Small Loop Antenna --- SWR計算機     (2014/05/27)、 訂正(2014/06/18)


訂正とお詫び --- (2014/06/18)

  ”SWR計算機”においてインピーダンスの計算法に間違いがありました。ろくなチェックもしないまま公開してしまいましたこと、お詫び申し上げます。問題点は給電ループ(L1)とメインループ(L2)の相互インダクタンス(M)をM = k√(L1・L2)に置き換えてしまったところで、これは適切ではありません。結合係数(k)を使わずに相互インダクタンス(M)のまま計算すべきだったのです。ボケ老人の早とちりとお笑いください。現在、訂正版を作成中です。

 

追記 (2014/06/27)

  メインループと給電ループの設計値から直接計算できるのは相互インダクタンス(M)のほうで結合係数(k)ではありません。これを勘違いで計算の入力パラメータに入れてしまいました。kを使っても計算結果はおなじことになるのですが、入力パラメータには相互インダクタンス(M)を使うのが正しい計算法であると考えました。

  訂正版の置き場 → 「Small Loop Antenna --- SWR計算機、再度 (2014/06/20)」

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  ループ結合方式SLAのインピーダンスマッチングををとるために、通常、給電ループの大きさ、メインループとの間隔、ループ面の角度などを調整します。モノバンドでインピーダンスを50Ωに合わせる作業は比較的簡単です。メインループ径の1/5程度の給電ループを用意し、メインループとの間隔を丹念に調整すればSWR=1の状態に近づけることができます。しかしマルチバンド対応となると、偶然うまくいくことがあるにしても、やはり理屈を少々理解していないと全てのバンドで低いSWRを実現するのは難しいでしょう。

  給電線のインピーダンスがZ0(=50Ω)のとき、アンテナの給電インピーダンス:Z=R+jXがわかれば

VSWR=\frac{1+|\rho |}{1-|\rho |}  、   \rho = \frac{Z-Z_0}{Z+Z_0}=\frac{V_2}{V_1}

の関係式によりSWRを求めることができます。一方、メインループの直径と線径、給電ループの直径と線径、およびメインループと給電ループの結合係数を与えれば給電インピーダンスを計算できるので、これからSWRが求まります。そこでSWR計算機なるものをつくってみました。

jg1pld_sla_swr_v0.91.xls

  EXCELワークシートで給電インピーダンスとSWRを計算し結果をグラフに表示します。マクロを実行すればループ間の結合係数とSWRの関係を表わすグラフを計算します。OpenOffice_Calcでも動作確認していますが、グラフの書式が若干変化します。また、マクロを実行するには「VBA属性」のところで「実行可能コード」にチェックしておく必要があります。

  以下はSWR計算機のメイン画面です。

  画面右端のFig.1にループ結合方式SLAのモデル図を、Fig.2にその等価回路を示しています。この表計算ではFig.2の回路をもとにアンテナの入力インピーダンスとSWRを算出します。グラフは共振点を中心に±5%の範囲を表示します。右下の黄色のグラフは結合係数(k)を0から0.2まで変化させた時のSWR最小値をプロットするもので、グラフのどこかをワンクリックすればマクロが走ります。入力パラメータ:kの入力を自動化しただけの原始的なマクロです。kを変えるたびにグラフの書き換えを行っているので、マクロが終了するまで画面がちらつきます。

1.計算のフロー

1) 設計パラメータの入力

入力パラメータは全部で7個です。メインループの直径と線径(直径)、給電ループの直径と線径(直径)を入力します。単位は[cm]です。結合係数(k)は0<k<1の任意値を入力できますが現実的には0〜0.15くらいでしょう。給電ループの大きさがメインループの1/5以下になると、kは最大でも〜0.1どまりです。このようなときに、計算上、kの最適値が0.1を超える場合には、メインループに沿わせて給電ループ変形させるかガンママッチにするかしてメインループとの結合を強くする必要があります。給電ループの設計値に応じて取りうるkの大きさには上限があることを頭においてください。同調コンデンサの容量(Cap)は共振周波数が狙い値になるように増減してみて決定します。最後に付加抵抗値(Additional Loss)ですが通常は0とします。メインループの損失抵抗以外に何らかの損失が想定される場合に設定します。

2) インピーダンス、SWRの計算

メインループの直径と線径からインダクタンス(Lm)を算出します。これと同調コンデンサの容量(Cap)とで共振周波数が決まります。この周波数で輻射抵抗(RR)と損失抵抗(RL)を計算します。計算法は基本的にAA5TBさんのやり方(http://aa5tb.com/loop.html)をまねています。ループの材料は銅を想定しています(銅の導電率を使用)。給電ループについてはインダクタンス(Lf)のみ計算し、抵抗は影響が小さいとして無視しています。用いた計算式はEXCELワークシートの最後のページに張り付けてあります。こうして得たLm、Lf、RR、RL、および入力パラメータのCap、kを用いてインピーダンスとSWRを計算します。

3) 結果の表示

計算結果はメインページの表とグラフに逐次表示されます。インピーダンスのグラフはRe(Z)=Rs、Im(Z)=Xs、Abs(Z)=|Z|と読み替えてください。Im(Z)の曲線とy=0の交点が共振点ですが、この下側ピークの値はω・Lf(1-k^2・Q/2)ですので、kやQが小さくてk^2・Q/2が1以下になるとy=0との交点がなくなり完全な共振状態を得られていないことがわかります。なお、SWRグラフについてはSWR>4のときは曲線が現れませんのでご注意ください。

 

2.結合係数:kの実測例

2.  Coupling coefficient: k measurement

  ループ(円電流)がつくる磁界の強さはループの中心でもっとも弱く、ループエレメントに近づくほど強くなることが知られています。試しに半径aのループ面内で中心からρの位置における磁界強度を計算してみました。

    It is well known that the strength of magnetic field of a current loop takes the minimum value at the center of the loop and is becoming lager at positions closer to the loop element.  Analytically obtained field strength as a function of off center position: ρis shown in the figure below.    

 

 磁界強度∝磁束密度ですから、このループに別の小さな給電ループを結合させるときに給電ループをメインループのエレメント近づけるほど結合係数は大きくなることがわかります。こうした計算で結合係数を求めることも可能でしょうが、幾何学的な対称性が低下するので計算はややこしくなりそうです。そこでモデル実験で結合係数を測定してみることにしました。

    It is possible to deduce the coupling coefficient "k" by analytical calculations, but it may be very hard work because of complexity due to the geometric low-symmetry.  I tested, therefore, the coupling coefficient by experiment.  

 給電ループ単体のインダクタンスをL1、メインループ単体のインダクタンスをL2とすると、これらが結合係数:kで配置されているとき、メインループのインダクタンスはわずかに減少します。給電ループをスイッチでオープン/ショートさせたときのメインループのインダクタンスをそれぞれL2open、L2shortとすると、L2open=L2、L2short=(1-k^2)L2の関係が得られます。したがってL2open、L2shortの測定値からk=√(1-L2short/L2open)なる関係式によりkを求めることができます。

    Let's define L1, L2, and Lx as feed loop inductance, main loop inductance, and the mutual inductance where Lx = k*SQRT(L1*L2).  The main loop inductance with the shorted feed loop (L2short) is slightly decreased from L2.  According to the transformer theory, L2short = (1-k^2)*L2.  On the oter hand the main loop inductance with the opened feed loop (L2open) is equal to L2.  So we can calculate k-value as k = SQRT(1-L2short/L2open).  

 手ごろな大きさのループで実験してみました。メインループは直径60cmで太さ10mmφの銅パイプ、給電ループは直径11cm、太さ1.6mmの銅線としました。図のようにメインループにはRigExpertのAA-30をつなぎ、給電ループには開閉スイッチをはんだ付けしました。メインループと給電ループの間隔(d)を変えてkの変化をみることにしました。

    The next picture is a schematic diagram for the k measurement.  Main loop with a 60 cm diameter is made of 10 mm diameter thick copper pipe, which is connected to an impedance meter (Antenna analyzer: AA-30).   Feed loop with 11 cm diameter is made of 1.6 mm diameter thick copper wire.  A snap- switch is attached to the feed loop to do short or open the feed loop end.   

  

 ここでAA-30の測定精度が問題です。k=0.1ではL2short/L2open=0.99、k=0.01ではL2short/L2open=0.9999と変化量はわずかです。一方、AA-30のインダクタンス表示値は3桁目が常に2、3デジットふらついています。k=0.01まで検出するには少なくとも4桁以上の読み取り精度が必要です。そこで測定回数を増やして平均をとることにしました。統計的な測定誤差を2桁減らすには10,000回の測定が必要になります。AA-30で10,000回測定するのに18分かかってしまいますので妥協して4,000回としました。測定器のドリフトが出ていないことを確認するため、L2openとL2shortを交互に2回以上測定しました。j・Xs=ω・L2がAA-30の測定精度が高いと思われる50Ω付近になるよう、インダクタンスの測定周波数は5MHzとしました(L2=1.0 µH)。測定結果は以下のようになりました。計測値はリアクタンス(Xs=ω・L)のまま表記しています。

    A problem here is the accuracy of AA-30 for impedance measurement. The value of L2short/L2open should be 0.9999 for k=0.01.  So the reading precision more than four columns is necessary to detect k=0.01.  On the other hand the significant digit of measurements in AA-30 is three columns and two or three digits always sway on the third column.  Therefore I tried increasing the number of measuring and took average of them.  It takes approximately 7 minutes for repeating 4,000 times measurement . A set of measurement of L2open and L2short is repeated more than twice in order to confirm that the drift of the measured value is not there. The measurement frequency is chosen that the reactance (ω*L2) is to be around 50 Ω where the measurement is more accurate in AA-30.

これをグラフにしてみます。

The measured k-values above are plotted in a graph below.

 給電ループの位置をメインループの中央からループエレメントに近接するまで変えると、kが0.02〜0.08の範囲で変化しています。さらに、給電ループを楕円形にしてメインループに沿わせるとkは〜0.11まで大きくなることを確認しています。

    It is found that "k" is varied in a range from 0.02 to 0.08 as "d" is changed from 24.5 cm (the center of main loop) to 0 cm.  Additionally, "k" is increased up to 0.11 by deforming the feed loop to an elliptic shape along the main loop element.  

 実測値は以上のようになりましたが、これを計算でフォローできないものかと思い、MMANAでシミュレーションしてみました。

    The numerical calculation by the use of MMANA (Antenna simulation software by JE3HHT) is examined to determine L2open and L2short.  

 真円ループを8角形で近似し、給電ループを開いた状態と閉じた状態でのメインループのインピーダンス(リアクタンス)を読み取り、実験と同じようにkを計算しました。結果を実測値のグラフに重ね書きしてみたのが下図です。

    The circular loops are replaced by octagons with the same peripheral length of circles for MMANA calculation.   "k" is deuced from the calculated reactance of L2open and L2short in the same way as in the experiment.  The results are shown on the measured graph for comparison.  

 結構、実測値と合ってます。MMANAの計算精度は大したものです。

    It is shown that the calculated "k" accords fairly good with the measured one.  

  ここで実験した給電ループの大きさはメインループの1/5.5ですが、給電ループを大きくすれば当然ながらkも大きくなります。給電ループの直径を15cmにするとメインループの中央に配置した状態でkの実測値は〜0.04でした。直径28cmではk〜0.15でした。”SWR計算機”をお使いになるときの参考にしていただければ幸いです。

[Feed loop size dependency of coupling coefficient]

   15 cm and 28 cm diameter feed loops positioned at the center of the main loop exhibited "k"= 0.04 and 0.15 respectively in the AA-30 measurement.    

 

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