アンテナアナライザ(AA-30)によるコイルのQ測定---測定法の比較      (2015/01/09)、追記(2015/01/13)


 最近のアンテナアナライザは測定レンジに制限があるものの複素インピーダンスを計測でき、安価なインピーダンスアナライザとして使える。前出の「アンテナアナライザ(AA-30)を用いたコイルのQ測定 (2014/10/31)、追記 (2014/12/14)」で紹介したように、共振ピークのバンド幅(Rsピークの半値幅)を測定すればLC共振回路のQ(無負荷Q)を算出できる。十分に低損失のCを使えば測定したQ値がL(コイル)のQをあらわすことになる。

 一方、アンテナアナライザを使って共振回路の等価直列抵抗(ESR)を直接測定する方法が知られている(例えば、http://www.h4.dion.ne.jp/~ja5fp/qmeter.pdf)。  ESRがわかれば Q= 2πf L/ESR の関係式(Lはコイルのインダクタンス)によりQを求めることができる。ただしアンテナアナライザの性格上以下といった小さな抵抗値の測定には適しておらず、ESRが数Ω〜数10Ωのコイルが主な測定対象になる。

 HF用の空心コイルだと使用領域でのESR以下である場合が多いので、今回は巻き数の多い中波用空心コイルを作製し、上記の2通りの方法で個別にQ測定をおこない比較してみた。

 

1.測定対象コイル

 線径0.4mmのエナメル線(PEW線)を外径51.5mmのポリエチレン空瓶に100回巻いた後、ほぐれないように熱接着剤(エチレン・酢酸ビニル系接着剤)で巻線を固定した。コイルの長さは45mm100kHzで測定したインダクタンスは387μH、自己共振周波数は5.51MHzであった。

   Fig.1  Coil under test 

 

2.共振バンド幅からQを求める方法

 測定対象コイルにキャパシタをつないで共振回路をつくり、アンテナアナライザ(AA-30)につないだ検出コイル(14ターン)を測定対象コイルと磁気結合させてインピーダンス測定した。キャパシタにはCOMET社の真空バリコン(20pF1000pF)を使用した。

   Fig.2  Equipped LC resonator for band width measurement

 測定対象コイルと検出コイルの結合の強さ(つまり相互インダクタンス)を調節すれば共振ピークの高さをアンテナアナライザが得意とする数10Ωのレンジに合わせることができる。一方、共振ピークの半値幅は結合の強さにかかわらず一定値を示す。これは共振ピークの半値幅は共振回路のLRCによって決まることは計算で確かめているが、実験でも「アンテナアナライザ(AA-30)を用いたコイルのQ測定 (2014/10/31)、追記 (2014/12/14)」で確かめている。

Fig.3  Measured impedance through linked coil

 上図は共振周波数613kHzでの測定例だが、Rsピークの半値幅が3.87kHzであるのでQu(無負荷Q=613/3.87=158と求まる。バリコンの容量可変範囲で何点かQuを測定した結果を下図に示す。周波数が1MHzより大きくなるとQuが徐々に低下しておりコイルの自己共振の影響が出始めていることがわかる。

Fig.4  Determined Qu values

 

3.ESR測定からQを求める方法

 測定対象コイルの誘導性リアクタンスをバリコンの容量性リアクタンスで打消しRのみを測定する方法である。Rを直接測定することになるので例えばR<1Ωとなるとアンテナアナライザ(AA-30)では精度が極端に低下する。そのため今回はわざわざ細い巻線で巻き数の多いコイルを作製している。

 Fig.5  Setting for coil's ESR measurement 

 コイルとキャパシタを直列接続し他のコイル端子とキャパシタ端子をアンテナアナライザに直結して測定した。下図の例では周波数679kHzでちょうどコイルとキャパシタのリアクタンスがキャンセルし合い(Xs=0)、純抵抗成分のみが現れている(Rs=10.2Ω)。これはそのままコイルの等価直列抵抗(ESR)に相当する。

Fig.6  A example of ESR detection

 バリコンの容量可変範囲で何点かESRを測定した結果を下図に示す。

Fig.7  Coil's ESR at each frequency

 各周波数でコイルのリアクタンス(XL)をこの抵抗値で割り算すればQuを求めることができるが(Qu= XL/ESR)、XLはこの周波数域で数100kΩ〜数になるのでアンテナアナライザでは正確に測定できない。そこでコイルの自己共振を考慮したXLの近似式

  

を用いた。ここでL0は自己共振の影響が及ばない十分低い周波数(100kHz)で測定されたインダクタンス、f0はコイルの自己共振周波数(5.51MHz)である。

 ESRから算出したQ値を以下のグラフに示す。

Fig.8  Qu calculated from ESR

 

 

4.Q値の比較

 2つの異なる方法で測定したQ値(Fig4Fig.8)を下図に重ね書きしてみた。

 Fig.9  Q values obtained from two different methods

  どちらの方法で測定しても大差のない結果となった。ESRからQuを算出する過程でリアクタンス(XL)の近似式を使ったがこの式は周波数が高くなるほど自己共振周波数(f0)の影響が大きく反映する。自己共振周波数の測定はコイルの両端をフリーにした状態でコイルに近接させた別のワンターンコイルのインピーダンスをアンテナアナライザで測定し共振周波数を求めた。しかしESR測定時は数cmのリード線で真空バリコンおよびアンテナアナライザにつないでいるので、両端フリーで測定した自己共振周波数をESR測定時のコイルパラメータとしてそのまま使って良いものかどうか多少疑問が残るが今後の課題としたい。

 コイルのQ測定といえばQメーターなる物が存在するが私は残念ながら持っていない。出力インピーダンスがゼロのRF電源と入力インピーダンスが無限大のRF電圧計で構成すれば理想的なQメーターになるが、現実はどちらも有限値であるためQメーターで高いQ(例えばQ>1000)を測定するのはかなり難しいとのことである。

  コイルに限らず、High-Q スモールループアンテナのQ値測定など、AA-30のようなアンテナアナライザは有用なツールといえるのではないでしょうか(私は決してRigExpert社の回し者ではありません。同種のアンテナアナライザはほかにも各社から発売されています。)。測定レンジに制約はあるものの、ベクトル・インピーダンス・アナライザを2〜3万円で買える時代になったのですから、使い道をいろいろ考えるのも楽しいものです。

 

 

<追記 (2015/01/13)>

 HPを調べていたら、ESR測定においてコイルのリアクタンス(XL)を用いずにQを算出する方法が紹介されていたので早速ためしてみた。(http://www.w5big.com/Q-Measurement.pdf#search='coil+Q+selfresonance')

 

5.ESRdX/df 測定からQを求める方法

 この方法はXs=0となる周波数におけるRsの値(ESR=R)とXsの傾き(dX/df)の2つの測定値を用い、

の関係式によりQを求める方法である。ESRXsの傾き(dX/df)から得られる3dBバンド幅で中心周波数(f0)を割ればQ値が得られるというわけである。

Fig.  An example of Rs, Xs curves for ESR and dX/df measurement

 Fig.10の例にみられるように、|Rs|=|Xs|の条件を満たす2点が3dBバンド幅(VSWR=2.62の周波数幅)に相当するが、この2点においてXs=±Rなのでバンド幅は

で表される。したがって

となり、最初に示したQの計算式が得られる。

 これにより、実測値だけでQを計算するので自己共振周波数という厄介なパラメータを持ち込まずに済む利点がある。Xsの傾き(dX/df)の測定値から計算したQは下表のようになった。

f0   (MHz) R   (Ω) dX/df   (Ω/MHz) Qu
0.247 4.5 4910 135
0.278 4.8 4930 143
0.353 5.8 4940 150
0.446 7.3 4950 158
0.679 10.2 4970 165
0.933 14.0 5010 167
1.222 19.1 5110 163
1.54 26.2 5210 153
1.75 32.2 5382 146
1.893 37.1 5360 137
2.006 41.6 5410 130

 Fig.11に今回の結果とFig.8の結果とを重ね書きしてみた。図中、黄色で示す点が今回の測定結果である。ほとんど差はないといっていいだろう。自己共振の影響が顕著な高周波数域でもずれは小さい。今回の方法はXLの値を使わなくてもよいのでその分簡便かもしれないが、R値の測定精度が結果に直接影響するのは共通である。

Fig.11  Q values from ESR measurements

 

6.まとめ

 アンテナアナライザ(AA-30)による3通りのQ測定法を比較した。

Qの測定法 長所 短所
検出コイルを使って共振バンド幅を測定し、Q=f0/BWを適用 Rs共振ピークの半値幅を測定できればよいので適用範囲が広い 検出コイルが必要.アンテナアナライザの測定レンジに合わせるためコイルの結合度を調整する必要がある
共振回路を直結してESRを測定し、Q=XL/ESRを適用 Q以外にESR値も確認できる XL値を知る必要がある.ESRがアンテナアナライザの測定レンジから外れると測定できない
共振回路を直結してESRdX/dfを測定し、Q=f0*(dX/df)/2/ESRを適用 Q以外にESR値も確認できる ESRがアンテナアナライザの測定レンジから外れると測定できない

 どの測定法が適しているかはcase by caseであるが、HF用コイルではESR1Ωである場合が多くESRの直読は難しい。この場合、「Rs共振ピークの半値幅を測定する方法」が有用と思われる。

<追記終り>

 

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