遅ればせながら最近になってICOMのIC7300を手に入れた。SDR化したことで複雑なアナログ回路に頼ることなくいろいろな機能を実現できる。バンドスコープはその一例だが、HFローバンド用スモールループアンテナを使っていると共振周波数に外来ノイズのピークが出現するので目視でチューニングができて便利である。そんな中で一つ期待外れな点があった。Sメータの特性である。
信号強度を示すSユニットについてはIARUの推奨規格がある[1]。機種によってSの振れ方がマチマチでは困るだろうから基準を合わせましょう、という働きかけである。具体的には、HF帯でS9の信号強度を-73dBm(50uV)とし、S一つの間隔を6dBと定めている。入力信号電圧が2倍(電力で4倍)になるとSが一つ増えるということである。
IC7300のアンテナ端子に信号発生器(8657B, HP)をつないで入力信号強度とS表示の関係をプロットしてみた。
IC7300のSメータはS9で基準の-73dBmに合っているものの、S1〜S9の範囲では約3dB/stepになっているようだ(IARUの規定は6dB/step)。これは従来機種のS表示に合わせたということなのだろうか、なんか残念な気がする。-100dBm以下の弱い信号に対してはSメータが振れないのである。Sメータをアナログ回路で構成する必要が無くなったのだからIARUの規定に合わせてくれたらよかったのに、と思う。
ちなみに、Soft66LC4+HDSDRでの測定結果は以下のようになっている。
S3からS9までは正確に6dB/stepの関係を示している。S1、S2の表示は受信機のノイズフロアに近づいているせいかやや上ずった方向にずれてはいるが、総じてIARUの規定に準じていることがわかる。
さらに手持ちのIC706とTS2000についてもSメータ特性を調べてみた。
ネットで調べてみると、多くのアマチュア無線機のSメータ特性が載っている(例えば、[2], [3] )。昔のコリンズの機械はSメータ表示が6dB/stepに近い特性だったと聞いている。国内の市販機ではTS520が少なくともS5〜S9の範囲で6dB/stepに調整されているようである[4]。しかし、多くの現行機種ではS9の信号レベルをほぼ-73dBmに合わせているものの、S一つ分の信号強度比(dB/step)は機種によってマチマチな状況である。
信号処理デジタル化の恩恵により〜-100dBm以下の弱い信号強度も正確に読めるようになったのに、アナログ受信機のAGC立ち上がり特性を想わせるようなSメータ特性を設定するのはなぜなんだろう。Sメータを6dB/stepにするファームウェア・パッチの公開を期待するところだ。
S値の表示にこだわりをもちたいのなら同時に信号強度をdBmで表示する、くらいの妥協策があってしかるべきかと思いますが如何なものでしょうか。
References
[1] IARU-R1 Technical Recomemendation. http://hamwaves.com/decibel/doc/iaru.region.1.s-meter.pdf
[2] Greg Ordy; "W8WWV - S Meter Blues". http://www.seed-solutions.com/gregordy/Amateur%20Radio/Experimentation/SMeterBlues.htm
[3] Larry Peterson; "What Good is an S-Meter?". http://www.wb9kmw.com/WB9KMW/Research/articles/article_S_meter.pdf
[4] 70年代で遊ぼう.http://detector.xsrv.jp/868-2