ウェザー・リポートの拳が神父に止めをさそうと振り上げられた瞬間、突然車が突っ込んできて大破した。
衝撃で土煙が舞い上がり視界をさえぎる。
俺は地面に叩きつけられながら顔を上げ、神父とウェザーの姿を探した。
決着はどちらのものだったのか。
しかし土煙がおさまった視界の先にあったのは、既に動かなくなった
<彼>の影だった。
「・・・ウェザー・・・」
俺は無意識に呟いていた。
「ウェザー?ウェザー!!」
遠くの方で聞き覚えのある声が彼の名を呼んでいる。
徐倫の声だ。
車の事故は彼女達が起こした物だった。
俺が徐倫を追っていたように、彼女達もまたウェザーを探しに来ていたのだ。
・・・ウェザー、彼女は、こんなにお前を呼んでいるのに。
「俺を殺せ。」
焼け付くような陽光の下、凶々しく輝く虹と地平の彼方まで大地を覆う蝸牛の大群。
熱病にうなされて見る悪夢のような光景の中でウェザーは俺に向かってそう言った。
「頼むぜ・・・アナスイ。」
あまりに唐突過ぎる要求に俺は言葉を失う。
<徐倫達のもとへ戻るつもりはない。
彼女達に俺の望みは叶えられない。
だが、お前になら出来るだろう。殺人鬼のお前になら。>
自分は兄、神父と決着を付ける。
全てが終わったら俺を殺せ。
蝸牛と虹の脅威を止めるには俺が死ぬしかない。
何より俺は自分自身を終わらせたい。
・・・そう言って天を仰いだウェザーの表情は強い太陽の光の影になって確かめる事ができなかった。
『ウェザー・リポート』
彼の本当の名前を俺は知らない。
無口で無感情な、とらえどころのない男だった。
ただ、なんとなく俺は彼に対してお互いが持っている「匂い」のような物が似ている、と感じていた。
性格はまるで違っていたが、俺たちはどこか似た者同士だった。
二人とも心に乾いた穴が開いていた。
その穴を埋めたのが彼女『空条徐倫』の存在であり、
彼女の進む道を共に目指す事が自分自身の魂を生き返らせる事だった。
俺と・・・ウェザー、お前にとってもそうだったはずなのに。
ひときわ高く風が啼いた気がした。
静寂に包まれた街の中、彼女は全てを悟ったのか立ち尽くしている。
「もう一度、あなたと話がしたい・・・」
徐倫はうつむき、小さくつぶやく。
ウェザー、彼女の中でお前は永遠にそよ風のままだ。
もし、と俺は自分に問いかける。
ウェザーが神父に勝利したとして、戦いが終わっていたのなら、俺は彼を殺したのだろうか。
徐倫の前でウェザーの望みを叶えたのだろうか。
何も言わないままいった彼の面影を探してか、徐倫はずっと空をみつめていた。
俺も彼女に続いて顔を上げる。
虹が消え、風も止んだ青空に白い雲だけが浮かんでいた。
終
2003.10.17
|