バリコンのQは
(f :周波数、C :容量、Rcap :等価直列抵抗)
であらわされる。また、Rcapのモデルとして下式が提案されている。
右辺の第1項は接触抵抗など周波数に依存しない損失成分、第2項は電極支持体による誘電損失、第3項は電極やリードの表皮抵抗成分をあらわしており、3つのパラメータ:RS、α、βを決めればバリコンの損失抵抗、そしてQを表現できる。表皮抵抗が√f の周波数依存性を持つことはよく知られているが、第2項の誘電損失の表式については(私自身が)あまり馴染みがなかったので確認してみた。
誘電損がどこから出てくるかといえばバリコンのステータやロータを絶縁分離している支持体からで、これをとおして小さな容量とそこに含まれる誘電損失が発生する。これは、無損失の容量C1と誘電損R0のごく小さな容量C0が並列接続された等価回路であらわことができる。
この等価回路のインピーダンスは
となるが、誘電損失抵抗の表式
を代入すると下式が得られる(tanδ<<1として)。
実部が損失抵抗なので結局、Rcapモデル式の第2項が導かれる。
このモデル式第2項はf とCの関数であるが、固定インダクタL0と共振回路を組んだ場合は(2πf )2L0C=1により
となり、周波数が高くなる(容量が小さくなる)と損失抵抗は急激に増大することになる。
「実践編」で紹介した3種類のバリコンについて損失抵抗Rcapの表式を求めてみた。
3つのパラメータ(Rs、α、β)を仮定するとバリコンのQ(Qcap)が与えられる。
これにコイルのQ(Qcoil)の計算値を組み合わせれば共振回路のQ(Qtotal)が得られる。
そして、Qtotalのグラフが実測Q(Qm)にフィットするように3つのパラメータ(Rs、α、β)を選べばよい。こうした操作にはエクセルのようなグラフ描画ソフトを使うのが便利である。
以下、フィッティングの結果を示す。図中、赤丸印が実測値、青線と赤線がそれぞれQcap とQcoil の計算値、細い黒線がフィッティングカーブである。
真空バリコン(COMET、1000 pF)
Rcap = 0 + 600 /fC2 + 0.007 f^0.5
真空バリコンには摺動部がないので Rs= 0 でフィットできている。
AM-radio用2連バリコンの片側(420 pF)
Rcap = 0.02 + 3200 /fC2 + 0.01 f^0.5
電極支持体は樹脂板であり、これが大きな誘電損失をもたらしていると思われる。
タイトバリコン(100 pF)
Rcap = 0.035 + 400 /fC2 + 0.005 f^0.5
Rsがやや大きめ、何十年も使っていなかったので保管状態がよくなかったのかも。ステータとローテータは片側支持。サイズも小さいので誘電損は真空バリコンより小さめ。
AMラジオ用2連バリコン2つのステータから電極をとってスプリット・ステータ型で測定してみた。片側単独(420pFx1)の特性は
Rcap = 0.02 + 3200 /fC2 + 0.01 f^0.5
であるが、直列接続(420pF/2)で使用する場合、2つのロータが直結しているので摺動部をパスすることになりRs=0と置いてよさそうである。誘電損失項(第2項)に関して、同じ周波数でみると直列接続なのでCが2倍になっていないといけない。これは見かけ上、第2項の係数をα→α/22 =α/4 で置き換えるのと等価である。第3項は直列ということで単純にβ→ 2βとしてみる。すると、スプリット・ステータ型で使う2連バリコンの特性は
Rcap = 0 + 800 /fC2 + 0.02 f^0.5
で表現できることが予想される。
実際の測定結果を下図に黄色丸印で示す。赤丸と細黒線はすでに示した420pF単独の測定値とフィッティングカーブである。直列接続として予想したRcapより計算したQを緑色の線で示しているが、実測値とよく合っていることがわかる。高い周波数でも個々のバリコン容量が大きい状態で使うので誘電損が相対的に小さくなっている。