SWR検出器の特性とデジタル補正  (2013/08/22)


 オスカーブロックのSWR計(SWR-300)は伝送ライン結合方式(同軸型)の検出器であるためローバンドでの感度にかなり不満がありました。そこでトロイダルコア結合方式のSWRプローブをつくってみました。ダイオード検波出力の非直線性により通過電力が小さくなるにつれ測定誤差が増大するわけですが、デジタル表示器(2013/08/06)の演算機能でこの非直線性を補正し、より正確な表示が可能になりました。

SWR検出器

 「トロイダル・コア活用百科」でおなじみのカレントトランスによるSWR計です。M1、M2は高周波コネクタ。P1、P2は検波出力端子で1kΩ抵抗の代わりに機械式メータをつなげば普通のSWR計になります。ここではデジタル表示器につなぎます。

 トロイダルコアにはたまたま手持ちFT140-43を使いました。通常はFT50サイズで十分なようですが小型のコアをきらしてしまっていたのです。大は小を兼ねる、とはいえ何ともアンバランスですね。ダイオードは当初、無印のGeポイントコンタクト(1N60もしくは1N34相当品?)を使ってみたのですがショットキーバリアダイオード1SS108のほうが検波出力が大きく出たのでこちらを使いました。この回路の性能はダイオードの特性にかかっている、といっても過言ではないでしょう。ただ、今回はデジタル補正が控えているのでハードの性能にはあまりこだわらず、まずは形にすることを優先しました。

 コの字に折り曲げた真鍮板にM型コネクタとRCAジャックを取付け、回路基板を組み込みました。プリント板の銅箔をカッターナイフで切取ってのパタン加工です。長方形の大きなランドを数個作るだけなので作業は10分程度です。ランドおよびグランド面に部品をはんだ付けして出来上がりです。

 真鍮板よりも少し幅のあるアルミ板を折り曲げてケースにフタをしました。アルミ粘着テープで固定しました。

 以下は数十年使い込んだ50Ωダミーロード。抵抗の塗装が一部焦げていますが値は狂っていないのでまだしばらく使えそうです。今回はSWR計測のため、これに抵抗を付加して45Ω、33Ω、25Ωで使います。

 

検波電圧の周波数特性

 SWR検出器に50Ωダミーロードをつなぎ、検波出力の周波数特性(1.9MHz〜50MHz)を測定ししてみました。RF電源はKENWOOD:TS-2000です。出力10WというのはあくまでTS2000の出力設定を10Wにしているだけの話ですので、正確に測定したわけではありません。おおよそ10W、ということでご理解を。

 グラフのY軸:プローブ電圧は回路図中の端子P1もしくはP2の電圧です。10kと1kの抵抗で1/(10+1)に分圧されていますので実際のダイオード検波出力はグラフ値の11倍です。結果は、1.9MHz〜50MHzの範囲でほぼフラットと言っていいでしょう。こうした特性がカレントトランス方式SWR計の使いやすいところですね。

 次は検波電圧のRF電力依存性です。以下の例は33Ωのダミーロード(SWR:1.5)を3.5MHzで測定した結果です。VF、VRはそれぞれ進行波と反射波の検波電圧ですが、マイコンの10ビットAD変換をとおして得られたデジタル値(0〜1023)で表しています。ダイオード検波の特性で、信号レベルが小さくなると検波電圧が急激に低下しています。理想的にはVF、VRはRF電力の平方根に比例し、グラフ中のオレンジ色の直線と同じ傾きになるべきです。

(@ 3.5MHz)

  検波特性はこのままにしてSWRを計算・表示させるとローパワーほど誤差が大きくなります。下図は3.5MHzでの測定例です。他の周波数でも似たような傾向でした。

(@ 3.5MHz)

 

検波電圧のデジタル補正

 非線形な出力特性を線形に近づける方法はいろいろあるようですが、デジタル処理で一般的なのは実測値にもとづいて変換テーブルを作成することです。あるいは変換テーブルの数値を近似式に置換える方法もあります。こういったことをマイコン(ATmega328P)で処理すれば、較正されたより正確なSWR値が得られます。

 実際に近似関数を組んで実測値の補正をいろいろ試してみた結果、意外と単純な方法で補正できることがわかりました。それは、実測値に一定のゲタをはかせる、すなわち、測定値に一定値を加算することでした。そもそも、ダイオードI-V特性の立上がり電圧というものが非直線性の原因ですから、これによって検波電圧の目減りした分を一定値加算して補う、という考えでいいようです。アナログ回路でダイオードにバイアス電流を流して動作点を変えるのと同じことです。

 実測値(VF、VR)に +3 (ch)した結果を下図のオレンジ色の線で示しています。低電圧領域での出力特性が補正されて V^2=(Power) の関係に近づいていることがおわかりいただけるかと思います。マイコン内蔵のAD変換は10bitですので0V〜3.3V(マイコンの電源電圧)が0〜1023に変換されます。1(ch)あたりの電圧は3300mV/1024 = 〜3.2mVですので 3 (ch)は9.6mVになります。検波電圧は1/11に分圧されているのでダイオードにかかっている検波電圧に換算すると 9.6mV×11 = 〜 0.1V をかさ上げしたことに相当します。

(@ 3.5MHz)

 補正したデータにより計算されたSWR値を以下に示します。生データによるSWRに比べ、ローパワー領域での議差を減らすことができました。1〜100Wの範囲でSWR測定誤差はおおよそ0.1以内の幅に収まっています。ただ、SWR=1.2(45Ω)の例では通過電力5W以下でSWR=1.0になってしまいます。VRが0(3.2mV以下)になったためです。VR=0では補正のしようがありませんので。

(@ 3.5MHz)

 

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