクレルに換算すると、K:14Bq、Cs:<*10Bqとなる。サンプル重量が30gなのでK:460Bq/kg、Cs:<*330Bq/kg。
<図3-1><図3-2>
図3-2で、900keVにおけるカウント率積算値は8.3cpm、900keV以上の積算値増分は0.6cpmである。これからカウント率積算値を分離すると、K:1.2cpm、Cs:7.7cpmとなる。これをベクレルに換算すると、K:42Bq、Cs:<*23Bqとなる。サンプル重量が100gなのでK:420Bq/kg、Cs:<*230Bq/kg。
<図4-1><図4-2>
図4-2で、900keVにおけるカウント率積算値は1.1cpm、900keV以上の積算値増分は0.7cpmである。これからカウント率積算値を分離すると、K:1.4cpm、Cs:0.4cpmとなる。これをベクレルに換算すると、K:49Bq、Cs:<*1.2Bqとなる。サンプル重量が80gなのでK:610Bq/kg、Cs:<*15Bq/kg。もっとも、1σが0.2cpmなので、Csの0.4cpmという値にはほとんど有意差なしといっていいだろう。
<図5-1><図5-2>
図5-2で、900keVにおけるカウント率積算値は3.8cpm、900keV以上の積算値増分は0.6cpmである。これからカウント率積算値を分離すると、K:1.2cpm、Cs:3.2cpmとなる。これをベクレルに換算すると、K:42Bq、Cs:<*9.6Bqとなる。サンプル重量が35gなのでK:530Bq/kg、Cs:<*270Bq/kg。
以上の解析結果を見ると、乾燥茶葉に含まれるK40はいずれも数100Bq/kgであり、まあまあ妥当な値と思われる。少なくとも桁が違うようなことにはなっていないようだ。一方、Csのほうは製品によってばらついている。Csはまだ未校正なので絶対値についてはなんとも言えないが、有るのか無いのかははっきりわかる。有るとはいっても暫定規制値の500Bq/kgよりはずっと少ないようだ。
福島で製造された味噌(100g)
茶葉以外のものも測ってみたので、”おまけ”として紹介する。福島で製造された味噌(100g)を8時間測定したものである。
<図6-1><図6-2>
何もでない。バックグラウンドとの差は1σ以下である。Csはともかく、Kくらいは見えるかと思っていたが全く見えない。こんなものなのだろうか。
シンチレータの検出感度がK:1.46MeVとCs(Cs134:605keV、796keV、Cs137:662keV)に対して同じとした仮定はあくまで暫定措置ではあるものの、あまりにも手抜きな感じがしたので、おおよその値を見積もってみた。BGOシンチレータの形状は6mm×12mm×30mmの細長い直方体であるので、γ線に対する実効的(平均的)な厚みは6〜12mm程度になるだろう。そこで、BGO(Bi4Ge3O12)の質量吸収係数をもとにγ線捕獲率を計算してみた。
BGOの質量吸収係数はNIST XCOM: http://physics.nist.gov/PhysRefData/Xcom/html/xcom1.htmlのツールを使って計算したが、よく知られているPbの値を代用しても大きな違いはない(PbとBiは周期律表で隣同士なので)。計算の結果、光電吸収とコンプトン散乱によるBGOの質量吸収係数は1.5MeVで0.049cm2/g、0.6MeVで0.108cm2/gであった。一方、シンチレータのγ線捕獲率は、質量吸収計数をμ、BGOの密度をρ(=7.13)、BGOの厚さをdとすると、 1 - Exp(-μ*ρ*d) で与えられる。d=6mmとd=12mmの場合の計算結果を下表に示す。
γ線エネルギー | γ線捕獲率 | |
d=6mm | d=12mm | |
1.5 MeV | 0.19 | 0.34 |
0.6 MeV | 0.36 | 0.59 |
1.5MeVにおけるγ線捕獲率を1とすると0.6MeVでのγ線捕獲率はd=6mmで1.9倍、d=12mmで1.7倍である。したがって、Csの検出感度はKの検出感度のおおよそ2倍弱になると推察できる。
無料で庭土を分析してくれるところが見つかったので早速、測定してもらった。雨水が集まりやすい場所から採取した土なのでCs汚染が平均よりは高めになっていると思われる。結果はCs134+Cs137の値が960 Bq/kgであった。内訳はCs134が42%、Cs137が58%であった。
この庭土100g(Cs:96 Bq)をBGO検出器で測定したところ、Csのカウント率積算値:1 cpmが1.4 Bqに相当することがわかった。検出器感度がCsとKとで同じであると仮定して出てきた数値が〜3 Bq/cpmであったから、実際の検出感度はCsがKの約2倍になっているようだ。(検出感度の計算でも2倍弱と予測している。)
したがって、校正されたCsベクレル値は、暫定記号「<*」を付して表している値の約1/2ということになる。