AD8307は高周波対応の信号レベル検出ICで、これをダイオード検波の代わりに使えば高感度で直線性の良い検出器が得られます。RF電圧計としては秋月の電界強度計キットが有名です。またSWR計やパワーメータに応用したさまざまな例がwebで紹介されています。
これまで「トロイダル・コア活用百科」に載っている「高周波電流計」をつくり同軸ケーブルやACラインのコモンモード電流測定、自作コモンモードフィルタのインピーダンス測定などに使ってきたのですが、今回、ダイオード検波の代わりに格安の中華AD8307を適用してみることにしました。
もともとの回路は本に載っているものをそっくりまねた訳ですが分割コアとダイオードは手持ちの品で代用しました。コアはRNL-10D-43(Fair Pite社)、ダイオードは1SS108です。なお巻線は工作の都合上分割巻きとはせず、片側のコアのみに0.4tエナメル線を10回巻いたものです。
使用してきたダイオード検波プローブ
今回はダイオード検波の代わりにAD8307を使い、またDMMのかわりにArduino_Pro-mini(これも中華)を使って表示することにしました。下の回路図で、AD8307の消費電流が8mAですので動作電圧は4V強です。OUT端子の電圧を読み取るのにArduinoのアナログピンの一つを使います。AD8307データシートによれば出力電圧は25mV/dBということなのでこれをそのまま流用し、切片の値を調整して電流値を校正しました。検出コイルのRF電圧はコアを貫通する電流が100mAのとき約1Vということなので、出力電圧:Voutを電流値に換算するには切片の値を約1/10すなわち-20dBずらせばよいことになります。実際は10MHzでSGの出力を0dBm(0.224V)とし50Ωの抵抗で終端して流れる電流(4.48mA)の1点で合わせました。
今回のログアンプ(AD8307)式プローブ
分割コアの開閉にはお決まりの洗濯ばさみを使っていまが、上記のAD8307モジュール基板を洗濯ばさみの外側に張り付け、オーディオケーブル+ステレオジャックで本体とつないでいます。電源は9Vの乾電池。レギュレータで5Vに落とし、AD8307モジュールとArduino_pro-mini 3.3V基板のRAW端子に給電しました。
表面実装部品を汎用基板になんとかハンダ付け出来ました。チップコンデンサを立てて2.5次元配線したりなど下級老人には過酷な作業となりました。それにしてもあまり長持ちしそうもないですね。AD8307をSOP変換基板に取り付けて2.54mmピッチの汎用基板上に組み立てるのが健康的かもしれません。
参考までにArduinoのスケッチをのせておきます。ここでは校正後の電流値:rfdBを、
rfdB = -120 + Vout / 0.025 = -120 + 40 * Vout [dBA]
で計算しています。単位はdB・アンペアです。Arduinoアナログ端子のピン番号1にOUTを接続してますので、analogRead(1) = nならばVout = n*3.3/1024になります。検出値をmAとdBで表示するようにしました。なお、I2C_LCDライブラリ(ST7032)はオレ工房さんのものを使わせていただきました。
10MHzにおける入出力特性を確認してみました。SG出力の上限があるので20mA程度までしか測定していませんがAD8307は入力が1Vくらいまで飽和しないようなので100mAまでは測定できそうです。一方、低電流側では0.1mA以下まで直線性が保たれています。被測定物のインピーダンスが10kΩであるとしてこれに1V印加すると0.1mA流れますから、このプローブを用いて数10kΩまで測定可能ということになります。
定レベルのRF電流を印加して周波数特性をみてみました。検出値の変動が最大値の-10%までの範囲に収まる帯域は0.6〜30 MHzでHF帯はカバーできています。50MHz以上では巻線の自己共振ピークがみられ、測定値が波打っていますが、このままでも50MHz帯までは何とか実用範囲に入っているようなので妥協することにしました。このあたりはコイルの巻き方、巻き数、コア材質などをいじればもう少し改善できると思います。
#43材のFT240に3D2Vケーブルを14回巻いてコモンモード・チョークをつくり、インピーダンスを測ってみました。
チョークコイルの両端にRF電圧:1Vを印加したときの測定電流からインピーダンスを求めました。結果は下図のとおりで、「トロイダル・コア活用百科」に示されている実験例に近いものでした。以前のダイオード検波プローブでもこれくらいの測定はできたわけですが、換算表(グラフ)を使わずに直読できるのはやはり便利に感じます。