三姿勢の技術              






C 立射 (クリックすると立射のプロセスの推奨されるパターン動画ページが表示されます) 


C-1 ガイダンス


三姿勢競技において立射は最も重要な種目であることは誰しも異論がないところであろう。立射は技術の完成度の個人差が最も顕著に得点に表れる姿勢であり、メンタル・コントロールの成否が如術に試合結果に反映される。例えば伏射では上位者とその他の競技者との得点差がせいぜい10点程度であるのに対し、立射では30〜40点に及ぶ場合もある。

真似事の姿勢を作るには、人が2本足で行動してきたことを考えると立射はそれほど難しくない。しかし技術そのものを論じた場合、立射で上級の域に達することは3姿勢の中でも困難なほうと思われる。銃は伏射や膝射に比べ高い位置に置かれ、それを支える体も2本の脚だけで床面に触れておりスリングの使用も許されない。銃を保持するために使用される筋肉群や関節の数も多く銃のコントロールに関する物理的要因も数多い。近年のエア・ライフルでは10点が要求され、上級者では100点が求められる。3姿勢競技においては立射の得点は成績を左右する最も大きな要素であり、トレーニングの最重点課目となるであろう。

立射姿勢を考察していく上で最も大きな要素はバランスである。バランスは姿勢の物理的特性を合理的に組み上げていった結果存在する事象であり、合理的な姿勢でなければバランスの概念は発生しない。一方、銃の静止のためにはリラックスが欠かせない。すなわちバランスとリラックスは同一の技術カテゴリーに属する。合理性を全うするのには,実はここは非常に重要なポイントであるが、それらは前提として骨格によって支えられた(ボーンサポートされた)構築物の上での据銃が完成されたあとでのみ成立することを認識しなければならない。骨格で支持された銃は骨格上の位置でほんのわずかな筋力で保持され、その筋力の発揮が一定であれば銃口の高さや方向が変化することはない。ボーンサポートされた銃と姿勢はその重量を骨格に託すことでリラックスが可能になり、リラックスすることにより銃は骨格とごくわずかな筋肉に支えられ、姿勢と銃の構造体はバランスのある位置に移動しようとする。バランスが悪ければ姿勢全体が倒れようとする。

  ボーンサポート+リラックス=バランスによる銃の静止の実現の可能性 

 

我々は姿勢のバランスを追及し、そのバランスの中で最も安定したほんの数秒間の間に照準・撃発・フォロースルーをシーケンシャルなアクションとして実行する。1〜2秒の競技者が感じることができる最も安定した時期では、銃は黒点の中心を指向しておりこの時期の安定度や時間の長さが立射の技術の程度を測る係数である。この係数はその競技者のポテンシャルを決定するが、その意味では銃が安定する時期が作り上げられていない初心者にとって、ポテンシャルは全く形成されておらず、実射トレーニングは無意味である。競技者はこのポテンシャルの最大値を得るために照準や撃発に腐心するが、銃の安定期(レベル差は当然あるがだんだん銃が止まってくる感覚のある時間帯と捉えても良い)がない限りマイナスの技術を学習するおそれが余りにも強い。立射では初心者が闇雲に実射を行っても将来の上達に致命的なマイナス技術=悪癖を身に付けてしまう可能性が高い。

上級者の安定据銃期の銃の動きは標的上の10点圏以内であり、その安定期に銃が向く方向と標的とが一致しているのである。安定期に銃の向く方向が自然狙点であり(実際は面であり方向であるが)自然狙点のある姿勢を作ることが立射トレーニングの第1段階である。

立射姿勢を完成させるうえでバランスを追及してゆく訳だが、現実に据銃を重ねていくと、バランスを保つために有効に使用できる筋肉の緊張を発見できるかもしれない。それらはえてして体重や銃を支えるために使用されている筋肉群ではないかもしれない。首の後ろや右脚などをほんの僅か緊張させる(張りを感じる)ことで銃を良好にコントロールできることを発見できるかもしれない。グリップをやや強く握ることによって銃の動きのスピードを遅くすることに成功している競技者もいる。これらの技術を発見し成功している競技者は内的姿勢の安定に成功している競技者であるといえる。この内的姿勢の練磨が立射のトレーニングの第2段階といえる。しかしながら初心者にあっては、元来リラックス能力、またはリラックスが可能な姿勢が作れていないので全ての筋肉をリラックスするように努めたほうが良い。

立射を始める初心者にとって上級者の姿勢を真似ることは良い方法であるが、人はそれぞれ個別の骨格、体型、体の柔軟性を持っており上級者の姿勢がその競技者個体にとって手本になるとは限らない。初心者は上級者がなぜそのような姿勢を採用しているかの理由を知らなければならないし、コピーするとすれば上級者の内的姿勢をコピーするべきである。他人の内的姿勢をコピーした結果、外から見られる外的姿勢が他人の外的姿勢と異なることは通常であり、ただ外見を真似ただけの姿勢は機能しないと考えても差し支えない。

         

C-2 ボーンサポート


 立射のポジションの導入期にはいかに骨格構造で銃の重量と体重を保持するかという課題に取り組むこととなる。

 骨格で銃を支えるとは左腕が骨盤に接するような骨格構造体を作り、銃の重量が左腕を介して直接的に床に伝わる状態を実現することにある。ボーンサポートは射撃姿勢のもっとも重要な要素で基本的に100点の可能性の大小はこの要素で決定され、競技射撃の技術論もボーンサポートが完成されていることが前提となる。

 ポジショニングや呼吸調整などの射撃プロセスを最終段階での照準-撃発フェーズへの準備作業であると前提付けると、シーズンの完成期においてはポジションに関する技術は自動的に発揮される状況で無ければならない。それゆえ距離的な変化の小さい骨格構造体での銃と体の支持は毎回の据銃に際しての銃口の指向方向の安定のための決定的な要素として認識されなければならない。筋肉の使用が大きいポジションはその日ごとの感性や体調により銃の向く方向が変化し、無意識ではあるが意図的に銃口を標的にあわせてしまい、またその状態を維持することに集中力は浪費され、撃発の時期にはその競技者の持つ集中力や意志力の結果に対するポテンシャルを低下させる。

 導入期にある競技者に対しては特に留意が必要で、それまで経験のない姿勢で銃を構えその状態を維持するという新しい課題に対して、物理学的に銃はどのような方法で保持され、骨格はどのように組み合わされるかを教示する必要がある。どのように銃の重量が骨格に伝達されているかについての『感想』は『内的姿勢』と定義され、内的姿勢は注意力を持ったトレーニングの蓄積で習練されることを考えると、競技者育成の観点からもポジションの基本に対する理解は重要である。また、ビームライフルからの転向者にあっては、銃の重量が増加したことでポジションが変化することは当然であることを教示することも留意点となるが、元来良いポジションでビームライフルをトレーニングしてきた競技者では銃口の高さ調整に視点を置いた骨格調整ですむことが多い。しかしながらタイミング技術主導によりビームライフルで成果を挙げてきた競技者にあって、ボーンサポートによる据銃に対する理解ができないものは将来性に乏しい。

 下図で示されるように銃の重量を受けた左前腕骨は骨盤左頂上付近に接するように置か


れる。このことにより左腕の相当のリラックスにおいても銃はその大部分の重量が骨を使用して保持されることとなる。腕の長さが不足する競技者では、射撃ズボンの着用方法の工夫により肘から伝わる銃の重量の多くを骨盤に伝達できるように工夫する。多くの競技者で左肘と骨盤のコンタクトを確保するため腰を標的方向に突き出し、骨盤の左上がり傾斜を求めるためのスタンスをとる。下半身の形状は一般的には左脚が直立し、右脚は斜め後方に出るような形状になる。左右の脚への荷重バランスはおおむね左7:右3程度の状態であるが、この点の個人差は大きい。また銃を持たない状態での両脚への加重が1:1で左肘が骨盤上に位置する場合は形状的にはそのままで良いが、銃を構えた場合には左足方向に重心点が若干移動するのが一般的である。

一般に右脚側に荷重が多くかかるポジションは左肘と骨盤とのコンタクトが弱く、銃の重量が骨格ではなく脊椎起立筋群(腰の筋肉)で保持されている場合が多い。この場合パーフォーマンス上多くは望めないことに加え、トレーニングによる腰痛の発現率が高く修正すべきである。

骨格で重量をサポートすることがポジション構築の大原則であることを考えると、左肘と骨盤との接点は銃の垂線上にあるのが物理上自然である。また銃を保持する前腕骨は直立気味になり、左手の位置も銃床のトリガーガードに近い位置となる。左手首の関節に関しても直線的に使用し、重量を関節に対し曲がりのない方向で掛けることが原則となる。

ポジション構築の細部については次項に任せるが、ボーンサポートされたポジションでは相当の程度で筋力の使用が抑制される。換言すればリラックスできる前提ができたということが言える。ボーンサポートに成功したポジションでは、骨格構造の上に最小限の力で銃が載せられているので、筋肉の使用量の多少の変化でも大きく銃口の指向方向が変化することはない。すなわち多少のエラーを許容する状態ができることとなる。一方、筋肉の使用が大きいポジションでは常時筋力の調整をし続けることが要求され、総合的なパーフォーマンスはレベルの低いものとならざるを得ない。一例を挙げると、筋力で銃口は止まるが標的にあわせる努力が大きく、撃発直前に集中対象が照準に移った途端銃口が動き始めるといった現象に表れる。

 第3者によるボーンサポートの成否に対するおおまかな検査としては銃の左手の上部に当たる部分に圧力をかけ、固い抵抗感があるかどうかで判断できる。このとき競技者は骨盤か左足の裏に圧力を感じる。サポート状態の悪い場合は第3者の加えた力を脊椎起立筋群や左手首で感じる競技者自身による検査は左上腕の力を増減させても一定の範囲では銃口の上下方向への変化が起こらないこと、あるいは1分程度の長時間据銃では銃口の指向方向の変化が生じないことの確認により行うことができる。また銃の重量が骨格により支持される要素が強ければ強いほど右肩のバットプレートの部分が上方に抜け落ちるという現象は生じない



C-3 バランス


 骨格で重量を支えることに成功すればリラックスの基本要件が整うことになるのだが、重量物(立射の場合銃と頭部)がポジションの中で全身の重心点の垂線上の近くにあることが次の必要要件となる。撃発の直前には多くの正しい技術論で全身のリラックスが求められるが、据銃完成時から照準フェーズに移行する際バランスに問題があると更にリラックスして筋力の働きを低下させると姿勢はバランスのある位置に移動しようとする。前後にバランスがずれているとポジション全体が倒れようとするし、それに抵抗するためには常時筋力調整が求められ、結果銃口の静止が望めなかったり照準に集中が移行した途端銃が動き始めたりする。 バランスに問題ある姿勢では、照準フェーズで更に銃口の静止を求めているにもかかわらず、リラックスを増すことによってポジションや銃口が動くというスパイラルに陥るのである。

 一般にバランスの取れた姿勢では競技者が脚の筋肉の一層のリラックスを実行しても上体が前後に倒れることがない。第3者的視点では上半身が過度な傾きを持たず、想定されるヒップエリアの重心位置に銃身の垂線、頭部の中心の垂線が通過する状態が観察できる。

 両脚の力を抜いて上半身をバランスが保たれた状態で静止させることができれば、次の段階として腹筋並びに背筋(脊椎起立筋群)の一層のリラックスを試みる。バランスが良いポジションではそのとき上半身に何らかの挙動もないはずであり、仮に銃口が下がってくる、左右方向に上下変化を伴って移動する等の変化が観察できるとすると、中級者以上にあっては改善点の模索を始める必要性を意味する。またそうした場合膝の関節の保持に困難を感じるとすればそれはオーバーリラックス状態、もしくは脚への重量の掛け方にも問題を含んだ状態であることを示唆しているかもしれない。

 ポジションのバランスは上級者にあっては銃の体へのセッティングも大きく影響する。例えば写真の競技者の銃の位置が2cm低い場合を想像すると、頭部の傾きは後部から見てより右側に大きくなり、その結果頭部の重量によるモメントがより競技者の前側にかかり体が右側に倒れようとする現象が生じるのではないかと想像できる。50mライフルではエア・ライフルに比べ銃器の調節の自由度が大きくより完璧に近いバランスを得ることが可能であり、50mライフルがより静止を求められる所以でもある。

 近年のトップレベルの一般的傾向としては、実際の競技の際にこのバランス確認の作業に時間を掛けるようになっており、その結果1発にかける時間は従来に比較し若干長くなってきている。もちろん要求精度が100点であることと競技会の多くが標的交換作業の必要のない電子標的で行われている影響は否定できない。



C-4 ポジションの構築


C-4A スタンス

スタンス1  競技者はまず射撃線に対し90度右を向く。いわゆるスクウェアスタンス(1)である。(写真右:スクエアスタンス、メジャーで足幅も確認しているが規則上許されている)スクウェアスタンスは一般的で最も多くの競技者に採用されているがこれを採用するには理由がある。しかしオープンスタンス(2)の上級者も若干ではあるが存在するし、クローズドスタンス(3)も上級者の多くが採用している。従って直ちにスタンスの良否を判定することはできない。導入の際はスクエアスタンスで姿勢を組み上げることは推奨される。




オープンスタンス(2、写真右)は腰椎の捻転が小さく関節の負担は軽減されるがその分筋肉によるコントロール要素が増加し、銃をコントロールするには困難な技術的要素が発生する。体重の多い競技者は他の要素とのバランスにより若干のオープンスタンスで成功する場合もあるし、体の固い初心者や年齢の高い競技者はオープンスタンスでより良い銃のコントロールが得られる場合もある。






一方クローズドスタンスは腰椎に荷重の多くがかかり、捻転も大きく腰の負担も大きいがリラックスしてバランスを追及する場合、バイオメカニックス上はそれほど悪いものではない。若年層の競技者や、体重の少ない競技者では採用の利点がある。(写真左)










スタンスの形状(両足の置き方)は標的側の足を射線(床面の弾道に直角に引かれた線)に平行におき後ろ足も平行に置くのが基本であるが、様々なバリエーションが考えられる。両足を逆ハの字に開く古典的スタンス(4)やそのままオープンにするスタンス(5)は一方的に否定されるべきではないが、一般的には勧められない。

スポーツバイオメカニックス的には合理的でないのがその理由である。初心者の導入段階では(4)のスタンスでもリラックス感が得やすい点でかまわないが時間を追って(1)の形状をテストしてゆく方法も良い。


スタンス2

 左図はスタンスの形状と体の重心の移動可能(バランスエラーの起こる可能性)範囲を網掛けの楕円で示したものである。各自スタンスを取り伸脚の状態で軽く腰を回転させる実験をして体で確認してもらえばよいのだが、肩幅よりやや広めの平行スタンス(a)では両足の幅の中で重心は細長い楕円の範囲で移動する。肩幅より狭いスタンス(b)では重心の移動範囲の形状は円に近くなり、両足の外までその範囲は広がる。ハの字スタンス(c)では平行スタンス(a)より前後方向に大きな楕円を描く。これらは各個人の股関節とハムストリング周りの柔軟性によりその運動形態(可能範囲)が決められる。論理的に言えば当然(a)が良いのであるが、そのためには初心者の中にはストレッチングで体を作っていかなければならない者もいるであろう。逆に(c)のスタンスの競技者にとって、太ももの裏側の張りを利用してスタンス(a)を採用することにより体のスェー(前後の流れ)を減少させることができる可能性がある。

これから姿勢を作る導入期の競技者には第一義的に平行スタンス(a)から始めることを推奨する。もしその人が30歳後半以降の人であればほんの少しだが腰椎にかかる負担の軽減を期待して(c)からの導入が無難であろう。

かつて言われていたスタンスの基本は肩幅というのは無視してよい。肩幅が良くないという意味ではなく肩幅に決める根拠がないということである。立射の姿勢つくりの主題は骨格によるサポート(ボーンサポート)の達成であり、その結果としてスタンスの幅は勿論肩幅の場合もある。同様に左右の足にかかる荷重の配分も基本的に無視してよい。旧来の競技者が指導を受けた5:5の基本重量配分は筋肉の使用を前提としたコントロールが念頭におかれている。我々が現在目指す立射姿勢は体重と銃の重量をなるべく筋肉を使わずに支えることが目標であり、骨と骨のコンタクトを意識した構築物の完成がその主眼である。スタンスの幅の話はむしろ最後に考えるべきことである。

 実際の多くの上級競技者の荷重配分は7(前):3(後)程度であるが、この数値もまた無視してよい。しかし後ろ足(右脚)に荷重の多くがかかる場合おそらくその姿勢はボーンサポートが達成されていないと思われる。1985年以降の固いコートの普及で立射姿勢に対する概念はそれ以前と全く変わっており、古い本はぜひ捨て去ってもらいたい。

足の裏の前後の荷重は足の裏全体が床面に吸い付くようにかける。前に荷重がかかるとすねの筋肉が緊張し、かかとにかかるとふくらはぎの筋肉が緊張する。どちらの筋肉も緊張しない前後荷重費が原則である。前後荷重比率は上体の構造によって変化するので荷重調整はほとんどの場合腰から上の姿勢調整で行う。


C-4B 下半身


 両脚はまっすぐ伸ばす。銃と体の重量は、感覚的には筋肉の助けなしで膝を通過してまっすぐ足の裏へと抜けてゆく。膝は曲がっても、突っ張るようにロックしても姿勢のスタミナ、コントロール能力ともに不合格である。手を後ろに組み普通にリラックスした状態で立つのが良い。


平行スタンスを前提にすれば、腰は標的側にほんの少し捻るが、両脚を使用して捻るのではなく、上半身に銃の荷重を受けた結果捻られる状態である。 天井から見れば銃を構えた両肩のラインとスタンスの両足のラインの中間の角度で腰のラインが引かれる程度である。腰を開かないようにという意識が過度にあったり、或いは腰をスタンスのラインと無理やり一致させようとしたりするのは体側や脊椎起立筋を緊張させるので良くない。初心者の場合腰が開きすぎて状態がふらふらになる場合が多いので、導入時は腰のラインを射撃線に対して直角に近くセットしても良いが、最終的にはそれではリラックスできない。



腰傾斜腰は骨盤をやや標的側に突き出し骨盤のラインを左上がりに傾斜させる。その結果骨盤の標的側のトップの位置が上がる。標的側の脚は直立気味で後ろ足には傾斜がつく。両足の荷重は標的側の足により多くの重量がかかる。重心はスタンスの標的側に移動し、前足のすぐ内側に位置するであろう。このいびつな立ち方が現在の標準である。





C-4C 上体


バランス上体は銃の荷重の垂線を骨盤上に位置させるため後方に反り、銃を標的方向に向けるべく左に捻る。反る量は体と銃の重心が骨盤の中心を通るラインと一致するまでである。(C-2バランス参照)反りが小さくて銃から下ろした垂線が体の前を通過する姿勢では体は前方に引っ張られリラックスすると足のつま先に力が入り銃は安定しない。反りが大きすぎると上体はリラックスすれば後ろに倒れようとする。これらはリラックスした際の姿勢のもつ動きの源、すなわちバランスを決定するので慎重にセットする。標的の側から姿勢を観察すると良い姿勢では銃の重心と体の重心がほぼ同一直線上に位置し、銃の荷重そのものが銃を体の重心にむかって沈み込ませる感覚を得るはずである。





銃を支える左腕は骨盤に直接左肘が接するように体側に置かれる。左前腕には左手首を通して銃の重量がかかりその重量は骨盤から左脚へと抜けてゆく。左手で銃の左右方向を調節するような作為的行為はしない。左肘の骨盤上での位置によっては銃の方向が左右に変化するが、銃の方向を規制することによって肘と骨盤のコンタクトが崩れてはならない。左肘の位置は銃の真下近くに位置させる。細い体型の競技者は可能であるが、一般競技者には捻りが大きくなるのでなるべく銃の下に持ってくると言ったほうが良いかもしれないが、トップレベルで銃の真下近くの範囲を逸脱して立射を構えるものはいない。左肘が骨盤に届かない競技者はコート内側の射撃ズボン・ベルト・下着のたるみを利用してなるべく肘を託すようにして、左上腕の筋肉の使用を避ける。エア・ライフルで女性のほうが初期に獲得する点数が男性に比べて高いのは骨格構造のうち、左肘と骨盤トップとの距離が近いことが理由である。この距離は基本的に上体のそりの角度を決定する。固いコートの使用で体型的に不利な競技者でもこの問題の大部分は解決できる。左腕の角度についてはルールの許す限り垂直に近い方が物理的に合理的である。(左写真=中国選手の左腕の使用については垂直に近づけるようなコンセンサスがあるように思える)



銃に直接触れる左手の使用には様々な方法があるが、銃の高さを標的にあわせることと荷重をまっすぐに肘に伝えることをその条件にしなければならない。左手首の直線的使用はこの条件を満たすことを可能にする。手首が折れている(写真右)と必ずそこには高さを筋肉の使用によって調整することが行われ、時間経過とともに銃の位置が低くなり、体の別の部分でそれを補正する必要がでてくる。換言すれば姿勢が変化するということである。

左肩と左肘、左腕の構成体は完全にリラックスしていなければならない。撃発時の銃の動きに変化を与えるのが左腕の構成体であり、銃の静止に向けての最大の技術的課題が左腕である。トレーニングの初期段階ではこの左腕のリラックス度を銃が落ちる寸前程度まで脱力できることに重点を置かなければならないであろう。

右肩は自然にリラックスした状態で、故意に肘を上げたり下げたり、また肩そのものを上げたり下げたりすることはない。バットプレートは立射では腕の付け根に位置する。伏射のように鎖骨に当てることを意識することは必要ない。鎖骨は弾道線に対し余りにも急角度で配置されるのでそこにバットプレートを当てることは困難であるし、位置エラーを起こすと銃本体が前後してコントロールが困難になる。勿論バットプレートを内側に位置させてその一部が鎖骨に触れたとしても問題はない。銃をさらに内側に位置させたい場合はバットプレートの調整で銃を内側に平行移動させる。エア・ライフルのバットプレートの左右調整は中心線から15mmまで許可されている。50mライフルでは制限がない。銃の保持に関しては、エア・ライフルの場合はバットプレートの底面の摩擦力を利用するが、50mライフルではフックの引っ掛かりを利用する。50mライフルの立射ではバットプレートの形状に優先してフックの形状を研究しなければならない。(C-4参照)

グリップは手のひら全体を銃に当てて握る。エア・ライフルでは50mライフルよりやや圧力が大きいかもしれない。初心者はコップの水を持ち上げる程度以上、1リットルの水を持ち上げる程度以下の力の入れ具合から自分が最も安定して握れる圧力を選択すると良い。手首を前方に回し気味でないと上手く握れない感覚の場合、引き金とグリップの距離が遠いかストックが長すぎることを示唆している。良い長さのストックでグリップした場合、右前腕と手首のラインはほぼ一直線を形成し、空中にありながらも右肘が固定された感覚が出る。長さのあっていないストックでグリップの悩みを解決しようとすることには無理がある。(C-5A参照)



頭部は垂直からやや前傾するのが通常である。目の能力の維持、水平感覚の効率から左右方向に頭部が傾くことには問題を含む。頭を右に傾けなければサイトが覗けない競技者は銃を左に傾ける。一流競技者の多くは銃を傾けて使用しており、傾けることにより頭部の適正な保持と重心の位置調整を行っている。頭部をやや前に傾けて首の後ろに僅かな緊張感を得て姿勢を安定させることは差し支えない。極端な前傾によるものは問題外であるが上目使いの照準は正常である。(B-4参照)


C-5 ポジションの洗練(C-4の追記)


C-5A バットプレートと肩づけ

立射姿勢の動作の第1歩はバットプレートを肩づけすることである。肩づけといってもバットプレートの当たる位置は腕の付け根であり、特にフリーライフルではバットプレートが鎖骨に当たることはない。銃が顔から遠くもう少し内側に入れたい場合はバットプレートベースからバットプレートを外側に平行移動するか銃を左に傾ける。エア・ライフルでも平行移動は15mmまで許されており、銃を左側に傾けることは正常である。銃を水平に構えたい場合もバットプレートの角度調整で対応するがエア・ライフルではバットプレート後部から見て回転方向の調整は禁止されている。





50mライフルのフックは肩づけの上下位置を一定にするだけではなく、銃の保持にも大きな役割を担う。左手より前方の銃口が下に落ちるモメントをフックで脇の下に引っ掛けて据銃するが、その際バットプレートの底面の下部が肩から離れないように注意する。フックの角度や形状が悪いとバットプレートの底面が肩から前方へ外れようとしてしまう。銃の動きを止めるためフックバットプレートの底面を肩に密着させても良いがその密着度もフックの角度の調整により実行するのが第一義である。一般にフックは脇の下に沿うように銃腔軸線から体側に曲げられてセットされる。写真の例ではフックの形状の要素だけで考えれば、左の調整はバットプレートの底面が右の調整より腕の付け根に密着する。バットプレートの上部を大きな角度を持って調整して肩に強く当てること、腕の付け根でバットプレートやフックを挟むような調整は反動の一定化が困難であり推奨できない。少なくとも上級のレベルに到達するまでは避けたほうが良い。上級者ではフックを意図的に直線的あるいは外側方向に調整し腕に当てる場合も考えられるが、中級者以下には体の各部位の安定が重要であるので脇の下にそって角度調整することが勧められる。

エア・ライフルの肩づけはバットプレートと肩との接触面積をできるだけ大きくとり銃の重さによるスリップを防ぐ。カーブの調整できるアルミバットプレートの使用は推奨される。調整はバットプレートを銃から取り外し、バットプレートのみを肩に当てて角度を決めるとやりやすい。バットプレートが等圧に肩付けされたときの銃が出てゆく方向の確認も可能でそこから重量による銃の先端の落下を勘案すればバットプレート底面の据銃時の圧力配分が理解できる。

バットプレートとチークピースの関係は、肩の位置と目の位置の距離(体格)により決定され、常に一定でなければない。エア・ライフルで据銃中にバットプレートがずれる不満はよく聞くことであるが、その解決にはポジションによる銃のボーンサポートの良否にかかわることが多く、バットプレートの形状のみの調整で解決することの方が少ない。据銃の第一段階に置かれるバットプレートの位置は銃の方向を絶対的に決めてしまうので、バットプレートの肩への位置決めは慎重に実施する。バットプレートの上下調整による自然狙点の変化は理論的にはバットプレート上下1に対し標的上で20倍程度の移動があるので、試射で調整が完成した後の競技中の銃の上下調整はスタンスか左手のポジションで実施し、バットプレートは第3の手段と考えるほうが良い。なお黒点の中での銃口の上下調整はバットプレートをミリ単位で調整しても良いかもしれないが、腰の前後による銃口の高さ調整は行ってはならない。また競技を進行していく中で銃口がわずかに下がっていくことがあっても、リラックスを前提にポジションを構築している限り、関節の縮みを考えるとありうることで受容すべき事実である。


C5-B チークピースと頬付け


立射での頬付けは据銃の最終段階であり、射撃に対する最終集中が始まる時点でもある。据銃作業中、銃を上方に持ち上げた際に肩づけに引き続いて、銃が前上方に向いた状態のまますぐに頬付けを行う初心者やクレーからの転向者を時折見かけるがこれは誤りである。銃を持ち上げた状態と水平に位置させた据銃中の状態ではチークピースの角度が異なり、毎回一定した頬付けを期待することはできない。また肩づけにエラーがあったとしても最後の段階に頬付けがあればそこで気づく可能性が高く有利である。

頬付けは基本的に頭の重量が首をリラックスした際下方に働く荷重、いわゆる頭の重さをチークピースに託すものであり、その強さは軽く頬杖をついた程度が標準であるが、眼球付近に圧力を及ぼさない程度に意図的に強くするのは差し支えない。頭の重量はそれを完全に託すものではない。左右に頭部が傾くと、バランスの問題以外に、その頭部の保持のために首が緊張するのでそういう競技者は改善を目指す。頬とチークピースの接点はあごの骨か頬骨を利用し常に一定になるように感覚を養う。

サイトを覗くと頬付けが浮いてしまうような際はチークピースを上げるか形状を大きくする。ハイサイトブロックを使用してこのような状態が生じる場合はハイサイトブロックを取り外す。頭を極端に前傾させなければサイトが覗けない場合はチークピースを上げハイサイトブロックを使用する。目の小さい競技者は前傾により照準映像の下部が欠ける場合があるが、そのような場合頭部を直立させるようなセッティングを試してみる。

ある程度姿勢が固まっている中級者以上では、エア・ライフルではマイクロサイトを取り外して実射し、標的上に弾痕があるようにチークピースを調整する。チークピースが高すぎれば上方に、低すぎれば下方に、厚すぎると左に、薄すぎると右に弾は外れる。チークピースを調整してなるべく多くの弾が標的に入るように調整する。このことによりサイトラインと照準眼のアライメントを調整する。初心者はチークピースにマークをつけて頬付けの一定化を図っても良いがすぐにマークは必要なくなるであろう。この検査は屋外のエア・ライフルが撃てる射場でなければできないが、赤外線射撃訓練装置があればそれを使用する。

頬付けを完了した後の頭部の形状については直立を含め斜め前向15度程度の前傾は正常であるが、(下写真)後部から見て明らかに右に傾斜している場合は銃の高さをあげるか銃の位置を体に近い位置にして、頬付けする場合右目の下部5-6時方向にピープがあるようにポジションを調整する。第3者の観察上では、サイトを覗く眼球の水晶体にまぶたが重なっていないか確認する。眼球の黒目がほんの一部まぶたに隠れる程度を超えての頭部の前傾・右傾は修正する必要がある。 下写真の例では左から順に首の後部にテンションを感じる度合いが減少するが左側4例はいずれも採用できるものである。


     



C-5C グリップ(右手)


グリップは人差し指が最もスムーズに運動するようににぎる。特にフリーライフルではグリップの圧力で銃口の方向をコントロールしてはならないし、エア・ライフルにおいてもボーンサポートの要素が高ければグリップによる銃のホールド作業は著しく減少する。

基本的には人差し指がスムーズに運動するグリップが良いのであるが、そのためにはグリップと引き金のブレードまでの距離が重要である。その距離は充分近くなければならない。またグリップのエラーが生じても銃の指向に変化を与える量が少ない握り方を模索する。銃を標的に向け、そのまま握力を徐々に抜いたり増加したりさせて銃口の位置が変化しない右手の使い方を習得する。

グリップにかかる右手の角度を決定する右腕の使い方は、リラックスした右肩の延長としてぶら下がり、それがジャケットで支えられている状態が標準的である。意図的にあげたり下げたりする理由はない。そうしないとバットプレートが外れそうになる場合はポジション全体から改良しなければならない可能性が大きい。このような腕の使い方を保証するのはバットプレートからグリップまでの長さであり、また右腕の高さはジャケットの裁断に依存する。

加圧グラフ初心者には遊びから充分絞りを加えた撃発(左図上)を推奨するが、ある程度銃の動きが安定してくると、上級者の立射ではダイレクトトリガー(左図下)の使用も考えられる。ダイレクトトリガーで引く場合は引き金ブレードの位置については遊びを入れた場合の位置より若干後方に移動させたほうが良い。(もちろん引き絞りとの比較の上で決断良く撃発ができる方法を模索する必要はある)ダイレクトトリガーは1990年代にヨーロッパで流行したが、要求得点の向上から衰退傾向にあり、個人的には若年競技者がビームライフルから移行する際に必要であれば絞りを加えたコントロールに変更することを推奨する。





C-6 立射 実射


C-6A 実射練習に際しての留意点


            競技者育成の観点から弾丸を出しても仕方の無い据銃レベル(80点停滞レベルの動画)

            現在のナショナルチームレベルの据銃能力50m(動画)


立射のトレーニングに関してコントロールすべき体の部位は非常に多い。初心者は全ての個所が問題であろうが、「多くの個所には気が回らない」という不安は元来論理的でない。なぜなら人は同時に2つ以上の事柄に集中できるようにはできていないからである。トレーニングとは段階を経て気を配る必要のある個所を減らしてゆくことで、最終的に集中すべき個所は照準映像1ヵ所になる。逆に最初から照準映像にのみに集中し続けていると技術進歩は停滞してしまうのであるが多くの競技者はそのような過ちに陥ってしまうのが実情である。

立射のポジションを作る段階では脚・腰・腕・頭と体の各部位の合理的な使用について考察しながらトレーニングを行うが、その段階は潜在意識(運動領野)に感覚を覚えさせている段階であり、理想的には実射を行ってはならない。レベルは低くとも頭でコントロールすべき体の部位は1ヶ月程度の据銃練習で数箇所に減るであろうし、少なくともそういう状態でなければ実射トレーニングは技術的に有害であると言わざるを得ない。どうしても撃ちたい場合は白紙標的でトリガータイミングを学習するか、依託射撃で照準感覚を養う。例えば膝をまっすぐにしなければと頭で注意しなければならない段階で黒点を撃つ事は愚かなトレーニング方法であり、マイナスの技術を数多く習得してしまう。その時期でのトレーニングでは空撃ちを実施する際も標的は不要である。この段階では精密照準を伴うノプテルやスキャットを使用してのトレーニングも勧められないが、技術の進捗状況の確認のための若干の時間帯での使用は推奨される。

初心者では少なくとも体のチェックポイントが3箇所程度以下になるまで据銃練習を継続することを勧める。3箇所程度以下だとそれぞれを点検しながら据銃行為を実行することが可能になるからである。実射に際しては毎回同じ所をチェックしながら実射を行う。例えば足・腰・左手・右肩・頬付けという順で動作をしながら感覚を確認し、最後の確認ができる頃には照準の準備が整っているといったパターンを自動化する。最後まで集中対象の移行がスムーズに行えない場合は据銃を中止し最初からやり直す。このことは確実な技術習得、射撃リズムの習得、メンタルトレーニングの全てに対し肯定的効果が期待できる。

射撃は基本的にはいかに体の動きを止められるかを競う競技である。当然であるが撃発と撃発の間の動きもなるべく小さくするほうが有利である。立射スタンドの使用は推奨されるが、机の上に更に台を置きその上に銃を載せて据銃の際の体の動きを小さくすることも可能である。初心者やシーズン初期のトレーニングでは体の隅々に各アクションの際の筋感覚を覚えさせる必要がありむしろ立射スタンドは不要であるが、いずれすぐに必要になる。動きを小さくすることはコートのずれなども最小に抑えようとすることでそのためには動作のスピードもゆっくりとして同一のパターンのものを形成する。スコープを覗くために姿勢が崩れてしまうスタンス位置などは問題外である。スコープはなるべく体の近くに置き、姿勢が崩れればスコープに当たる程度にしておけば一つ姿勢のインディケーターが増えたのと同然で技術的な有利性も出てくる。フリーランド型のスタンドの縦棒を左眼の視界に入れておく方法もある。据銃動作の終盤の銃を体に載せる段階(マウンティング)では銃が空間の照準位置に真上から下がってくるように気をつける。

 実射トレーニングの第1歩は姿勢のもつ自然狙点(面・方向)を標的に一致させることである。立射の自然狙点は上級者でも標的紙程度の広さがあり、初心者ではリラックスした状態で銃口の向く方向をなるべく標的に近づけるように考える。どのレベルでも姿勢がボーンサポートされていれば上下方向の誤差は左右方向に比べ50%以下であろう。グルーピングの傾向は右図上のパターンを示す。そうでなければ姿勢そのものに欠陥があるといえる。右図下のような360度方向に広がったグルーピング傾向を示す場合はポジションそのもの、とりわけボーンサポートの品質に問題が予測される。中級者以下では完全な自然狙点を探そうと過度に神経質になる必要はない。完全な自然狙点にこだわり毎回セッティングを動かしたりしては上達の障害になりかねない。立射では銃を10点に方向付ける段階では原則として体全体で銃をコントロールしており、体の一部分を使用して銃を方向付けることはない。感覚として完全にリラックスされた姿勢は、銃の動きのコントロールを得ることを目的としており、そのコントロール下で銃の動きが最も小さくなった時に10点付近に銃が位置されるように姿勢の自然狙点を標的に合わせる。ボーンサポートされた姿勢でリラックスすればバランスが均衡するところで銃は必ず落ち着いた動きをする。その動きの中で銃口のコントロールは最も効果的になるのである。リラックスした状態では銃口が上下にそれてしまう姿勢はボーンサポートされていない姿勢である。また、リラックスした状態では立っていられない姿勢(大部分の競技者はそうである)はバランスオフした姿勢であり、その姿勢には自然狙点は存在しない。

銃口の左右方向のずれはスタンスの回転でそれを調整する。スタンスの方向調節以外に銃の左右方向を調整する方法は存在しない。エア・ライフルでは左肘の位置を左右に調整することで銃口の方向が変化するが、これは姿勢を変更しているのであって方向を調整しているのではなく、左右方向の調整としては採用しがたい。また左腕の力加減で左右の方向を決めるのはもっと大きな誤りである。

上下方向はフリーライフルではバットプレートの上下調整が可能である。この場合チークピースの上下調整も同時に行う必要がある。エア・ライフルでは一般には左手とスタンスの位置をほんの少し前後させて銃の上下方向づけを行う。左手の位置をストックの手前側に移動させると銃口が上がるが、その調整範囲はせいぜい1〜2cm程度であろう。それより大きな上下調整はスタンスで行う。スタンスの広さの調整はその姿勢の重心の置かれる位置により上下の移動方向が異なるので個別的に実験してみる。

フリーライフルの付属品を調整する原則は1回に1つだけ動かすということである。初心者ではたとえ多少の不快感があったとしても付属品の調整は極力少なくしたほうが良い。毎回同じ姿勢が作れない状態ではパームレスト(フォアエンドレイザー)の微調整など意味を持たない。まず毎回同じことを繰り返す技術を身に付けることが先決である。特に不合理な銃のセッティングを修正する場合を除いて、初心者に微調整は無用である。


Naran Gagan(IND)エア・ライフル据銃プロセス(マウンティングの動画)


C-6B 中級者以上へのアドバイス


上級競技者の多くに共通する事柄の一つに射撃テンポの速さが上げられる。勿論全員が早いテンポで射撃を行っているわけではなくむしろ近年ではゆっくりと慎重に射撃をするスタイルが増加しているが、早い射撃を遂行する能力は一流競技者になるための条件の一つである。テンポ射撃を行える能力には次の2点に優位性を持つ。

まず競技の中で好調な時期に遅い射撃に比較して数多くの10点を獲得することが可能になる。このことはインドアのエア・ライフルはとりわけ重要であり、ポンプ式が駆逐され圧縮空気式に変化した理由のひとつでもある。また単位時間内に数多くの据銃が可能になり、その中からよりよい据銃状態を選択できる。立射40発で、50回のトライの中から40発撃発する場合と、60回のトライの中から40発選択する場合ではおのずと10点の取れる数は後者のほうが多くなるのが自然である。勿論好調な場合は40回のトライ全てで発射しても何の不都合もない。むやみに射撃を中断することは勧められないが、決断を一据銃のなかの早期に行い数多くのチャンスの中から実行機会を選択するのは攻撃的な作戦の一つであり、中級以上の競技者にあっては正しい射撃方法である。かつてのオリンピックチャンピオン、ジョン・ライター(USA)は立射をいつも20分で終了していたが現在の用具ではもっとはやく終わるかもしれない。

次の利点は、屋外での風の中での実射の際、自分の選択したコンディションの中でより多くの弾を発射できる点である。50mライフルでは、特に一流になるには絶対条件である。少なくとも2分間に5発以上ほぼ完璧な(勿論そのなかには失敗もあるであろうが)撃発ができる能力を身につけたい。読み様のない強風時では完璧な射撃を行うために1発に1分以上かけるよりは同じコンディションを選択し、なるべく早くほぼ完璧な撃発に心がけたほうが10点を取る確立ははるかに高いのである。

特異な条件下では、完璧を捨てて特殊な作戦を取らざるを得ない場合もある。体に強い風が当たるような日は、全身のリラックスに注意を払いつつ両脚やグリップを故意に緊張させなければならないであろう。また左手の保持位置を前方に移動させたり、ストックを伸ばしたりすることも有効である。撃発は荒くとも積極性を重視すべきで、ダイレクトトリガーの競技者はこういった状況のときも有利である。このような状況下では9点でも満足すべき場合もある。

氷点下に気温が下がるような場合は速く撃つ。体の感覚が正常な間に撃ち終えてしまう。指先の体温が下がると感覚の麻痺が生じるので手は温めながら射撃するが、繊細な絞込みはある程度犠牲にする覚悟は必要かつ正しい判断である。本射の途中で震えがきたら直ちに中止して暖をとり再開したほうが好結果を生む場合が多い。ほとんどの競技者にはそういった決断力は無く愚痴をこぼすだけであるので、自分の能力を信じ、そういった決断ができること自体を自分の自信としなければならない。

中級者と上級者の技術的な差異は、いかに毎回同じことが自動化された技術の発揮として繰り返せるかという点の優劣であり、上級者は良い撃発が保証されない据銃の際に自動的にそれを中止しているところである。しかもその際「銃をおろす」という言語的命令は下していないのである。この命令は多分に感覚的要素を含み、この感覚を身につけるには10点を撃ったときの復習を必ず行うトレーニングが必要である。10点を撃ったときの筋肉感覚、心の状態、撃発の状態を10点を撃つたびに復習する。バイオフィードバックの自発的活用であり、この実行によりリハーサルなどのイメージトレーニングの効果的実行が可能になる。ほとんどの中級者は進歩が止まっているのが実情でありそれゆえ中級者と認定されるのであるが、上級者へと抜け出すためには普通の競技者よりほんの少しの面倒を覚悟しなければならない



C-7 トレーニング構想


立射をトレーニングする場合、まず何をトレーニングするのか明確にしなければならない。とりわけ立射はコントロールする部位が多いので他の姿勢に比べてこの点は重要である。競技者は自分のトレーニングプランを作成する上で、トレーニングする内容をしっかり把握し、具体的方法を組み合わせる工夫を凝らす必要がある。

 

立射のトレーニングについて段階を追って分類すると次のようになる。


A       外的姿勢作り
B       内的姿勢の学習
C       トリガータイミング

各トレーニングの基本的取り組み方について解説してみる。


C-7A 外的姿勢作り


 いわゆる姿勢作りであるが、立射の場合マイナーな変更は常に要求されるかもしれない。それは競技者の体の状態に日々相違があり、マイナーな調整により最良の状態を再現する必要性が立射では他の姿勢に比較してより多く求められるからである。しかし初心者ではそれに対応する能力ができていないので暫くは一度決めた姿勢を体に記憶させることを主眼としてもらいたい。

初心者にとって姿勢作りは他人のフォームをまねることに始まる。姿勢の組み立てはコーチの仕事であるが、指導者のいない人は基礎理論を十分理解したうえで全身が映る鏡を利用すればよい。初期段階ではスタンスを紙に記し毎回同じスタンスがとれるようにする。また鏡に映った姿を毎回メモにとる。注意点は体全体の反りと捻りの量、左腕の位置、バッとプレートの肩への位置、頭部の保持状況などであるが、それらについて鏡を利用して外的に検査する。勿論、同時にそのときの筋肉感覚なども記録し、将来の資料とする。

この段階では各動作そのものを頭でチェックしながら行わなければならないが(意識的動作)、そのチェックすることが基本動作の学習であり、その情報をもとに技術(潜在意識的動作)を作り上げていく過程である。初心者の姿勢作りではかなりの部分を外見からその良否を判断しなければならないが、丁寧なチェックと修正の繰り返しでそれほど時間を要することなく外的に姿勢を判断する必要はなくなるであろう。

姿勢作りでチェックすべきところを確認すると

a; スタンス
   その形状と両足の幅(紙などに書いて一定化を図る)

b; 腰の状態
   前後位置で変化する両足の間にある重心の位置(主観でよい)
   回転(捻り)の量

c; 左手
   左肘の骨盤上の位置・手首にかかる重さの方向

d; 右手・右肩
   バットプレートの位置・右肩のリラックス度・グリップの状態

e; 頭
   頭部の傾き・チークピースの圧力・眼の使い方


C-7B   内的姿勢の学習


内的姿勢の学習は姿勢を作るトレーニングのなかで量的に、また時間的に大部分を占める段階である。上級者においては据銃練習がすなわち内的姿勢の確認・洗練を意味する。内的姿勢の学習は、初期段階では自分の決定した姿勢を体に覚えこませることであり、目標は数箇所のチェックを行うことにより常に一定の姿勢を作り出せる能力を身に付けることである。中級者以上では優れたバランス感覚を養い、銃の動きを自らのコントロール下に置くことが目標である。銃の動きをある程度コントロールできるようになるか、それを予測できるようになるまでトレーニングの中心課題はこの内的姿勢の洗練になる。その予測は最終的には潜在意識のアクション=技術として実施され、銃と体の静止技術へと発展する。

 初心者やシーズン始めの時期は、内的姿勢のトレーニングが姿勢のスタミナ作りの要素も含むものとなる。射撃の専門体力は銃を持たずしては養成しようもなく、ある時期には長時間据銃も必要になってくる。長時間据銃とは具体的には発射に必要な据銃時間の2倍程度の時間の据銃を繰り返し行うことを意味する。長時間据銃のなかで発射のタイミング以後の時間はテクニカルなことを試行してはならない。あくまでも筋肉感覚とバランスに集中し感覚が不明瞭になったりコントロールできなくなったりしたら据銃を中止する。5分間や10分間といった連続据銃はあきらかに無理やり我慢してポジションを保つことであり、立射には技術的に有害で、スタミナ作りの要素を天秤にかけてもこのトレーニングの存在理由はない。トレーニングの目的はバランスのとれた姿勢のスタミナ作りであり、数分以上にわたる据銃は競技者にとって腰痛障害の原因にもなるので基本的には排除したい。仮に筋力の不足があるとすれば筋力トレーニングを実施すべきである。誤解を生じるかもしれないが起き上がり腹筋運動の回数で表現して最低100回程度の筋スタミナは獲得しておきたい。

内的姿勢の学習期間は初心者にとってはそれ以後の上達を左右する時点である。この時期は意識的に感覚を身に付けようとすることがトレーニングのもっとも基礎的な取り組み姿勢であることを今一度確認しなければならない。この時期の初期段階に標的にむかって10点を狙うことを行ってはならない。この時期の実射や空撃ちの目標は、銃が最も良くコントロールされた時期に撃発に至れる能力を身に付けることであり、直径0.5mmの10点はこの時期には小さすぎる。どうしても黒点を撃ちたい場合は10点或いは9点まで塗りつぶすか,7点圏までくりぬいた標的を使用するなど(レベル射撃)、着弾でパーフォーマンスを評価できないようにして行う。トレーニングの目標は採点ではなく姿勢のバランスを得ることであり、自分の予測の中で銃の動きをコントロールすることにあるのである。

内的姿勢の良否の判断は初期には、非科学的に思えるが、自己のフィーリングにより行う。そのフィーリングは日によって異なるかもしれない。この非科学的な評価を少しでも科学的に整理するためには射撃ノートを利用する。うまくいっている時の筋肉感覚をできるだけ具体的に記述しておく。調子の悪い日は過去の記述に近づくように努力する。内的姿勢の良否は数字には表れないだけにトレーニングには若干の知的作業をともなうであろう。上級者にあってはアウトプット、すなわち銃の静止状況で判断できるであろう。このレベルでのノプテルやスキャットの使用効果は期待するところが大である。これは上級者があらゆる部分で毎回の動作を一定にでき得ることを条件に判断している。

内的姿勢の学習段階でチェックすべきところを確認してみる。

a; スタンス・下半身
  両脚の筋肉感覚・足の裏の荷重・重心の位置・体全体の緩やかなゆれの発生源の調査 

b; 腰の捻り
   背筋の緊張度・脊椎の反り

 c; 左手
   上腕のリラックス・銃の荷重の手首から骨盤への伝達

 d; 右手・右肩
   右手・右肩のリラックス、グリップの位置と圧力

 e; 頭
   首の後ろのリラックス度・チークピースの圧力とその方向


C-7C トリガータイミング


引き金のトレーニングは本来であると内的姿勢のトレーニングに含まれるものであるが、初心者では計画の中盤以降に追加すべき課題である。

引き金の引き方そのもの単体でのトレーニングはほぼ無意味と同等であり、引き金のトレーニングとは標的内でのトリガータイミングのトレーニングを意味する。引き金の引き方が悪いと感じた場合のほとんどのケースでは、引き方に問題があるのではなく、銃の動きのコントロールに問題がある。したがって、引き金のトレーニングそのものを独立して考えるのはあまり良い考えとはいえない。

トリガータイミングは心理的要素にも大きく左右される技術要素であるが、初心者のトレーニングではできるだけ心理的要因を取り除いた易しい状況を創造する。即ち初期には標的・目標物を設定することなく、銃が最も良くコントロールされている間に撃発を完了できるようにトレーニングを進める。時を経て徐々に目標を定めて撃発を行っていくが、引き金を引く行為は頭で考えることなく行う潜在意識(技術)による動作であり、トリガーに対する命令は照準映像による条件反射としなければならない。確認すべきことは、照準動作に引き続いて引き金動作があるのではなく、照準映像が自動的に引き金命令を司れるよう自動化しなくてはならない点である。伏射では撃発に集中して射撃を行うことは可能であるが、一般の立射ではトリガーに集中することは誤りである。

上級者になると様相が一変する場合がある。照準フェーズの後半で銃口の指向する範囲が10点圏内部で推移するようになった場合である。下図は現在の上級者のエア・ライフルでの据銃状態の例であるが、標的上の銃口の動きを示すラインは撃発前4秒間を表示している。この例では少なくとも競技者が4秒以上10点圏内で銃口を保持する能力を身につけており、“銃が最も良くコントロールされている間に撃発を完了できるようにトレーニングを進める”トレーニング思想は誤りと断定できる。(実際この競技者は撃発前3秒間のデータの60発の総計で、9点圏内に総統計時間180秒中銃口を100%向けている。10点圏では93%の時間銃口を置くことに成功している、ちなみにこの競技者はナショナルチームに在籍することはなかった)



多くの上級者にとって数秒以上の時間単位で銃口を10点圏に留めさせることは現在では普通のこととなっている。この状況下ではタイミングを計ってトリガリングする(照準映像がトリガリングする)必要はないし、100点を獲得するにはむしろ照準の安定という最も不確定な要素を除去でした撃発理念を確立ことが成功率を高める方法だと考えられる。すなわち意図的に撃発しても良いレベルにあると考えられ、最終段階ではスムーズな撃発が正確な照準より更に重要な技術目標となることを意味する。指導者や競技者の理念にもよるが、銃のコントロール状態の劇的向上は撃発理念の変化をもたらすことも思考の中に含まれるべきものである。

 引き金を引く行為は射撃の中で最も容易な技術範疇に属する。引き金に問題があるとすればほとんどの場合引き金以外の部分に問題があり、ただ白紙練習をすれば解決すると判断するのは誤りである。

トリガータイミングは最終照準段階で銃が最初に10点の方向に落ち着いたときに撃発が完了していることが理想であるが、トレーニングではこの条件反射を自動化させることを目標にする。勿論10点の方向と表現しても競技者のレベルによって、実際は7点圏内であったりセンター圏であったりする。それぞれのレベルで“良し”の範囲の照準映像が撃発命令になることをイメージしながら実際の技術に育て上げる。“良し”のイメージを競技者の技術レベルよりはるかに高い照準映像に設定すると、撃発からフォロースルーに至る過程でミスを犯しがちになるので注意が必要である。初心者にとって10点を“良し”とするのは概ね510〜530点程度に到達した後と考えてよい。570近くのレベルにあるものの“良し”はおおむね10.3程度である。仮に初心者が6点圏を“良し”とした場合全弾そこに命中させるようにしなければならない。全弾命中できれば500点に近いだろうし、8点圏で全弾命中できれば平均点は90点を越え、初心者から初級者へとレベルが上がる。最初に作り上げた姿勢が合理的であることを前提として、このレベルに到達するのに要する期間は1ヶ月〜6ヶ月である。

全弾命中を目指すのは立射の射撃は“外さないように”撃つのではなく、“当てるように”撃つというイメージを重要視しているからである。当てようという積極性がなければいくら銃が止まっても100点の可能性は極めて低い。立射では初心者のうちから当てる意思を継続させるようにトレーニングすることも重要である。

トリガータイミングの良否は得点の良否に直接繋がる技術要素で射撃における全ての技術要素の表現段階と言えるが、上級者にとってはある意味で“射撃競技での本当の射撃の場面”と表現してもいいだろう。明らかにトリガーコントロールだけの失敗で失点してしまう場合(このようなこと稀である)は別にして、ほとんどの場合タイミングの失敗はそこに至る途中の段階の失敗が表面に現れていると表現しても差し支えない。据銃技術・心理的状況・呼吸・照準・体のコンディションなど、どれをとってもトリガータイミングのミスの根本原因になり得る。仮に据銃能力が不足していて、10点でコントロールしようとすると銃が不随意な動きをする場合は、競技者は目標照準映像のレベルを下げるか、据銃能力の強化を図るしかない。勿論後者を選択して欲しいが、トレーニングの過程ではいったんプログラムを後戻りさせることも必要である。


C-8A 据銃練習


 据銃練習とは射撃のトレーニングの中で銃を構えるだけの行為を指す。

据銃練習には二つの段階的目的がある。第一段階は姿勢作りであり、第二は内的姿勢の練磨である。実際には後者の目的が据銃練習の主な目的となり、初心者やシーズン始めにおいては実弾を撃つ前に少なくとも1ヶ月程度の据銃を中心としたトレーニング期間を競技者の射撃のプラットフォームの強化のために設けたい。

内的姿勢の初期段階ではそれほどの集中は必要とせず、むしろテレビを見たり音楽を聴きならでも良いからできるだけ長時間行うことが主題となる。中期以降は筋肉感覚に集中し、その感覚を覚える努力をし、後期では空撃ち練習に入ってゆく。

据銃行為の正確性の判断は基本的には感覚で行う。多くの競技者はアウトプットである銃口の動きのみに気を奪われ、照準映像から来る情報を頼りに銃口を止めることに集中してしまうがそれではこの時期のトレーニングとしては効果があがらない。感覚は常に存在するが、五感は無数に体で感知している情報のうち自分で必要なものだけを意識が選択して感じ取っている。(reticular activating system=網様体賦活系の働き)すなわち、自分の課題となる部位の感覚は能動的に感じとりにいかなければトレーニングを進めてゆくうちに感覚として存在しなくなるのである。足の裏の荷重を一定にしようと思えば常に足の裏の感覚を感じる努力が必要である。最終的な照準映像でパーフォーマンスを判断するのはこの時期では誤りである。



C-8B 空撃ち (空撃ちの時には撃針保護のため薬室に空薬莢を入れる。実包が混入しないように注意!)


 空撃ち練習の目的は、競技者が銃をコントロールできる間に撃発が行えるような技術的タイミングを身に付けることである。従って銃をコントロールできる時間帯がその競技者の据銃に存在しなければ技術練習は成立しない。初級者以下ではその時間帯が外から認識できないほど銃口が動くが、中級者以上は自分のコントロール感覚の中での時間帯と捉えてよい。据銃開始直後から銃を静止させることができる上級者においても、そのコントロールが一番良い時期に撃発できるようにするのがトレーニングの目標である。

 

初期ではなにも目標物を定めず、銃の動きが最も小さくなった時に撃発できるようトレーニングするが、この段階に多くの時間を費やす必要はないであろう。銃口の動きが自分のコントロールのもとにある感覚、銃口の動きがだんだん緩やかになる感覚をつかむ。

中期では標的よりも大きな目標を設置し、なるべくその中心で撃発できるようにトレーニングするが、あくまでも自分のコントロールのもとでの撃発に心がけ、銃口の不随意な動きを観察すれば直ちに据銃を中止する。白紙標的射撃はこの目的で実施する。通常は白紙標的上で一番銃が静止したときに撃発できるようにするが、コントロールが良ければ積極的に白紙の中心で銃を止める感覚で撃発してよい。

 

後期、または上級者の空撃ちトレーニングでは実際の標的と同様の黒点を壁に貼り、それに向って空撃ちを行う。実際に射場にいるようにイマジネーションを働かせると更に有効であろう。各自の技術レベルに合わせて“良し”とする照準映像が自動的に撃発に対する命令となるように技術を自動化するため、最も集中すべき段階である。(一部の上級者についてはC-6C項参照)試合の直前では得点を念頭において撃発コール(予測)を実施する。このときの標的の高さは、実際射場で射撃を実施するとき計測した床から銃口までの高さを基準に決定する。この時期にノプテル等を使用して空撃ち採点射撃を実施することは推奨される。空撃ちで100点が取れた状態を射撃場で表現する方針でよい。


C-8C   グルーピング射撃


 実射練習の初期段階では空撃ちと取り混ぜてグルーピング練習を行う。グルーピングの目的は空撃ち練習に実弾の感覚や反動の要素を加えることであり、あくまでも技術に集中したトレーニングを心がける。このトレーニングでは得点を気にかけることはない。技術の進歩を計るにはグルーピングのサイズを計測する。反動の大きさや方向に問題があれば、セッティングの微調整を行う。 またそのポジションにおける発射時の銃の挙動とその反作用である反動の量や方向の検査もあわせて実施し、ポジションの微調整も実施する。

グルーピング練習として白紙標的に対する実射も推奨される。初期では白紙の範囲で銃のコントロールの良いときに撃発し、反動の方向の確認等フォロースルーにも注目するが、中期以降は白紙標的の中心で銃をコントロールするようにして良い。おなじ白紙標的練習でも段階によって課題は分かれてくるので、トレーニングする内容をしっかり把握しておくことが肝要である。

試合期におけるグルーピング練習ではサイトをゼロイングし、シリーズごとの得点を確認しても良いが、自分のアベレージを下回るときは更に技術に集中できるようサイトをずらす等の工夫も必要である。撃発ごとに弾着を確認する場合は、スコープを覗く前に必ず着弾のコールを実施する。競技中にもコールを実施し、積極的に10点をとりに行く射撃を作り上げていくためにも重要である。








このレベルでは実射してはいけない。(ホビーシューティングの場合は除く)




C-8D 採点射撃


 

採点射撃はトレーニングのなかで最も楽しく、また挑戦性に富むものである。ほとんどの競技者にとって練習とは採点射のことである。学生諸君に今日のグルーピングはどうだったと聞くと、立射で93点出ましたなどと答えが帰ってくる。これは採点射である。期待する答えは、少し高く寄っていたとか、小さかったとか、10点の周りを回っていたとかいった類のことであるのに。

採点射を行うことには二つの大きな効果がある。一つは進歩の結果を確かめ進歩のスピードを増長させることである。今ひとつは停滞しがちな進歩の過程を完全に停止させたり、後退させたりしてしまう効果である。良い経験は進歩に繋がる。良い経験とは10点を数多く撃つことである。自分のアベレージを下回った射撃を100発も200発も続けることは、実は真剣に進歩を願う競技者ほど往々にしてありがちなのだが、自分で自らの技術を低下させていることに他ならず、直ちに中止すべきである。採点射の結果は競技者が自己の評価(セルフイメージ)を固めていく手段でもあり、自らの評価は次の成績を決定する。アベレージを上回っている射撃はたとえ計画量を超えたとしてもなるべく数多く撃発することが練習効果率を高める。週に1〜2回射場に行き、1コース撃って帰るだけではそれはトレーニングではなく、その日の調子を見ているだけに過ぎない。

元来採点射撃とはトレーニングの進歩の度合いを測る手段であり、その形態は競技会と同様に行うことが望ましい。チーム運営では決められた記録会の成績以外評価の対象にすべきではない。現在のナショナルチームの選手評価は、選考会、国際競技会、コーチが指定した競技会、以外の競技会は対象とせず競技者のトレーニングの進捗を個人的に調べる競技会および合宿としている。トレーニングは試合の準備のために行うのであり、トレーニング中の記録は評価の対象にすべきではないし、そうすることで競技者自身が試合に対する準備の訓練を実施するようになる。個人で行っている競技者は、その競技者にとってのローカル試合を採点射として考えるのが良い。ローカル試合は大試合のトレーニング場として利用すべきである。

シーズン初期や初心者の採点射は、その得点よりも技術の完成度に評価対象を設けるべきである。初心者では射撃の内容に集中し、弾着はちらっと確認する程度で充分である。弾着の確認よりもその前に行うべき撃発後の弾着のコール(予想)のほうが大切である。その段階では何点を撃ったかではなく、どのように撃ったかを研究する必要があり、得点だけを追及していてはよほどの才能に恵まれない限り技術に集中することは困難である。どうしても得点が気になる競技者はサイトのクリックを2〜30動かし、標的外にグループを作りそのサイズに注目してパーフォーマンスを評価する。



このページのトップへ