「ウェザー・リポート・・・起きてる?」
忍び込んだ男子監の医療棟で彼の名前を小声で呼んでみる。
私を助けて大怪我を負った“彼”、ウェザーは上半身を起こして窓の外を眺めていた。
「・・・君の体は、大丈夫なのか?」
外を向いたまま、つぶやく彼にうなづいてみせると
「そうか」
と小さく答えてくれた。
「大怪我をして、いまだに入院しているって聞いて。
私はF・Fがいてくれるから歩ける位には回復したけれど貴方は・・・」
私の言葉を聞いているのか、いないのか。
ウェザーは表情を変えずに軽く瞬きをするとこちらに振り向いた。
「早く、帰った方がいい。ここは人の目が、多い。」
お礼を言いたかったのだ、と彼へ身をのりだすと深い色の瞳と視線が合う。
「俺は、命が惜しくない。」
私の言葉をさえぎって、ウェザーがつぶやく。
「ホワイト・スネイクは敵だし、記憶を取り戻したいとは思うが、君の目的ほど重要なわけじゃあない。」
だから、君を助けたのは当然だし、特別な事じゃない。
ウェザーはそう言うと、また顔を窓の外へと向けた。
「・・・わかったわ。お休みなさい。・・・有難う。」
彼の唇が微かに動く。
多分挨拶をしてくれたのだと解釈し、私は部屋を後にする。
何故だか、届く言葉を探せない自分が、なんとなく、やるせなかった。
振り返れば彼はただ静かに夜の空を眺めていた。
鉄格子の向こうには綺麗な月が浮かび、
月が照らす海には金色の光の帯が伸びていた。
ウェザーはその道を見ているようだった。
海に伸びる光の果ての、さらに遠い何処かを見つめているようだった。
終
2003.12.16
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