チャージアンプのノイズレベルをある程度下げることができ、加えて、暖房しなければ室温が20℃を超えることも無くなる季節になりました。ローノイズアンプの実験には絶好の機会です。
下図はLaBr3シンチレータで取得した原発Csのγ線スペクトルですが、テクノAP(株)の製品化カタログからとってきたものです。LaBr3のエネルギー分解能が3%程度ということでかなり細かいところまで見えています。赤線はCs-134のもので605keV、796keVの2本の強いピークに加え、通常のNaI、CsIシンチレータでは見えてこないサブピーク(563keVと569keVが一体化したピーク)がはっきりと見えます。シンチレータが特殊なこともあるのかと思いますが、この検出器のお値段は185万円もします。
入手が容易になったCsIシンチレータでγ線スペクトルの分解能をどこまで上げることができるのか?実は「PD用チャージアンプ---簡易版--- (2012/11/23)」のところで示したCs汚染土のスペクトルをよく見ると、Cs-134の605keVピークの少し下側にサブピークのふくらみがあるのに気づきます。もうちょっとエネルギー分解能をよくすればこのサブピークを分離できるのではなかろうかと思いました。分解能を上げる手っ取り早い方法はPDの集光率を上げる事です。集光率を上げるには受光面積を大きくするか、シンチレータを小さく薄くすればよいことが経験的にわかってます。しかし大面積のPDを用いるとノイズが増えます。小さなPDを複数並列に繋いだ場合も同じです。そこでサンゴバンの1cm角CsI結晶をカットして5mm角CsIを8個つくりました。(注意:CsIシンチには、微量ですが猛毒のタリウム:Tlが含まれていますので作業される方は十分気をつけて下さい。)
なるべく切りしろを減らしたいので、模型工作用の薄刃カッターを使用しました。
試しに、CsI結晶と同じような硬さをもつ鉛筆の芯に切れ込みを入れてみました。
写真に写っているメジャーの目盛間隔が1mmですので、芯の切れ込み幅がカッター刃の厚さと同じ0.1mm程度であることがおわかりいただけるでしょう。次の写真は実際にカットしたCsI結晶です。目見当でカットしているので形はやや不揃いですが。
1cm角CsIを5mm角CsIに付け換えると同じピークに対応するチャンネルNo.が約1.4倍になりました。これは集光率が約1.4倍になったことを意味します。回路ノイズの大きさは変わらないので、相対的にノイズレベルが0.7倍に下がったことになります。5mm角CsIで取得したCs汚染土のスペクトルが下図です。シンチレータの体積が減ったのでカウント率は相応に低下しています。ですので、下図のスペクトルは10時間かけて測定しています。その間、室温は15℃から18℃まで変化しました。
Csピークの領域を詳細に見るため、リニアスケールで拡大してみたのが下のグラフです。
Cs-134の605keVピークの左側にサブピーク(563keVと569keVが一体化したピーク)が分離して見えています。CsI(Tl)シンチレータでもこれくらい分解能を上げられるんですね。カウント率が低いので実用的ではありませんが、まあ、教育向けの実験には使えるかも知れませんね。シンチレータの値段は、1cm角で\4,500-でしたから、5mm角1個あたり\560-になります。最近はもっと安いCsIシンチレータがあるので1個あたり400円以下です。