APB-3用 広帯域リターンロスブリッジ--- その2---   (2019/5/18)


 リターンロスブリッジ(RLB)の高周波トランス・コアに高透磁率のアモビーズを用いることにこだわったのが前作でしたが、コアの励磁磁界が大きくなる低周波領域では透磁率変化を抑えるために入力信号強度を落とさなければならないという制約がありました。もっと体積の大きなコアを使えばこの制約から逃れることができ、低域でも高S/Nの測定が可能になります。しかしサイズの大きなコアは高周波特性を劣化させるので痛し痒しといったところです。

 Web上の過去記事をよくよく見てみるとJA7VRAさんのページ[1]にサイズがやや大きめなトロイダルコアを使ったRLBの例が載っていました。コアの種類は記載されていませんが写真からサイズを読み取ると外径が〜15mm、厚さ(幅)が〜8mmです。巻数が20回と多めですが高周波領域は30MHzまでそこそこの性能が出ているようです。

 そこで、上限周波数をHF帯までと割り切って(APB-3の帯域が実質40MHzなので)、大きなフェライトコアを使ったRLBを検討しました。

 

1.使用したフェライトコア

 大きさ色々の#43材フェライトコアはは手持ちがあったのですが、もっと高透磁率のものが欲しかったのでガラクタ箱をかき回しているうちに昔、秋月で購入したラインフィルタが見つかりました。1個50円だったと思いますがそれはともかく、1回巻きのインダクタンス(AL値)が約10µHと#43材より1桁高い値を示しました。ハウジングから取り出したトロイダルコアにテスタをあててみると1kΩ程度の導通があるのでMn-Znフェライトであろうと思われます。またコアサイズは外径25mm、内径15mm、厚さ(幅)12mmです。この形状因子から透磁率を計算した結果、約8,000となりました。フェア・ライト社の#75材(µ=5,000)と#76材(µ=10,000)の中間です。

 Fig.1  AC_line_filter

 Fig.2  Core in the AC_line_filter

Fig.3  One-turn Core inductance L (and it's resistive part L')

 

2.RLBの回路構成とアイソレーション特性

 ブリッジが平衡状態にあるとき、すなわちDUTに50Ωが接続されているときは検出器側(DET端子に信号が出ないはずですが、実際は検出回路のアンバランスにより信号漏れが生じます。DUTがショートまたはオープンのとき検出信号は最大値(Vmax)を示します。平衡時(50Ω接続時)の漏洩信号の大きさがVleakであるとするとアイソレーションは 20*Log(Vleak/Vmax) [dB] であらわされます。たとえばVleakがVmaxの1/100の場合アイソレーションは-40dBとなります。アイソレーションが良好なほど(- ∞ dBに近いほど)インピーダンスの測定精度が高く測定レンジも広くなります。RLBによるインピーダンス測定の原理についてはJA1VCWさんが詳しく解説されていて参考になります[2]。

 ラインフィルタから取り出したトロイダルコアをここでは”LF-core”と呼ぶことにします。これに巻線を20回巻きました。バイファイラーあるいは平行巻きと呼ばれる巻き方です。巻線の長さは75cmにもなりました。20回巻きのインダクタンスは4.5mHでした。

  Fig.4  Application of large troidal cores to Wide-band RLB

 バイファイラー巻きの特徴は巻線同士が接近しているため両者の磁界結合が強くコアの比透磁率が低下する高い周波数においてもトランスの伝送特性が保たれ、結果として高域を伸ばすことができる点にあります。しかし、巻線同士が接近していることで同時に高周波トランスの大敵である巻線間容量が大きくなります。巻線間容量が大きいと浮遊容量(巻線とGND間の容量)によるバランスの崩れがより大きく反映されアイソレーション特性が低下します。このため、コンベンショナルトランスとフロートバランの組合わせにより高周波領域でのアイソレーション特性を確保することにしました。

  実験した3種類の回路を以下に示します。Model-1はコンベンショナルトランス単体で構成したRLBです。Model-2ではコンベンショナルトランスと同じものをフロートバランとして組合わせています。市販されている広帯域高周波トランスでもフロートバランとコンベンショナルトランスを組合わせたものがあるので、おそらく広帯域化の常とう手段なのでしょう。Model-3ではさらなる高周波特性改善を狙いフェライトビーズ(FB801#43)のフロートバランを追加しました。

 Fig.5-1  Model-1

 Fig.5-2  Model-2

 Fig.5-3  Model-3

 

 これら3種類の構成についてそれぞれのアイソレーション特性をネットワークアナライザーで比較しました。伝送特性をDUT:オープンで規格化した後DUTに50Ωの抵抗をつないで測定した結果をFig.6に示します。

Model-1:高周波領域でのアイソレーション低下が目立ちます(緑線)。-30dB以下を測定可能帯域とすると上限周波数は5-6MHzです。これではHF帯全域をカバーできていません。また、20-30MHzにトランスの自己共振と思われるピークが見られます。

Model-2:大型コアによるフロートバランの効果でMHz域のアイソレーションがかなり向上しています(赤紫線)。フロートバランの巻線は回路図上は対称ですが実際はアンバランスでブリッジとの配線を逆転するとアイソレーション特性が変化したりします。この傾向は高い周波数ほど顕著でして10dBくらいの差がでることも稀ではありません。

Model-3:小型のフロートバラン(FB-801)を追加することで10MHz以上でのアイソレーションが少し改善されました(青線)。FB-801が2個(4tと7t)必要なのかと問われれば必ずしもYESとは言い切れない部分もありますが無難な構成かと思います。この辺はいじりだすときりがないので、このModel-3をもって完成とします。

  Fig.6  Comparison of Isolation Property

 

3.インピーダンス測定

 DUTをショート、オープンで校正しテストサンプルのインピーダンス測定をしてみました。カーボン抵抗:0.5Ω、5Ω、50Ω、500Ω、5.1kΩの測定結果を以下に示します。

  Fig.7-1  R=0.5 ohm

  Fig.7-2  R=5 ohm

  Fig.7-3  R=50 ohm

  Fig.7-4  R=500 ohm

  Fig.7-5  R=5.1k ohm

 測定対象のインピーダンスが50Ω(基準抵抗値)から離れるほど精度が低下する様子がわかります。前回のアモビーズを用いたRLBに比べ低域が伸びており、5〜500Ω程度の範囲であれば数10Hzから測定可能となっています。一方、HF帯での挙動は前回のRLBとほぼ同じ傾向で、インピーダンスが50Ωから大きく離れると(0.5Ω、5.1kΩ)位相誤差が増大し、本来Xs=0であるはずのリアクタンス成分が無視できない大きさで出てしまっています。

 

4.まとめ

 リターンロスブリッジは電子工作の中でもはまりやすい類の一つといわれていますが、それは高周波領域で回路図には表れない浮遊容量バランスなど実装形態の違いに依存するファクターが大きく影響するからでしょう。低周波領域ではこうした配慮は不要ですが高周波回路の接地法とは相反する一点アースにするとアイソレーションが大幅に向上することも経験しています。ともあれAPB-3の測定周波数帯域をほぼカバーできることを確認できたので良しとしましょう。

 

 

References

[1]  ジャンクな電子工作&徒然落書き帳:「リターンロスブリッジの作製」、 http://ja7vra.blogspot.com/search/label/%E6%B1%8E%E7%94%A8%E5%AE%9F%E9%A8%93%E5%9F%BA%E6%9D%BF%20%EF%BC%A1%EF%BC%B0%EF%BC%A2%EF%BC%8D%EF%BC%91

[2]   JA1VCW, 「リターンロス・ブリッジ(Return Loss Bridge)の動作」、http://www.yacc.co.jp/~uarc/RLBridge.pdf

 

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