PD用チャージアンプの温度特性  (2012/11/21)


 夏場は室内温度が30℃を超えることもしばしばで、チャージアンプのノイズが目立って大きくなる。最近になって室温が20℃程度で安定しており、半導体回路いじりには絶好の季節となった。そこでしばらく放っておいたチャージアンプで遊んでみることにした。

 以前、紹介したディスクリート・アンプは古い文献にあった回路をまねたもので、使用部品も私が20〜30年前にかき集めた古い物で間に合わせていた。その後、新しいパーツも徐々にたまってきたこともあり、アンプの改良やノイズ特性について調べてみた。

  元の回路→  (クリックで拡大)

 

アンプ回路のマイナーチェンジ

 まず、初段FETへの帰還抵抗を300MΩから1GΩに変更した。当初、100MΩの抵抗を直列にして500MΩくらいまで増やしたが300MΩと大差なかったので、良好な特性を得るための最低値ということで300MΩで妥協していた。その後、1GΩのチップ抵抗をRSから比較的安く購入できたので使ってみたところ、信号強度が2割ほど増加しS/N比が向上した。さらに1GΩのチップ抵抗を2個直列(2GΩ)にしてみたがほとんど変化はなかったので結局、1GΩに決定した。これが今回の改造でもっとも効果があった対策である。

 次に、LMC662で構成されるローパスフィルタの時定数を変更した。PCサウンドカードのサンプリング速度が遅いことによる量子化ノイズを減らそうとして、元の回路ではパルス波形をなまらせるためにかなり大きな時定数に設定していた。しかし、”PRA”や”ベクモニ”の「標準パルス参照アルゴリズム」はかなり強力なようで、48kサンプリングではとうてい追従できないような幅の狭いとがったパルス波形でも十分にパルス波高値を読み取れていることがわかった。実際、時定数を1/10にしてみたが量子化ノイズが増える兆候は見られず、むしろS/N比が若干向上した。定性的な表現しかできず申し訳ないが、PC側のサンプリング速度をあまり気にする必要はなさそうである。

 その他、回路の贅肉をそぎ落とすため、PD逆バイアス回路を簡素化した。外来ノイズの混入を恐れて冗長なフィルタ回路を付けていたが、抵抗(100kΩ)とパスコン(0.1μF)のみで十分であった。

  こうして変更された回路→  (クリックで拡大)     

  (そのほかCやRの値がちょこちょこ変わっていますが意図的な物でなく、単に手持ち部品の都合です。)

 なお、2SK12→2SK170GR、2SA493→2SA1015、2SC1345→2SC1815など回路定数はそのままに差し替えてみたものの、S/N比はほとんど同等であった。今風の部品に置き換えても似たような特性が出るので、少しは皆さんの参考になるかも知れない。ただ、初段のFETを変更しても特性が変わらないということは、回路定数がそのFETに最適化されていないことの裏返しとも考えられる。まだまだ”暫定”なのである。ともあれ、元の回路のノイズレベルが〜100keVであったのに比べ、変更後は70keVくらいまで下がった。下図に見られるようにCs-134:605keVとCs-137:662keVのピークのくびれがはっきりしてきた。

 

 

ノイズレベルの温度依存性

 半導体の宿命として温度敏感性は避けられないのか、夏場、環境温度が30℃くらいではノイズレベルが上昇し、スペクトルのピーク・ブロードニングが顕著であった。そこで、このγ線プローブがどんな温度特性を持つのか調べてみた。プローブはチャージアンプ基板に1cm角CsIシンチレータ+PD(S6775)をマウントしたもので小型のアルミケースに収めた。これをビニール袋で防水し、お湯または氷水に浸けて温度調整する仕掛である。温度センサーをアルミケースに貼り付けて温度を監視した。

   

Cs-134:796keVピーク位置をはっきり読み取るには20〜30分の測定時間が必要だったのでこの間、プローブの温度変化を1℃以内おさえた。プローブ温度と外気温の差が大きい場合には容器にサランラップを貼って断熱すると温度変化が緩慢になり制御しやすくなった。容器を二重にしたのは単にプローブを保持しやすくするためだけでなく、プローブの温度を安定化させることを狙ったものである。

 

 Cs汚染土のスペクトルを測定し、信号ピーク(Cs-134:796keV)とノイズ立上がりの位置(チャンネル)を求めた。ここでは、ノイズピークの裾野が信号スペクトル強度に近い0.1cpsとなるチャンネルをノイズレベルと定義した。(チャンネル幅の設定に応じてcpsの値は変わるので、0.1cpsというのはこの場だけで有効な指標である。)

 さらに、信号ピーク(Cs-134:796keV)位置を基準にチャンネルNo.をエネルギー値に変換し、エネルギー換算ノイズレベルを求めた。

 25℃あたりからノイズレベルが急上昇するのがわかる。20〜25℃を境にグラフの傾きが大きく変化している。試しに、PD(+CsIシンチレータ)を取り外した状態(初段FETのゲート:オープン)でアンプノイズの温度変化を測定した。結果を上のグラフに上書きして以下に示す。

(黒点:PD接続、赤点:PD取り外し)

 PD(S6775)を接続した状態での変化に比べ、PDを取り外した場合はノイズレベルの温度変化が単調でゆるやかである。このことからノイズレベルの急上昇はPDの特性に依るところが大きいと考えられる。カタログによればPDの顕著な温度依存性は暗電流に現れ、温度が10℃上昇すると暗電流は約3倍増加する。おそらくこれが高温側でのノイズ増大をもたらしているのだろう。

 PDの暗電流が強く影響しているとすれば、なるべく暗電流を流さない(低バイアス)で動作させれば良さそうな気がする。そうすると静電容量が大きくなるので、これをキャンセルするブートストラップ回路を入れるとうまくいくような気がした。で、実際にやってみた。しかし結果は期待したようにはならず、低温度域でのノイズが増えてしまった。何かやりようはあるのだろうが、結局、元の逆バイアス方式に戻すことにしたのである。

 

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