福島第一原発事故発生から8年が過ぎようとしている。事故で大量にまき散らされた放射性セシウムのうち半減期が2年のCs-134は8年間で放射線強度が16分の1に減り、主要な放射線源は半減期30年のCs-137のみとなった。事故の翌年(2012年5月)に自宅の庭土をかき集め公的機関で放射線量を測ってもらったところ、Cs-137が552 Bq/kg、Cs-134が406 Bq/kgであった。注1) 以後、自作のγ線スぺクトロメータでスペクトルの変化をチェックしてきたが、このへんで一度測定データをまとめておこう。
注1) 庭土の表層2〜3cmを削り取ったもので、標準的な土壌汚染測定のためのサンプル採取法とは異なる。そのため公表されているこの地域の土壌汚染度と比較するとかなり高めの値となっている。
Cs-134とCs-137の量(Bq/kg)の時間変化はそれぞれの半減期から計算できるので、2012年5月の測定値を基準にグラフにしてみた。時間をさかのぼって事故当時のCs-134とCs-137の存在比率はおおよそ1.1対1であったと推測される。そして現在(2019年)はCs-134がCs-137の10分の1以下に減少していることになる。
スペクトル測定には5mm角CsI(Tl)とフォトダイオード:S6775を組み合わせたγ線検出器を用いた。CsIシンチレータの体積が小さいので測定時間は長くなるがエネルギー分解能が高い(〜5%)ので接近したピークが分離されて観測できる利点がある。参照先→「CsI(Tl)シンチレータ面白実験 ---高分解能測定--- (2012/11/26)」
測定サンプルは駐車場屋根雨どい排出口で採取した高濃度汚染土(採取時、約20,000Bq/kg)である。また、測定時間はそれぞれ10〜15時間である。ほぼ2年間隔の測定データを下図に示す。Cs-134とCs-137のピーク強度比較のためCs-137:662keVのピーク高を1に揃えて表示した。
Cs-137:662keVのピーク強度は8年経っても20%程度減るだけなのでほぼ一定とみなせる。これに対し、Cs-134のピーク強度(796keV、605keV)は2年ごとに半分、半分と減っていく様子が見て取れる。また、Cs-134が減少するにつれCs-137のコンプトンエッジ(478keV)がよりはっきり見えてくる。一方、Cs-134:796keVピークのコンプトンエッジは603keVなので500〜600keV領域のベースラインはCs-134の減少につれゼロに近づくものと思っていたがなかなか下がりきらない。汚染土なしで測定したバックグラウンドよりも明らかに高いことから、例えばカリウム(K-40)のコンプトン散乱を拾っているのかもしれない。検出器の感度特性なども含めもう少し広範な検討が必要なようだ。
当初は半減期の短いCs-134の影響が強かったため環境放射線量の減り方も顕著だったが、今後は半減期30年のCs-137が主役なので線量の変化はゆったりしたものになる。