BGOシンチレータ(3) -PMT用HV電源- (2012/04/15)


1.まえがき

 BGOシンチレータの発光強度は比較的大きな負の温度依存性を示すことが知られている。文献をあたると以下のような例が載っていた。

 

1) 中本達也、「高阻止能結晶シン チレータとフォトダイオードを用いたガンマ線検出器の開発」、広島大学、2002/04/01

2) 笹野 理、「ASTRO-H衛生に向けたBGOシンチレータのADP読み出しとその集光効率」、東京大学、2012/01/06

 これらのグラフから読み取ると、5〜10℃の温度変化によりエネルギースペクトル上のピーク位置が10%変化することになる。もともとBGOのエネルギー分解能が低いことに加えてさらにピーク・ブロードニングが増長されてしまう。エネルギースペクトルを取るからにはなるべくシャープなピークを観察したいと思うのが人情である。そこで、PMTのゲインに正の温度変化を与えてBGO発光強度の温度変化をキャンセルしてしまおう、と考えた。

 ちなみに、秋月で売っているサン・ゴバンのCsI(Tl)シンチレータは室温領域で発光強度がほぼ一定になるように材料設計されている。(下図、秋月CsIシンチレータカタログより)

 

 

2.中古BGOシンチレータの温度特性

 BGOの温度特性を実際に測ってみた。恒温槽などという洒落たものはなく自然に任せるしかない。日の出前の時間帯が一日のうちで最も気温が低いので早起きして測定する。天気の良い日は昼過ぎに最高気温となり、室内でもだいたい10℃以上の温度範囲を測定できる。気長な測定である。

 PMT(R1458)の管電圧を850V(一定)とし、やさしおが発するγ線(K40:1460keV)のピーク波高値の温度変化をプロットすると下図のようになり、温度係数は-1.74 %/℃であった。確かにBGOは温度依存性が大きい。

 

3.PMTゲインと管電圧

 一定温度のもとで、K40-γ線のパルス波高値の管電圧依存性を取ってみた。パルス波高値はPMTのゲインに比例するので、管電圧(HV)を上げるとパルス波高値が増大する。800〜900Vあたりでは、管電圧1Vあたりゲインが0.87%変化することを確認した。これはPMT(R1458)のカタログ値にほぼ一致している。厳密にいえばPMTのゲインは管電圧に対して指数関数で変化するが、ここでは電圧範囲が狭いので直線近似している。

 PMTゲインの温度係数を+1.74 %/℃にすればシンチレータ発光強度の温度変化をキャンセルすることができる。管電圧の温度係数を 1.74[%/℃]÷0.87[%/V] = 2.0 [V/℃]に設計すればよいことになる。

 

4.高圧電源回路

 高電圧出力と基準電圧を比較して高電圧ドライバーにフィードバックするありきたりの回路である。コンパレータにはOPアンプ7062Dをインスツルメンテーションアンプの構成で使った。PMTをアノード接地で使うため、HVの極性はマイナスである。このため分圧抵抗(100MΩ+470kΩ)を+5Vでプルアップしている。HVに一定の温度係数を付与するため、サーミスタ回路の電圧を2SC1815のエミッタフォロアで受け、これを基準電圧に足している。10kのバリオームでHVをPMTの動作電圧(-850V近辺)を設定し、サーミスタ回路のR1を調整してHVの温度係数を合わせた。その他、分圧抵抗100MΩのところに2.2μFのコンデンサを入れてあるが、これは電源起動時の突出電圧を抑制する働きをもっている。これが無いと電源ON時にHV出力がいったん飽和値(-2kV弱)まで突出した後、制御値(-850V)に落ち着く動作をする。一瞬でも高い電圧がかかるのはいやなのでこんな対策をとっている。

 この高圧電源回路の温度特性を下図に示す。ほぼ、2.0 [V/℃]の特性がでている。

 

5.PMTゲイン制御の効果

 サーミスタをPMTの筐体にアルミテープで貼り付けた。ノイズを拾わないようにシールド線で配線した。

 

下図の青色の点が温度制御付きの高圧電源を用いて測定した結果である。予定どおり、フラットな特性になっている。

 HV電源の温度制御によりK40ピーク位置の温度変化を相殺してほぼ一定に保つことができた。これは特に測定が長時間に及ぶ場合に効果を発揮する。しかし、環境温度が短時間内(1時間以下)に大きく変化するとシンチレータの温度が追従できずにピーク位置がずれる、という問題がある。シンチレータに直接サーミスタを貼り付ければ良いのかも知れないが、配線の引回しが面倒である。とりあえずこの辺で妥協しておきましょう。

 

 

 予想していたことではあるが最近、原発推進の動きが活発化してきた。現状維持を善しとする勢力が行政に就いているのだから当然の結果ではあるのだが、原発事故の被害の大きさ、影響する時間の長さというものに全く目を向けていないことは理解に苦しむ。いったん飛び散った放射性物質を回収するのが困難なことはわかっているのに何事も無かったような顔をして原発再稼働を進めようとしている。いや、本当は事の重大さを十分に理解していながら敢えて事故の検証を先送りし再稼働を優先しているのだろう。”国策維持に犠牲はつきもの”とでも言わんばかりの勢いである。犠牲にされてはたまらない。さて、どうしたものか。

 

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