中国製USBアイソレータ(2)  (2018/04/01)


 高周波領域のアイソレーション特性という観点から中華USBアイソレータとアナログデバイセスの参考回路(CN-0159, Fig.1)を比較すると、絶縁型DCDCコンバータの入出力間容量、およびRFフィルタの有無に大きな違いが見られます(先行記事参照)。アナログデバイセス参考回路のDCDCコンバータ(ADuM5000)の入出力間容量は2.2pFですが中華USBアイソレータのDCDCコンバータ(B0505S-1W)の入出力間容量は48pFと20倍以上大きな値です。ならばB0505S-1WをADuM5000に取り換えればいいじゃないかと発想しますが、e-bayで探してみるとADuM5000は中華価格でも1000円以上と高価なのです。そこで入出力間容量の小さなDCDCコンバータを自作しB0505S-1Wと換装することにしました。

 DCDCコンバータ:B0505S-1W(出力180mA)

 中華USBアイソレータ基板からDCDCコンバータを取り外し、かわりにピンソケットを立てておきました。ピン数の多い部品の取り外しには低融点合金を使うのが便利です。元のはんだを吸取線できっちり吸い取った後、低融点合金を流します。残ったはんだが低融点合金と溶け合うまでコテで加熱すれば部品をスポッと抜くことができます。基板に残った低融点合金は吸取線できれいに取り除いておきます。

 

1.自作DCDCコンバータ

 絶縁トランス方式のスイッチング電源を手持ちの部品で作ることにしました。出力電流は最低限、ADuM3160の出力側を駆動できればよいと割り切って50mAを目標にしました。大まかな回路構成は、発振にLMC555、スイッチングトランジスタとして2N2222(PN2222)、絶縁トランスでわずかに昇圧、それをダイオード整流後、低ドロップ電圧の3端子レギュレータXC6202で5Vを得る、といったものです。

 まず、絶縁トランスですがフェライト・トロイダルコア:FT50#43を用い、コイル間の容量を減らすため1次コイルと2次コイルを空間的に離して巻くことにしました。0.2mmΦウレタン線を1次側22回巻き、2次側30回巻きとしました。100kHzにおけるインダクタンスは1次側が270uH、2次側は480uHでした。また結合係数は0.98でした(2次側をショートしたときの1次側インダクタンス、もしくは1次側をショートしたときの2次側インダクタンスから結合係数を求める方法が知られており、この方法で結合係数を算出しました。)次いで、先行記事で紹介した方法で巻線間の容量を測定しました。結果を下図に示します。

Insertion loss between 50 ohm I/O terminals of Network Analizer

 容量性リアクタンスがはっきりとみられ、減衰量の大きさからコイル間の結合容量は約2pFと見積もられます。

 絶縁トランスの素性がわかったので回路設計に入りました。ここではLTspiceの力を借りて動作確認、最適パラメータ抽出をおこないました。まず発振周波数を変えながら2次側出力が大きく取れそうな約200kHzに決定しました。次にスイッチングトランジスタの保護とノイズ輻射抑制の観点から、トランス巻線と並列にC,Rをつないでスパイク電圧を下げることにしました。こうして出来上がったのが以下の回路図です。当初、1次コイル側のR6、C4を調整してスパイクを消そうとしたのですが十分ではなかったため2次コイル側に容量の大きなキャパシタを入れることになり、結果的に並列共振負荷のようなかたちとなりました。

 上の回路を具現化したのが下のこれです。見かけはブサイクですがピンヘッダで本体に差し込むようにしてあります。

 

 出力電流は最大70mAでした。このときの1次側電流は約140mAで変換効率50%程度ということです。

 入出力間のアイソレーションをみてみました。

 この測定結果から、自作したDCDCコンバータの入出力間容量は約5pFであることがわかります。B0505S-1Wの1/10です。5pFのうち2pFは絶縁トランスのもので残りは基板配線によるものです。

 

2.コンバータ換装後のアイソレーション特性

 自作DCDCコンバータをUSBアイソレータ本体に挿して完成です。

 入出力間のアイソレーション特性を測定しました。下図の茶色線がDCDCコンバータ単独の、ピンク色線はコモンモードフィルタの、そして赤線が全体の特性です。自作DCDCコンバータを組み込んだUSBアイソレータの入出力間容量は12pFで、これとコモンモードフィルタのインダクタンス成分とにより3.5MHzを中心とする共振ピークが見られます。ただ、共振点が高周波側に移動したためフェライトコアのR成分(損失抵抗)が増加しブロードなピークとなっています。減衰率も30dB以上稼げています。

 今回の測定結果をオリジナル中華USBアイソレータの結果と比較してみたのが下図です。入出力間容量(Cio)が小さくなった分、特性が良くなっていることをおわかり頂けると思います。

 

3.あとがき

 無線機に限らずUSB接続の測定器類はDCアイソレーションを施しておくと便利なことが多いです。GNDループを通して入ってくる商用電源やいろんなスイッチング電源のノイズを抑制できますし、不用意な操作に対するフェールセーフになります。

 入出力間容量が大きいということで取り外した絶縁型DCDCコンバータ:B0505S-1Wですが、高周波でのアイソレーションを気にしない用途には便利なパーツです。5V電源から±5Vや10V、15Vを簡単につくれます。電流も200mA近く取れますので応用範囲が広いパーツだと思います。単価が140円前後でしたので私も10個ほど買い置きしています。 

 

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