青年は病院の玄関を出るとあたりを見回した。
「・・・・・?」
目覚めた時は病院のベッドの上だった
軽い検査と問診の後、施設を後にする
けれど
何故自分は此処にいたのだろうと青年は頭を捻る。
駐車場に行きかけて、バイクがない事に気付く
そうだ自分は交通事故を起こして運ばれたのだった
パトカーに追跡されてスピードを・・・
・・・・・・いや、事故を起こしたのは雨で滑ったからだった。嵐が急に。
すべてがぼんやりと、記憶が虚ろに思えて青年は眉をひそめる。
歩き出した街のはずれにある小さな教会。
開け放しの扉から漏れる賑やかな声に誘われて建物に歩を進めると快活な少女の声
「だから神父様は今日出かけてるんだよ。
懺悔ってさあ、気安く来て話せばそれで贖罪になるもんでもないだろ。アンタ神父様に心配ばかりかけてさ」
所在なさげに頭をかく青年はそれでも去りがたいのかブツブツと小さな声で反論をする
「反省してるから来てるんじゃないか。俺って駄目なんだよなあ。でも、幸せになりたいからよ・・・」
問答を続ける二人を遠目にしながら壁を見上げると
一枚の絵画が飾られていた。
絵に祭りを喜ぶような大勢の人物や動物。
ひときわ印象に残るのは中央で空の果てに大きな時計をかざす女神の姿。
時計の針と文字盤が2重になっているのが意味深げで青年は絵画の前に立ち尽くす。
「すごいだろ、ここで世話になった奴が描いたんだ。
最近有名になっちゃって来なくなったと思ったらそれを贈ってきてくれてさ。」
青年に気付いた少女が得意げに声をかけてくる。
絵には
《漂泊のカプリチオ》
と小さく題が書かれていた。
急に耳の傍にひやりと何かが触れる。
驚いて頬に手をやるがその感覚は顔の横を抜け少女達の方向から天窓へ向かっていった。
淡雪のような、という表現が似合う感触だったが、そんなバカなと青年は思う。
ここはフロリダで、しかも下から上に昇ってゆく雪など。
「良かったら今度のクリスマスに来なよ。大勢集まるし楽しいからさ」
少女の笑顔に青年は恥ずかしそうに頷く。
瞼は もう重くなかった。
終
2004.12.15
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