コラムる

徒然なるままに、愛しのキャラクター達へ思いを馳せる。
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 1     川尻家の人々(ジョジョ・4部より)  
今回はジョジョ4部の後半に登場する川尻家、中でも一家の大黒柱
「川尻浩作」氏について考察してみたいと思います。
 
浩作氏は登場時既に顔を剥がされた死体だったので彼の人となり、何を考え、人生を送ってきたのか、彼自身から語られるものは一切ありません。
黒目がちな黒髪、クセ毛(?)の少しハンサムで背も高い痩せ型の男性。
実際この名前、この顔で作中活躍するのは浩作氏の存在場所と顔を奪った吉良吉影です。
ジョジョのイラストで川尻浩作氏の顔を見てファンは「顔を変えた吉良だ」、とは思っても誰一人「川尻浩作だ」とは思わないでしょう。
 
彼という人物を推測するに、先ず注目されるのは彼の妻「しのぶ」の夫に対する言動です。
しのぶは浩作を「つまらない男」と称し、結婚10年余りで倦怠期を通り越して夫の存在自体に嫌気が差しているという風です。
ここでしのぶ曰くの浩作像を箇条書きにしてみますと
 
メシ・フロ・寝るの言葉しか言わない
●妻の失礼な態度に怒る事ができない
●全般的にスットロイ
●飼っている動物には無関心
 
そんな浩作にしのぶは微塵の魅力も感じていないようで、そもそも付き合いだしたのも友人への優越感からだそうで、しのぶ的には最初から恋心はなかったようです。
 
なのに、しのぶは浩作に成変わった吉良吉影にそれとは知らずときめきを覚え、恋心を感じます。
吉良自身は目立たぬよう、家庭生活に波風を立てず、静かに暮らす努力はしていますが、取り立ててしのぶに気に入られるような行動をしているわけではないのに、です。
つまりしのぶが恋をしたのは顔も、社会的地位もそのままで中身だけすり変わった「吉良の人格そのもの(殺人壁は置いておくにしても)なわけで
全く持って浩作氏は救われないと言いますか、何とも顧みられない人物です。
ジョジョ界のキング・オブ・へタレと言っても過言ではないと思います。
 
物語ラスト、偽川尻浩作は顔のない死体となり吉良吉影として認知され、「川尻浩作」自身は行方不明の存在となってしまいます。
それでも、しのぶが待ち続けるであろう夫は他ならぬ「吉良の中身を持つ浩作」であってしのぶは浩作と思っていても浩作自身ではないわけで・・・
 
そんな浩作としのぶの間には「かすがい」と言いますか、浩作的には一筋の光明(?)であるのが息子の「早人」です。
早人は物語初期、「何を考えているのかわからない、盗聴、盗撮おたく」として描かれます。
何とこの少年、両親の寝室に隠しマイクとカメラを設置し両親の生活を観察していました。
そんな犯罪スレスレ(いや、犯罪だけど)の行動が奇しくも吉良の正体を暴き、町の殺人鬼を倒すきっかけになるわけですが・・・
 
早人にしてみれば、「何を考えてるかわからない」、内にこもった性格になったのも、盗撮趣味に走ったのも、全ては
「僕は愛し合っている両親から生まれたのか?」
という自己のアイデンティティを求める、求めざるを得ない孤独で希薄な家庭環境で一人答えを探してあがいた結果だったわけで・・・小学生の置かれた状況としては切ない話です。
 
 
まあ、愛し合ってはいなかったわけですが。
 
 
さて、浩作氏ですが、彼自身は夫として、父として、己の立場をどう考えていたのでしょうか。
彼の社会的な行動を箇条書きにしてみますと
 
●収入に少々不釣合いな貸家の一戸建てに住んでいる。
●・・・の割りに新車を買ったり息子の学費にお金をかけている。(貯金感覚が薄い)
●仕事は真面目に行っている。
●上司にヘコヘコしているらしい。
●出世をしたかったらしい。
 
と、少し体裁というか社会的ステータスを気にする傾向にあるようです。
吉良も浩作を演じていて
「浩作め・・・そうまでして出世したかったのか」
と愚痴ます。
それは「安月給」と妻に罵られていたからかもしれません。
上に挙げたステータス思考も「付き合いを優越感から続けた」妻、しのぶの意向に沿った結果かもしれません。
 
どんなに妻から見て「つまらない」生き方だとしても、息子が盗撮に走るほど親の愛を感じられない家庭にしてしまってたのだとしても、浩作氏は彼なりに、家庭を守ろうとしていた、口下手で、不器用で、スットロく、彼の努力と誠意がほとんど家族に伝わっていなかったとしても、彼は家庭の夫であり、父であろうとしていた、
・・・・のではないでしょうか。
 
皮肉な事にしのぶや早人を妻(女性)として、男として変え、成長させたのは吉良の存在です。
しかし早人にとって「父親」とは紛れも無く“浩作”その人だけであり、早人は決して吉良に心を許しませんでした。
吉良の死後、早人は呟きます。
「ちっとも仲良しじゃなかったけれど、僕の父さんはあいつに殺された。」
父の遺品であるカバンをしっかりと抱きかかえながら・・・。
 
歯車のすれ違い(?)で冷えた関係になってしまっていた川尻家ですが、それは平凡な、ささやかな人生を送る男が守った家庭でした。
 
「人を殺さずにはいられない」という性癖から家庭を持たず、独身でいた吉良吉影ですが、もしその異端な性癖がなかったとしたら、彼の理想の生活が川尻家にはあったのかもしれません。
 
カリスマ悪役・吉良吉影と対照的な描かれ方(というか描かれてないケド)をしたキャラクター川尻浩作氏に思いを馳せつつ、考察を終えたいと思います。
 
2004.7.19
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