身近な放射線を測ってみる (2011/12/27)


 秋月CsIシンチレータ+フォトダイオード(S6775)を使ったγ線カウンタ(スペクトロメータ)で色々と測定してみた。検出器の部品代内訳はCsI結晶(1cc)が4,500円、S6775が500円、チャージアンプがシールドケースも含めて〜3,000円の合計〜8,000円である。パソコンを使うことでこれ以上の出費を抑えることができた。ともかく、貧乏人の辞書には”万円”という言葉は無いのである。

 

 

環境放射線

 「自作GMカウンタで自宅の放射線測定 (2011/8/23)」のところで自宅周りの放射線強度を測定しているのでおおよその予想はついているが、今回は測定場所によるγ線スペクトルの違いを比較してみた。

 自宅の近辺(数kmの範囲内)には県が設置した空間線量モニタリングポストが数カ所あり、測定値ははいずれも 0.1μGy/h前後の値を指している。これからの類推であるが、我が家の周辺も 0.1μGy/hに近い線量率であろうと考えている。

 自宅2Fのシャックは喫煙室を兼ねており、換気のためにたいてい窓を開け放している。そのせいかどうか、1Fの居間に比べると線量率がやや高い。なので、室内とはいっても屋外に近い状態かも知れない。地上高は県のモニタリングポストの高さ(3.5m)とほぼ同じである。次に検出器とノートパソコンを庭に持ち出し、検出器を芝生の上に置いて測定、さらに駐車場雨どい排水口付近のホットスポット(マイクロスポット)を測ってみた。結果を下図に示す。測定時間は1時間である。

 原発事故以前の空間線量率は〜0.05μGy/hであったから、この地域で現在観測されている線量率の半分は放射性セシウム(134Cs、137Cs)によるものと考えられる。実際に、測定したスペクトルをみると、いずれの場所でもセシウムのピークを確認できた。特にホットスポットではセシウムが10倍くらいに濃縮されているようだ。(わずか数10cm四方のエリアではあるが。)

 参考までに、それぞれの場所でのγ線カウント率を下表にまとめた。

測定場所 カウント率(1時間の平均値)
室内(2F) 229 cpm
庭(芝生) 384 cpm
ホットスポット 2870 cpm

 

 

低ナトリウム塩(カリウム)

 言わずと知れたカリウム(K)線源の”減塩しお”である。”やさしお”以外にも”あましおハーフ”というのがあって、カリウム含有量は同じだが値段が百円ほど安い。余計な調味料が入っていない分、安いのだろう。γ線源として使うには安い方がありがたい。この”あましお”から放出される40-K・γ線を測ってみた。

 ”あましお”の袋で検出器をサンドイッチにして測定した。

 測定時間は1時間であるが、確かに40-Kのピーク(1460 keV)を確認できる。カウント率はBG比で約1.1倍であった。40-Kγ線(1460 keV)の光電ピーク・カウント数は僅少であるので、カウント数への寄与はほとんどコンプトン散乱によるものであることがわかる。

 

 

ランタン用マントル

 定番のマントルである。トリウム系列の複雑なスペクトルを示すことが知られている。高分解能検出器での測定例があったので画像を拝借した(出典:http://anp.nucl.nagoya-u.ac.jp/cloud_chamber/2009/BG_radiation.pdf)。

 自作測定器によるマントルの測定結果を以下に示す。(測定:1時間)

 高級な測定器を用いた測定例と似たようなスペクトルが得られた。CsI結晶の体積が1ccしかないのでγ線エネルギーが大きくなると感度が顕著に低下する。それでも208-Tl(2610 keV)のピークはなんとか観測できている。分解能が低いので、接近した弱いピークはひとかたまりに見える。カウント率はBG比で約3.5 倍であった。


 

[補足] 1cm角CsIシンチレータによるカウント率

 秋月CsIシンチレータ(1cc)を光電子増倍管(PMT)にくっつけて測定した環境放射線(自宅2F)のスペクトルを再掲するが、これをもう少し解析してみた。これから秋月シンチレータを使ってγ線検出器を作ってみようという方々の参考になるかも知れない。

(測定:1時間)

 シンチレータを適当なフォトダイオード(PD)と組み合わせてγ線検出器を作る際、必要になるのがPDのチャージアンプであり、その回路ノイズを防ぐために一定のしきい値をもうけることになる。ノイズが大きいアンプの場合には当然、しきい値を大きく設定する必要がある。そのとき、どの程度のカウント率が期待できるか。パルス波高のしきい値を変えたときに予想されるカウント率を見積もってみた。PMTのノイズレベルは極めて低いので、想定するしきい値以下のカウント数をカットすれば対応するカウント率を求めることができる。結果を以下に示す。

 自宅2Fの環境放射線の線量率を0.1μGy/hとすれば、グラフのカウント率を10倍すると1μGy/h(=1μSv/h)に対するカウント率(cpm/μSv/h)になる。アンプノイズをゼロにできれば3000cpm/μSv/hを超えるカウント率が得られるだろう。一方、しきい値が200keV相当以上の場合には、数100cpm/μSv/h程度に低下してしまう。

 もし、自作したγ線検出器のカウント率が低かったら、まずはチャージアンプのしきい値がどの辺りに設定されているか検討してみることをお勧めする。

 

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