原発事故で降ってきた放射性物質 --- 10年後のすがた   (2021/03/11)


 福島第一原発から放出された放射性物質は当初樹木や草に付着していたものが年月を経てほとんど土壌に取り込まれ、ありがたくない環境物質として残っている。半減期の短い放射性ヨウ素は事故後早々に姿を消し、半減期2年の134-Csも10年間で32分の1に減った。また、同時に放出されたと考えられる半減期27.7年の90-Srはガンマ線を出さないのでスペクトルには現れない。その結果、汚染土のγ線スペクトルは137-Cs標準線源のそれに近づいており、わざわざ標準線源を買わなくても簡単な実験に代用できるくらいになっている。

 下図は5mm角CsIとフォトダイオードS6775を組み合わせた検出器で測定した汚染度のγ線スペクトル(測定日:2012/02/26)である。137Csの光電ピークとコンプトン散乱がメインであるが、134Csの痕跡もわずかに認められる。

 10年前の原発事故で東京を含む関東・東北の広域汚染が避けられたことはせめてもの幸運であったのだろう(飯館村を含む原発周辺地域の方々には大変申し訳ない言い方になってしまうが)。廃炉の道のりも遠い。放射性物質についてちょっとでも学んだことがある方なら880トンものデブリを取り出すことが如何に困難か、察しはつくだろう。結局、チェルノブイリと同様に石棺で対処するしかないのだろう。石棺は30年程度で劣化するのでその都度作り直すということを果てしなく繰り返すということだ。とにかく放射性物質は封じ込めておかねばならない。いったん広域拡散してしまったら見てのとおり取り返しがつかなくなる。

 もっとも、今回の事故が無かったとしても原発を数10年間運用し続けてきた結果貯まりに貯まった大量の核廃棄物や炉材などの高濃度汚染物質をどうやって管理するのか、問題は同じところに行き着く。結局のところ、現在の原発を廃炉にした後、その敷地に石棺を建てて保管する以外ないのでは。

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