細長ループ・コイルによる測定の準備ができたので、真空バリコン、AMラジオ用エアーバリコン、ミニサイズのタイトバリコンについて特性を比較してみた。また、平行平板構造の固定容量キャパシタのQ測定により、支持絶縁体の誘電損失の影響を調べた。
「キャパシタのQ測定---準備編---」で述べた測定系をつかって手持ちの3種のバリコンについて測定してみた。
Fig.1-a Vacuum VC (1000 pF, COMET)
Fig.1-b Air VC for AM radio receiver (420 pF x2, measured one side only)
Fig.1-c Steatite VC (100 pF)
測定結果を下図に示す。前回測定した真空バリコン(JENNINGS, 500 pF)の測定結果も比較のため同図に表示している。また、測定できるのはコイルの損失も含めた共振回路全体のQであるので参考までにコイルのQ(計算値)を赤色線で示した。Qの実測値からバリコンの損失を直に比較できる。この中では真空バリコンが最も低損失(high Q)であった。タイト・バリコンのQはこれをやや下回り、特に低い周波数でQの低下が顕著なことからローター摺動部の接触抵抗が効いていると思われる。AM用2連バリコンは片側のみつないで測定したが、高い周波数域でのQの低下が目立つことから誘電損失の寄与が大きいと推察される。ステータの支持体はプリント基板のような樹脂板なのでこれが損失を増大させているようだ。これをタイト・バリコンと比較すると高周波数域でのQの傾きが逆になっていてわかりやすい。
Fig.2 Measured Q values for variable capacitors
3種のバリコンのうち真空バリコンが最も高いQを示したが、キャパシタの損失をゼロ(Qcap=∞)に近づければ測定されるQはコイルのQに近づいてゆくはずである。これを確かめるため、10cm×10cmのアルミ板を対向させたキャパシタを作製しQ測定を試みた。
Fig.3 Handmade capacitor (A = 100 cm2, d = 0.8 mm)
当初、プラスチックビスとワッシャーを用いて2枚のアルミ板を隙間をあけて固定した。また、銅板のリードをアルミ板の中心付近にアルミハンダではんだ付けした。プラスチックワッシャーは直径8mm、厚さ0..8mmでこれをアルミ板の間隔を決めるスペーサーとした。測定を進めるうちに、使用するビスの本数に応じてQが大きく変化することに気いた。ビス&ワッシャーの材質はポリカーボネート(PC)であり、誘電損失を調べてみるとtanδ〜0.01程度と大きい。そこでねじ止めの場所を2か所、4か所、8か所と変えて測定してみた。結果を下表に示す。
Number of spacers | Frequency [MHz] | measured Qtotal | calculated Qcoil | Qcap |
2 | 12.95 | 1,198 | 2,110 | 2,772 |
4 | 12.75 | 1,004 | 2,096 | 1,927 |
8 | 13.55 | 677 | 2,151 | 988 |
なお、1/Qtotal = 1/Qcoil +1/Qcap の関係式を用いて算出したQcapも同表に示した。共振周波数は13 MHz前後で容量に大きな差はない(120 pF〜140 pFの範囲内)。一方、測定されたQ(Qtotal)はねじ止め箇所の増減に応じて大きく変化しており、ビス&ワッシャーの損失がキャパシタのQに強く影響していることがわかる。以下、誘電損失をラフに見積もってみる。4か所ねじ止めした場合を例にとると、スペーサ(ワッシャー)1個の面積は約0.5 cm2、これが4個使われているので合計2 cm2。アルミ電極の面積が100 cm2なのでスペーサ部の面積比は〜2/100である。PCの誘電率を3、tanδを0.01とすると全体の損失は面積比で薄められて3×0.01×2/100 = 6/10000、この逆数がキャパシタ全体のQになるのでQcap = 10000/6 =〜1,700 が得られる。これは実測値から求めたQcap =1,927に近く、スペーサの誘電損失が主要なファクターであると思われる。
ポリカーボネートのスペーサは損失が大きいので代わりにテフロンでスペーサを作ってみた。スペーサの大きさは1 cm角程度、厚さが0.4 mmだったので2枚重ねで使用した。
Fig. 4 Teflon spacers for the capacitor
問題はアルミ電極板どうしをどのように固定するかだが、ポリカーボネートのビス&ナットを使う方法とビスを使わずに輪ゴムをかけて固定する方法の2通りを試してみたところ、以下の測定結果を得た。
Frequency [MHz] | measured Qtotal | calculated Qcoil | Qcap | |
teflon spacer + PC bis | 14.61 | 1,570 | 2,200 | 5,480 |
teflon spacer (no bis) | 13.44 | 1,660 | 2,150 | 7,280 |
スペーサをテフロンに替えることでQ値が向上し真空バリコンのQを上回った。QtotalはQcoilの80%程度まで近づいており、Qcapは〜7,000 程度と見積もられる。
以前、スモールループ用に作ったバタフライバリコンを測定してみた。容量が6 pF〜22 pFと小さく共振周波数の下限が30 MHzである。「準備編」で述べたように高い周波数域では測定精度が落ちるので大雑把な傾向をつかむていどのことしかできないが、とりあえず40 MHzまで測ってみた。
Fig.5 Handmede VC (6-22 pF)
Fig.6 Measured Q for a handmade VC (Red circles)
Fig.6の黒線は実測値に無理やり合わせたフィッティングカーブ、赤線はQcoil(計算値)、青線はQcapであり、赤線と黒線とから算出したものである。傾向として言えることはQが右肩下がりで明らかに誘電損失が作用していることである。このバリコンの支持体(絶縁材)は塩ビ(PVC)の板で、PCやアクリルと同様tanδが大きい材料である。このままでもおおよそ真空バリコンと同程度のQが得られているようだが、支持体を低損失材料に替えればよりhigh-Qのバリコンなりそうだ。
付録:バリコンの損失因子とQcapの周波数特性
バリコンの損失抵抗Rcapは主要な損失因子の組合せとして下式で表せる。ここで第1項は接触抵抗などの周波数に依存しない抵抗、第2項は支持絶縁体の誘電損失、第3項は電極版やリード線の表皮抵抗である。
容量CのバリコンをインダクタンスL0のコイルにつないで共振器としたとき、共振周波数f は
であるので、バリコンのQ値は
となる。したがって低い周波数域では分母の第1項や第3項が支配的になり、高い周波数域では誘電損失をあらわす第2項が大きく効いてくる。結局、Qcapは周波数の増加とともに上方向に凸な曲線を描きながら大きくなってゆくが誘電損失か顕著となる周波数域に入るとQcapは周波数の増加に伴い徐々に低下してゆくことになる。