宝物置き場

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[515]の北村様・作 小説“記憶の海”★NEW★
最近気候がおかしいのか、まだ春も遠い2月ー。
二人は海に来ていた。
 
「寒〜い、でもやっぱり冬の海って、素敵ね」
「そうだね」
『君の方が素敵だ』と言おうとしたが、なんとか抑える。
アイリンと付き合いだし、学んだアナキス。交尾とに素敵だと言われるのは確かに嬉しいが、アイリンはそれを臨まない。
自分の事よりもすばらしい景色を、感動できる映画を、一緒に楽しんで欲しいのだ。
アナキスはついつい目の前の冬の海にアイリンに見とれてしまいそうだったが、出来るだけ首を曲げないように気をつけた。
「・・・・・・・・・海を見ると、なぜか不思議な気分になるの」
「・・・君もかい?」
これは本心だ。アナキスも同じく昔から海を見ると不思議な気分になる。テレビに出てくる海を見ても同じだ。
「アナキスも?あたしも・・・なんだか変な気分になるの。ただ、人間が進化して・・・海から来たってだけじゃないみたいで・・・」
よく、人間はもとは海にいた生物が進化し、陸に上がり、そして今の形を作り上げたと言われているから、
海を見ると不思議な気分になる人は多くいるだろう。しかし、この二人は違っていた。
「俺もさ。なんだか嬉しいような、懐かしいような・・・悲しいような・・・なんとも言えない気分になる」
アイリンはアナキスとここまで話が合うことが滅多になかったので嬉しくなった。
アナキスの「分解好き」はあまり今でも理解できないし、文系のアイリンは読書が好きで、新旧問わず色んな本を読んでいる。
しかしアナキスは逆に理系なのでいろんな物事を論理的に考える傾向があり、あまり読書はしない。
アナキスにシェイクスピアの悲劇など理解できないのだ。
「あたしもそうよ・・・!でも、どうしてかしら。普通海を見ると感動するものだけれど、それだけじゃないなんて」
二人は答えが出てこなかった。
この場所はかつて徐倫達がプッチ神父と最後の決戦をした場所だった。今それを知るものはエンポリオしかいない。
「俺は夢を見るとき、いつも海で死ぬ夢を見る。だから・・・学校のプールで泳ぐ事は出来ても、海に行くのは少しためらってしまうときもある。今日は見るだけだから普通に来たけれど・・・」
「そうなの?あたしはあまり夢を覚えていないから、よくわからないけれど…溺れて?」
「いや・・・そうでもないようなんだ・・・具体的な映像はないけれど、夢の中で激しい波の音が聞こえて・・・
そして、なぜか海の深い青が目の前に広がり、死という感覚だけがくっきりと・・・」
前の世界からの影響だろうか。彼自身は何も知らないはずなのに、決戦のときの彼の死に際が夢となって現われている。
「でもまあ、どうでもいいことだけれど」
突然アナキスは話を途切れさせた。
「気にならないの?」
「多少は。でも、わかるんだ。夢の中で死ぬといい俺は孤独感はなかったんだ。死の感覚はくっきりとあったけれど、
孤独ではなかった。そして、なんの悔いもなく、安心して死んでいける・・・そんな夢だから」
「側に誰かいたってこと?」
アイリンは防波堤にひじをついて海を眺めていたが、アナキスに質問を繰り返しながら、階段を降り、砂浜を歩き始めた。
アナキスもそれに続く。
「わからない、そこまでは。でもきっと、君を守って死んだんだよ。俺は」
「・・・あたしを?」
「ああ、そうでなければ俺は後悔や悲しみに覆われて、むなしく死んでいく夢を見ているだろうから」
アナキスはアイリンの頬に触れた。そのアナキスに手にアイリンはそっと自分の手を添える。
「そうね・・・海を見ると不思議な気分になるなんて・・・そんなことどうでもいいことだわ。
あたしはあなたとあまり趣味が合うことがなかったけれど、こうして心で同じことを感じれただけで十分・・・」
二人は目の前に広がる果てしない海をもう一度かみ締めるように眺めた。
そして、海を見ると説明できない変な気分になること、二人はそれぞれ、隠していたのだ。
アナキスは男友達に「変な気分?やらしいヤツだな」などとからかわれ、アイリンは「前世でウミガメだったのね」などと勝手な事を言われたりするから。
言ったらへんなヤツだと思われる。二人ともそう思って、二人とも隠していた。
そしてそれを知ったとき、二人は笑った。
 
「あたしたち、出会ったころと同じ。変わってないね」
静かな波の音は、安らぎの象徴のように、いつまでも続いていた。
 
 
END
 
北村様のサイト[515]
のキリ番700をGETして書いて頂いた小説です。
こんな素晴らしい作品を書いていただけるなんて・・・
しかも、展示させていただけるなんて・・・
感激と幸せで一杯です。
ちょっと凸凹フィーリングのアイリンとアナキスが共有する<海の向こうの記憶>
少し切なくて、でも現在の二人を繋げる不思議な感覚。
冬の海の音が静かに聞こえてくるようで何度も読み返しています。
 
北村様、本当に有難うございました。一生の宝物です・・・!
m(_ _)m

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