旧ソ連製シンチレータとフォトマル  (2012/10/13)


 25φ×20mm CsI(Tl)シンチレータがe-bayに出品されていたので買ってみた。邦貨換算でちょうど1万円ほどになる。ついでに受光面が1インチサイズのフォトマル(PMT)を物色したところ、ヘッドオンタイプのFEU-35があったのでゲット。30年くらい前に製造されたデッドストック品で約2千円なり。

 

CsI(Tl)シンチレータ

 円柱状の25φ×20mmで体積は9.8ccになる。ヨウ素の元素表記がJ(Jod=ヨード)になっているがCsI(Tl)のことである。アルミのケースに収められ受光面はガラス封止されている。よく見るとCsIとアルミケースの間に反射材(白い粉末)が詰まっている。PMTに貼り付ければそのまま使えるようになっている。

 

フォトマル(FEU-35)

 有効受光面が25mmφの大きさをもつダイノード8段のPMTである。受光面以外は黒いフィルム(塗料?)で遮光されている。見た目はGT管の足だが10ピンある。安いリレーソケットで10ピンのものがないか探したが見あたらないので、配線はピンに直付けすることにした。

 

 試験成績表と分割抵抗の結線図がついてきた。

 ロシア製フォトマルのスペックを調べるのに便利なサイトがある。

 http://www.gstube.com/data/?mmm=2850

 そこから引いてきたFEU-35の分割抵抗結線図である。

 これをみると分割抵抗の合計値、すなわち負荷抵抗値を1.1MΩ以下(R =<100kΩ)にするようにと書かれている。(購入品に付いてきた結線図でもR=100kΩが指定されている。)仮に1kVかけたとすると消費電力が約1Wにもなる。高計数率対応の仕様なのだろうがあまりにも電気を食いすぎる。HV電源の発熱も大きくなるだろうから電圧安定度にも影響しそうだ。浜ホトのR1548では負荷抵抗が10MΩ程度になっているので、これに習って分割抵抗をすべて10倍(R=1MΩ)にしてやってみよう。

 抵抗とコンデンサはPMTのピンに直付け、BNCコネクタはHV用、RCAジャックは信号用である。コの字型に折り曲げたアルミ板にコネクタ類を取付け、PMTを挟んでガラス粘着テープをグルグル巻きにし固定した。ガラステープは伸びないので緩みがなく具合がよい。厚めのアルミ粘着テープや銅テープでもOKだろう。黒色のクラフト紙を巻いてさらにアルミ箔でくるんでシールドした。PMTの最大外形が35mmなので内径40mmφの塩ビパイプ(VP-40)を適当な長さに切って筐体とした。 (注:上の写真では比較テスト用にサンゴバンの小さなCsIシンチを取りつけている。)

 

 

 

HV安定化電源の作製

 アノード側接地で使うためカソードにマイナスの電圧を印加する高圧電源が必要となる。浜ホトのPMT:R1548用の高圧電源について過去記事ですでに紹介しているが、BGOシンチレータの温度特性を補償するという、ややマニアックなことになっているので参考にする人は少ないだろう。今回はシンチレータがCsI(Tl)なので温度補償は無しにして、極力シンプルな回路構成をこころがけた。

 高電圧発生回路には例によって冷陰極管用インバータを流用した。4段のコッククロフト回路で昇圧している。マイナスの高圧出力を100MΩと270kΩの金属被膜抵抗で分圧して参照電圧とし、LM355Z-5Vによる基準電圧との差をオペアンプ(7062)1段で検出、ダーリントン接続のトランジスタでインバータの入力電圧(電流)をコントロールする仕掛けになっている。この回路構成で最高出力電圧は-1200Vくらいになる。電圧変動は±0.1V以下(-700V出力時)、室温が22℃から28℃まで変化しても±0.2V以内に収まっている。

 オペアンプが2回路内蔵なので、余った1回路を電圧フォロワーにしてコンパレータの全段に入れてみたが、かえって電圧ドリフトが大きくなる傾向が見られたのですぐさま元に戻した。余計なことはしないほうがいいようだ。

 平滑回路はダイオード1段+抵抗(100kΩ)3段構成にした。(内部抵抗を減らしてmA台の出力にも対応できるようにしたつもり。)インバータの発振周波数は100kHz程度なのでリップルを抑えるのに十分な時定数になっている。-700V出力時のリップルは0.1V以下であった。ただし、高圧ラインのシールドが不完全だと時々、商用電源の50Hzを拾ってリップルが大きくなることがある。これを防ぐにはこの平滑回路では不十分で、別の対策が必要になる。50Hzを拾ってもそれがインバータの入力に伝わらないようにすればいいわけで、例えば2SC1815のベースとGNDの間に100μF程度の電解コンデンサを追加してオペアンプ出力の1kΩと併せてローパスフィルタにしてしまうのが簡単である。時定数が0.1秒程度になるので50Hzのリップルに対して十分な抑制効果が得られる。

 

環境γ線測定

 我が家での空間線量率を確認するため、線量計を借りてきた。機種はテクノAPのTC-100で、CsI(Tl)シンチレータを内蔵したポケット線量計である。まず、2階の作業机の上に置いて30分ほど眺めていると表示は0.05〜0.06μSv/hの間でフラフラしている。ベランダに出すと少し減って0.04〜0.05μSv/h、庭に出て地上高1mでは0.07μSv/h、地表までおろすと0.08〜0.09μSv/hまで上昇した。自作GMカウンタですでに確認済みのマイクロスポット(駐車場雨どいの排水口)にもっていくと最高0.9μSv/hを指した。Csが10倍くらい濃縮されているようだ。ちなみに我が家周辺のモニタリングスポット4カ所の空間線量測定値を平均すると0.074μSv/hとなり、数値はほぼ合っている。

 完成した25φ×20mmCsI+FEU35プローブを使って早速、室内(2階の作業机上)でのスペクトルをとってみた。土壌や建材に含まれる自然由来の核種(K-40、Tl-208)のほかにCs-134とCs-137のピークがはっきりと現れている。

 

シンチレータの感度比較

 10mm角CsI(サンゴバン)、30×12×6mmBGOと感度比較をおこなった。それぞれ室内バックグラウンドを1時間測定した結果を下図に示す。10mm角CsIと25φ×20mmCsI装着時のPMT印加電圧は-600V、発光量の小さいBGO装着時のPMT印加電圧はエネルギー軸を合わせるため-768Vにして測定した。

 同一測定条件で旧ソ連製CsIシンチレータもサンゴバンのCsIもほぼ同じ位置にCsピークが出ているので同等の発光強度があることがわかる。温度特性の比較はしていないが、ソ連製CsIでも20〜30℃の範囲で発光強度の温度変化は認められず、サンゴバン製のCsIと似たようなものかと思われる。

 

  50keV〜2500keVの領域でカウント率を比較

(50keV〜2500keV) 25φ×20mmCsI 30×12×6mmBGO 10mm角CsI
カウント数 92,475 44,580 18,190
カウント率(cpm) 1,541 743 303
感度比(10mm角CsIを1として) 5.1 2.5 1

 定量測定でよく使われる300keV〜2500keVの領域で比較

(300keV〜2500keV) 25φ×20mmCsI 30×12×6mmBGO 10mm角CsI
カウント数 17,105 9,213 2,243
カウント率(cpm) 285 154 37
感度比(10mm角CsIを1として) 7.6 4.1 1

 ソ連製CsIシンチは体積が10ccほどあるので、相応に感度が上がっているようだ。

 これといって特徴のない一般的なγ線プローブを作ってみたわけだが、PMTはデバイス自体がノイズレスなので雑に作っても一定の性能を出せることや温度に対して特性変化が小さいことなどの利点がありなかなか捨てがたい。

 

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