キャパシタのQ測定---準備編---  (2016/05/21)


Qのスモールループアンテナ(例えばMFJのマグループなど)の実測例を見ると、ループの損失抵抗RLOSSと放射抵抗RRADとから計算されるQ値に対して実際のQ値はおおよそ半分くらいになっているようである。これはループ・ワイヤのRLOSSRRADのほかに同程度の別の抵抗成分があることを意味しており、特にチューニングキャパシタの損失を考慮する必要があると考えられる。

 

1.測定法

キャパシタの損失を評価するには高Qインダクタと組合わせた共振回路のQを測定すればよい。当初、インダクタとして銅パイプを巻いたコイル(7ターン、パイプ径8.3mmφ、コイル径6.7cm)を使ってみたが真空バリコンをつないでもQは高々900程度と低かった。

そこで以下の記事にある平行伝送線路型コイル(方形1ターンループ)を作ってみることにした。

Alan Payne; "Measuring the Lossin Variable Capacitors" (http://g3rbj.co.uk/wp-content/uploads/2013/10/Measurements_of_Loss_in_Variable_Capacitors_issue_2.pdf)

寸法は参照記事のものとほぼ同じで、銅パイプの直径は15.88 mmφ、長辺の長さは950 mm、銅パイプの間隔(中心間距離)は116 mmとした。コーナーは銅の90°継手を用いパイプとはんだ接合した。

 

  Fig. 1  Rectangular loop coil for measurement

オープンエンド側にキャパシタを接続して共振器を構成し、ショートエンド側にピックアップコイル(直径数cmのワンターンループ)をリンクさせて測定した。キャパシタと銅パイプの接続リードには幅2 cmの銅板(厚さ0.3 mm)を用い、先端の数cmを銅パイプの径に合わせ雨どいのように湾曲させパイプに重ねビニールテープを巻いて固定した。さらに太めの銅線をきつく巻いてゆるみが出ないようにした。理想的には銅板電極とパイプを溶接(はんだ付け)するのが好ましいが、上記のようなラフな方法でも再現性の良い結果が得られていることから取り外しの利便性を優先し敢えてはんだ付けを避けた。(最初はステンレス製のホースバンドで固定したが、ネジだけが鉄製でこれが測定に強く影響したため使用を断念した経緯がある。)

  

  Fig. 2  Vacuum capacitor connected to the coil, and Pickup loop linked with the coil

 共振点近傍のインピーダンス測定により共振周波数f0-3dBバンド幅Δf3dBがわかればQ = f0/Δf3dBによりQが求まる。インピーダンスの実部(R)に現れる共振ピークの半値幅(FWHM)がΔf3dBに相当するのでこれを読み取ってもいいが、RigExpertのアンテナアナライザ制御ソフト(AntScope)で表示するVSWRの基準インピーダンスを簡単に変更でき最小VSWR1.0に合わせることが可能なことに最近気づいた。そこで今回はVSWR=2.62の周波数からΔf3dBを読み取ることにした。いずれの方法でも同じ値が得られるので単に好みの問題ではあるが。

 

2.インダクタのQの計算

 細長い矩形ループをインダクタとして用いる理由はQを正確に計算できることである。限られた周波数領域で高Qを求めるなら円形ループのほうが有利であるが、円形ループは放射抵抗が大きいので広範囲の測定が難しい。放射抵抗が大きい場合、自由空間での放射抵抗は簡単に計算できるが現実の測定環境では地面や建物などの構造物の影響を無視できない。その点、放射抵抗の小さな細長ループは好都合なのである。そうは言っても放射抵抗が完全にゼロではないので高い周波数では影響が顕著になる。Q値の計算結果を下図に示す。放射抵抗RRADの有無でQがどの程度変化するかを見るためQ1Q2をそれぞれ計算してみた(いずれも無負荷Q)。周波数が15 MHzを超えるとQ1Q2の差が顕著になることがわかる。逆に15 MHz 以下ではQ1Q2の差がなく放射抵抗を無視できることを示している。30 MHzではRRADRLOSS1/2程度の大きさになる。ちなみに、ワイヤ長の等しい円形ループのRRAD30 MHzにおいてRLOSS4倍以上となるので、それに比べれば細長ループの放射抵抗ははるかに小さい。

  Fig. 3  Calculated Q factors for the rectangular loop

Lの計算式

   

        fr:自己共振周波数[MHz]

   

w:方形ループの長さ[m]h:方形ループの幅[m]d:ワイヤの直径[m]

RLOSSの計算式

   

   

    単位はw [m]h [m]d [m]f [MHz]

RRADの計算式

   

    単位はw [m]h [m]d [m]f [MHz]

 作成した細長ループのインダクタンスはL0 = 1.08 uHであった。計算の中にループの自己共振周波数fr が出てくるが、MMANAシミュレーションで求めたfr = 72 [MHz]を用いた。また、上記の計算結果を検証するためMMANAシミュレーションによりQを求め図中に示した(6点)。シミュレーション結果はQ1の計算値とよく合っている。どちらも自由空間を仮定した計算である。

 

3.実測例

 真空バリコンをつないでQを測定してみた。真空バリコンはJENNINGS社、500pFMAXである。測定は室内と室外(庭)の双方でおこなった。これはわが家が軽量鉄骨プレハブ住宅であるためその影響を確認したかったことによる。家の骨組みはおおよそこんな風になっているようだ。

Fig. 4  A typical steel flame structure for houses

2階の部屋がマイシャックなので床フレームと天井フレーム、そしてそれらを支える柱で囲まれている。さらにアルミの窓フレームなども組込まれており、AMラジオ波はかなり減衰する。室内、室外ともに細長ループ・コイルを床(地面)から約1.5 mの高さに水平に設置して測定した。ループ両端を段ボール箱と冷凍食品を入れる発泡スチロール箱を重ねたもので支持した。当初、木枠を組んで支持体を作ったのだがQを低下させることが分かったので発砲スチロール箱に変えた。室内での測定値Qm(indoor)と室外での測定値Qm(outdoor)を計算値と共に下図に示す。

  Fig. 5  Measured Qm values for LC resonator (Vacuum VC is used)

Qの実測値は計算値のおおよそ60%程度と低く、この差がキャパシタ由来の損失に相当すると考えられる。高い周波数領域で室内/室外の違いがみられるが、これは鉄骨構造がもたらすシールド効果を反映したものと考えられる。屋外での測定は地上高が低いのでRRADは自由空間よりも小さくなるが大地抵抗RGNDが加算されるのでトータルとしてみれば自由空間のRRADをそのまま使っても実態から大きく外れることはないように思われる。一方、室内測定では建屋のシールド効果により放射波がループに戻ってくるのでRRADは減少する。室内での実測値はRRAD = 0とした計算値Q2に似た周波数依存性を示しており、RRADが完全にゼロではないもののシールド効果がかなり効いていると推察される。試しにMMANAでこのシールド効果を検証してみた。ループ・コイルを一辺4 mの檻で囲みRRADの大きさを調べた。檻のメッシュサイズを縮めるにつれてRRADは減少し、1 mメッシュでは自由空間のRRADに比べて約1桁低下することを確認した。

Fig. 6  MMANA model for a shield coil

 

4.キャパシタのQ

 屋外での測定は準備に手間がかかったり天候に左右されたり不便なので室内測定を基本に定めた。Q実測値は測定周波数が15 MHz以下であれば室内/室外の影響を受けないことを確認できたがなるべく広い周波数領域でQの変化を検証したいので、とりあえず15 MHzから30 MHzの範囲も含めてRRADを除外した計算値Q2をリファレンスとすることにした。建屋のシールド効果が十分に強くRRAD ~ 0とみなしているわけだがこれは我が家の特殊事情といっていい。したがって高い周波数領域でのキャパシタQ評価にはそれなりの誤差が含まれることを念頭に置おく必要がある。

 LC共振器のQQtotal)は下式のようにインダクタのQcoilとキャパシタのQcapに分割できる。

Qcapを求めるにはQtotalに実測したQ値(Qm)を、Qcoilに計算値Q2を代入すればよい。

一方、Qcapはキャパシタの損失抵抗Rcapを用いて下式で表される。

Alan Payne氏が用いた、キャパシタの損失抵抗Rcapを表すモデルが次式である。

ここで第1項は接触抵抗、第2項は電極支持体(絶縁体)による損失、第3項はキャパシタ電極板およびリード線の表皮抵抗損失を表している。3つのパラメータ(RS、α、β)によりキャパシタ損失の周波数依存性もしくは容量依存性を表現できる。ここでは真空バリコン(JENNINGS社、500pFMAX)の測定結果と一致するように3つのパラメータをいじってみた。下図にRS=0、α=600、β=0.007としたときの結果を示す。図中、青線がQcap、ピンク色の線がコイルQの計算値Q2、赤線がQcapQ2を合成したQtotalである。

Fig. 7  Curve fitting result: Qcoil = Q2 , and Rcap = 0 + 600/(f C2) + 0.007 f 0.5   (f [MHz], C [pF])

キャパシタのQは容量と周波数に依存するので単純ではないが、ここで使用した細長ループ・コイル(L0 = 1.08 uH)と組合わせた場合、真空バリコンのQ値は3000前後であると推察される。

 

 以上、キャパシタのQを測定する準備を進めてきたが、銅パイプによる細長い1ターンループ・コイルを使用することでQ > ~1000の測定を再現性よく行えることを確認した。単純な比較測定はもとよりキャパシタQの絶対値についてもある程度評価可能な状況が整いつつある。今後、自作バリコンの損失評価に活用したいと考えている。

 

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