今回は「ストーンオーシャン」の最後に描かれた「新しい彼女達」、アナキスとアイリンについて考察します。
彼女たちが登場したのはページにして4ページ程、(セリフもいれれば5ページ程)という少なさですが妄想・・・もとい考察するに余りあるキーポイントがちりばめられていました。
ここではそのキーポイントを順番になぞりながら彼と彼女の関係を紐解いて行きたいと思います。
その1「二人は最初から恋人同士である。」
エンポリオが出会った「新しい彼ら」の中で一番関係が変わっていたのがアナスイ(アナキス)と徐倫(アイリン)でした。
しかも、父さえ許してくれるなら結婚するつもりだと言う程、親密かつ真剣な絆を育んでいる様子です。
ここで重要視したいのは二人が出会った時期についてです。
アナスイと徐倫が出会ったのは2011年の11月から12月にかけて。(多分)
その後3〜4ヶ月あまりで脱獄し、ケープカナベラルに行きます。
アナキスとアイリンは少なくともこれより数ヶ月以上前に出会い、愛を育み(笑)、お互い結婚したいと思うほどの仲になっています。
つまり前世界の彼女達の出会いの運命と大幅に違っているわけです。
これは二人の間にある「引力」が他の誰より強く引き合った結果だと妄想・・・もとい、考察します。
徐倫は前世界でアナスイに「いいわ」と結婚の申し込みを許しました。
その言葉の中にはセリフ以上にアナスイの愛を受け止める真剣な思いがあったのではないでしょうか。
お互いが、お互いを求めたからこそ新世界で更なる強い引力が生まれた。
自分はそう解釈したいです。
その2「アナキスが彼女を好きな事」
作中でアイリンが車から出る時、彼女はアナキスの手に自らの手を重ねます。
その手に愛おしそうに頬を寄せるアナキス。このコマだけで彼、アナキスがどれほどアイリンを愛しているかがわかります。
余談ですがこの「手をとる行動」、女性が車から出る際のエスコートと解釈出来ますが、アナキスは視線をそらしているしアイリンはドレス姿でもないのでイマイチエスコート・ポーズの必要性を感じません。
要するに二人いちゃいちゃしたかった。と見るほうが自然な気もします。
アナスイが徐倫に恋をしたのは、乾ききって絶望の闇に沈んでいた己を彼女の魂が光で照らしてくれたからでした。
また、彼が彼女の一番好きな仕草が「その瞳が遠くをまっすぐに見つめる時」でした。
逆説的に言えば、アナスイは殺人者で異常性癖を持つ自分自身を嫌っているが故に黄金の魂を持つ徐倫にあれほど魅かれ、焦がれ、追いかけたのだと、以前の自分は解釈していました。
しかし「新世界」での彼、アナキスは刑務所に入っていないことから犯罪者ではない、殺人を犯してはいない、世間から殺人鬼とは呼ばれていない人物であるようです。
十字架を背負うことのない人生を歩んでいるアナキス。それでも彼は「彼女」に出会い、恋をします。
アナスイが「自分の魂の救済」だけのために徐倫を追い、彼女のために戦ったのではないのだと、全ての「罪」や「冠する肩書き」をなくしてもなお、彼は彼女の魂を求めたのだと、そう思えてきて嬉しかったです。
その3「アイリンと彼のコミュニケーション」
一方アイリンですが、作中彼女はカンパ目当てにアナキスが呼び止めたエンポリオに「お金なんて取らない」とアナキスの計画を勝手に変えたり、アナキスがもう乗せないと言っているヒッチハイカーを車に乗せさせたり、かなり尻に引いている・・・もとい、自分の考えどおりに行動しているように見えます。
しかしアイリンの言動は全て「アナキスが自分の意見を受け入れてくれる」、という事を前提としていて、そこには彼に対する信頼と共に包容の期待、親密な恋人同士特有の「甘え」が見られる気がします。
また、エンポリオやエルメェス(元)に対し自分たちを自己紹介するにあたり自分たちが婚約している仲だとまで話すのは、初対面の相手への説明にしては深すぎ・・というかやはりいちゃいちゃしたいのか、などと二人のラブラブぶりがここでも確認できます。単に少ないページでは必要以上にセリフが説明的にならざるを得なかったため、という突っ込みは置いておいて。
更にうがって見るならアイリンの服装にも注目です。
ハートの形に無数の穴が開いたセーター(?)の下にビキニタイプのチューブトップを着て、キュートながらもセクシーなファッションです。
近くの彼氏ドキドキって感じです。
アイリンは戦いの無い世界で両親に育てられているようで、徐倫に比べ、刺青もしていないしほのかにお嬢様な印象を受けます。
そんな彼女がキュート&セクシーな服で男と車の二人旅、相手にかなりの信頼を置いている証拠だと思います。
ハート型デザインもビキニも徐倫の面影を残すためだという突っ込みは(以下略。)
さて、ここで疑問の出る「アイリンは何故アナキスを恋人に選んだのか」ですが、アナキスという男を見るに
「金にセコイ」
「セコイというより、もしかしたら金が無い」
「アイリン以外の人間に対してなんとなく優しくない」
・・・等等、あまり手放しでほめられる青年ではない気がします。
では彼女の気持ちを一番引き付けたのは何なのかと言うと、それは「誰よりも彼女の事を真実愛している」と、いうことに他ならないと思います。
遠い過去、徐倫は真実の愛を見抜けず恋人に裏切られ心に傷を負いました。
アナキスとアイリンが車で父に会いに行く、というシチュエーションは徐倫がロメオとドライブをした時と鏡のように似せて描かれています。
それは全ての不幸の始まりだった「恋人とのドライブ」が、新しいこの世界では全ての希望の始まりなのだと、限りなく近く決して同じではない、ニア・イコール≒の象徴として荒木先生は二人をこの風景に置いたのだと思います。
だとするならばアナキスはロメオと対になる位置に存在するキャラクターであり、ロメオとは違って、決して裏切らない愛を持っている、恋人たるにふさわしい青年であるはずです。(表面上はどうあれ)
父の愛に飢えることなくまっすぐに育ったアイリンは当然「真実」を見抜く目が養われ、結果アナキスを選んだわけです。
アイリンは多分徐倫と同じ19歳です。
ピチピチです。
若くて可愛い彼女には結婚という二文字はあまりに早い決断のように思えます。
しかし彼女は花も実もあるこれからの人生を彼と共に歩んでゆく事を既に決めています。
左手の薬指にはめられた指輪がそれを物語っています。
彼の意見をあまり聞かず、自由に行動しているようでいて、アイリンの愛もまた、真実のものであるのだと言えると思います。
「最後に」
屈折した父への思いに縛られていた徐倫。
自分の魂を呪われたものと考え、心の闇の中で絶望に囚われていたアナスイ。
新世界でのアナキスとアイリンは元の彼らが望み、決して得ることのできなかった幸福の中にいます。
彼らは確かに「石の海」から解き放たれ、「天国」にたどり着いた、「どうなるかわからない未来への道」はきっと更なる幸福へと続いているのだと、ストーンオーシャン最後のこのシーンを見て自分はそう思いました。
新たな彼女達に、心からの祝福と祈りを送りつつ・・・・。考察文をしめたいと思います。
|